作者と主人公、カウンセラーと会う-3
A「これでも、Hの事件には興味を持っていて、わし個人でも調べていたことなんだが……。Hの
事件について、Hの精神性に入っていく。いわゆるプロファイリングなのだが。さて。一点目」
① Hみたいな真面目人間が犯罪を起こすか。
L「実際起こしているでしょ」
A「まあそうなんだが。ここでキーになるのがいわゆる『良い子』と言うことだ。供述を聞く限
り、Hが『良い子』であったことは間違いない。ところでこの『良い子』だが、誰にとっての
『良い子』なのだろうか。それに『良い子』の定義は」
L「大体、そう決めるのは親とか?」
A「その通り。現在、この国では親の言うことをよく聞く子ほど『良い子』だと誉められる傾向に
あるね。その逆で言うことを聞かないと『悪い子』だと怒られてしまう。子供からすれば誉め
られたほうが嬉しいわけだ。そして親の期待とか、して欲しいことを感じ取り、そういう風に
行動する。そのような性格の子供が一般的に『良い子』だと思われている」
L「大体そうだね」
A「少し大きくなって、親の期待がかかってくる。子供は親の期待に応えようと努力する。ところ
が『良い子』たちは親の過度な期待でも、頑張って応えようとする。応えられなければ親の愛
を得られないと無意識的に感じ、それを恐れる」
L「お受験などで、親に尻を叩かれる子供たちもそうかな?でも、そうなってくると、何かに追わ
れているみたい」
A「まさにそうだ。本来安らげるはずの家でも、たえず緊張しなければいけない。それが、自我が
出てくる思春期になると、親のために我慢を続けている自分に気づく。本来ならそこで親と衝
突して成長していくのだが」
L「その時間が反抗期なのね。でもHにそんなのはなかった」
A「いや、あったはずだ。でも本来真面目な性格のHは、親に反抗できなかった。内心『おかし
い』と思いながらも『良い子』の振りを続けていたのかもしれない」
L「じゃあ、Hは近所でも評判のいい優等生を演じていたということ? 親のために?」
A「かもしれん」
L「でも、親は満足しなかった」
A「Hの成績を聞いたが、悪いわけではなかった。でもHはわしに『私、頭悪い』と言ったことが
ある。親の要求が厳しく、どんなに頑張っても満足してもらえない。そのため、Hの自己評価
は低かった。つまり変な思い込みがあったのだ」
L「ストレスたまりそう……」
A「まさにその通りだ。そのストレスが臨界点にたまって爆発したとき、世間を騒がす事件を起こ
す。初犯が殺人という」
L「Hの場合は特殊だと思うけど」
A「心理的なものは変わらんよ。ただ、HはSの影響を受けすぎている。これが二点目じゃ」




