里緒の調査-3
父「Hの運動神経と社会性では、下手に部活に入ったら本人が惨めな思いをするだけです。私はH
に、惨めな思いはさせたくなかった」
L「それでは、いつまでたってもHは成長しませんし、勉強ばかりさせたって、生きていくに
は……」
母「それは氷高先生が弁護士だから言えるのです」
L「私は弁護士ですが……イメージの良い仕事に就けば、幸せな人生だと?」
母「でも惨めにはならないのです。確かに言い過ぎたりしたこともあるかもしれません」
父「けど、それは子供たちのためなのです。もっと上へ、もっと上へと親というものは子供たちを
支えていくものです。時々親の顔を踏んづけて、下に落ちていく子供もいますけれど。私だっ
て、あんな信金なんかに勤めたくなかったですよ。頑張れば、もっと」
L「話を変えます。Hには友達がいなかったと聞きますが」
母「そんなことはありません」
父「そうです。友達はいました」
L「そうですか。そういうことにしておきます。でも、さきほど話下手で社交性にかけるという話
も」
父「昔から人見知りでしたから。おとなしかったし」
母「姉はそうでもなかったのですけれど。でも、そういう社会性等は学校に行っているうちに身に
つくものなのではないですか? 学校という社会で、他人と接していくことで社会性が自然と
身についていくものです。テストの点だけをあげたければ学校なんかいりません。引きこもっ
て毎月送られてくる教材に取り組めばいい」
父「Hは姉に似ず、おとなしかった。少しでも姉に似ていれば」
L「大学にいけなくなったとき、どうでした?」
父「すまないと思いました。年収が一気にゼロになり、再就職できるか分からない。生活できるのか不安でした。Hにはすまないと思いつつ、協力して欲しかった。大学に合格しても、生活できなければ意味がありません」
L「奨学金があります」
父「それだって、借金の一部でしょう? Hが働いて返さなくてはいけません。それに子供が減
り、大学が増えた。大学へは入りやすくなった。それだけに、入った大学が重要になった」
母「三流大学では、仕事がありません。高校を出て働いたほうがましです。でも……」
L「引きこもり、ですか?」
父「はい」
母「まさか、と思いました。引きこもりが激増し、社会問題になっていますが、うちに限って」
L「始まりはどういう状況で?」
母「Hの会社が倒産した後、突然部屋に鍵をかけて出てこなくなりました。声をかけても返事はな
くて」
父「大学にいけなかったことをすねているのかと思いました。精神科医の先生にも来てもらい、数
年後なんとか立ち直りました。その後コンビニのバイトを始めました。Sが立てこもったあのコンビニです」
L「コンビニの仕事はどのくらいの間続きました?」
母「四~五年ほどです」




