H、再び回想を始める-3
私が引きこもったのは、Sの人質になった後だけではないのです。
そのときは二度目。
一回目は最初の会社が倒産したとき。
私は再就職の活動もせず、部屋に閉じこもっていました。
私と姉はそれぞれ個室を与えられていました。
その自室に私は鍵をかけ、食事もとらずにいました。
いやになっていたのですね。
あの親たちにうるさく言われるのが。周りのよく知らない連中にぺこぺこし、彼らの顔色を伺いながら、行動を起こすのが。
こんなことを口にしたら、なんて言われるか。
そういうとき、こんなことをしていていいのか。
周囲は、私を見て笑っていないか。
私は周囲に笑われるようなことをしていないか。
誰か、私に隠れて陰口をきいていないか。
私は仕事をうまくやっているか。
失敗が後になって発覚しないか。
そのせいで私が解雇されないか。
そもそも、私は人付き合いが苦手なのです。
友達や彼氏がいなくて寂しくないの? と聞かれることがありますが、ないです。
寂しくなんかない……いや、みんなが何か楽しげにしていれば、自分ひとりがポツンと取り残されたみたいで、それはそれで不愉快です。
しかし皆様、あまりにうるさくありませんか?
Sさんのように、自分は一人でも大丈夫だ、と言い切る自信が私にはない。
でも、どうせまたからかわれたり、馬鹿にされたりするのだろうなと思うと、人の輪の中に入っていきたくはないのです。
自室には机と本棚とクローゼットぐらいしかありません。
殺風景な部屋だと思っています。
でも、私は部屋の中でじっと本でも読むほうがいいのです。
ある日、その鍵が壊されました。
両親が力を合わせて扉を突き倒したからです。その結果、鍵もちょうつがいも壊れました。
「H!」
父親は壊れた扉を乗り越え、私につかみかかると、ものすごい勢いで私の頬を叩きました。悲鳴を上げる暇もなかった。
「何考えているんだ! お前はニートにでもなる気か!」




