H、再び回想を始める-4
父親の後ろからは母親が現れました。
母親は白い目で私を見ていました。
口元には侮蔑した笑いが浮かんでいました。
私はなんと答えていいか分からず、黙って彼らを見つめていました。
「このごくつぶしが! 私たちがお前のために、いったいどんな思いをしてきたか分からないのか! こうならないためにも勉強しろといってきただろ! あんな会社にしか入れなかったのは、お前の努力不足が原因だろ! 部活やりたいだの、わけの分からんことばかり言ってるからこうなるんだ! 自分だって頑張っているとでも言いたいのか! 立て!」
父親は私の髪をつかみ、部屋の外に引きずり出しました。
母親はその光景を見て、ため息をひとつついただけでした。
「部屋に閉じこもっていて、何の解決になるか!」
「そっちだって、リストラされたくせにっ」
「何を!」
次の瞬間、私の頭に痛みが走り、意識が少し遠くなりました。
壁に頭をぶつけられたのです。
「自分のことを棚にあげて、なにをいっとるか!」
「お父さんに向かって、なんてこと言うの? 私たちがあなたに援助すべきことは既にやったのよ。あなたにはもう必要なものなんてないでしょう? 甘えたこと言っているんじゃないわ」
「いいか! 周りは結果よりも過程が大事とか、頑張ることに意味があるとかいうが、一番になれなければビリと同じだ!」
「私たちが今まであなたのために、どれだけのことをしてきたと思うの? 小学校のころから、あなたの横について勉強を教えたのに、それをあなたは無駄にするの? あなたはやれば出来るの。やらないだけ」
「結局は怠けているんだ。色々と理由をこじつけ、楽しようとしているんだ。みんな苦労しているんだ……」
私はブレーキを踏んだ。
回想がくっきりと見えるようになってきました。脳内だけで処理が出来ず、視界が薄れていき、自分でも分からないうちに、自発的に思い出そうとしていたのかもしれません。
車の前に人がいて、私は危うく轢きそうになりました。実はそのときでも、回想が続いていて、同時に頭もジワジワと痛み出してきたのです。
私は車から降りました。
轢きそうになったのは一人の老人男性。
「大丈夫ですか?」
ミンナシヌキデヤッテルンダ!
私は首を振り、回想を中断しようとしました。老人男性は立ち上がろうとしています。
あ、別の回想まで……。
老人男性は立ち上がり、私に何か言ってきましたが、何も聞こえません。




