発端 1-7
「ふふふ。そうですね、私、何を怖がっていたのでしょう。こんな連中、簡単に殺せる。あなたの力をもらったんですから」
「何言ってんだ、コラァ!」
一人が殴りかかってきた。軽くかわすと、首に腕を巻きつけた。男の体に勢いが残っていて、反撃にはすぐに出られなかった。Hは男の首筋に腕を食い込ませると、軽く跳躍、そして体をかぶせるようにして男の首に横から力を加えながら、地面に倒れこむ。
このときも、さっきと同じ異音がした。それは腕をつたって自分の体にも響いた。
Hが立ち上がったとき、残る四人の男たちは彼女を囲み、遠巻きににらんでいた。
それを見てHは笑った。
「あはは、何? 何なの? 私が怖いの」
「なめんな!」
「あっはっは。無理しない無理しない。あなたたちが私にかなうわけ、ないですもんね」
一人が近くにあった鉄パイプを握った。彼に向き直り、人差し指を立てて招く仕草を見せる。
三人目は鉄パイプを振り上げてかかってきた。だが、それよりも早く指を突き出し、三人目の目を突く。
中指と薬指が三人目の両目に深く刺さった。
「あ、ああっあああああ!」
三人目は痛みのあまりに悲鳴を上げ、鉄パイプを放す。Hも指を抜く。彼は両手で両目を覆い、のた打ち回った。
チリ、チリ、と頭にかすかな痛みが走った。
引きこもり、誰からも必要とされていない日々が思い出された。自室に引きこもり、誰も尋ねてこない。
外界も、自分をいらないと暗に言っているようだ。
親も三食の料理を運んでくる以外に話しかけてこなくなった。
出ていこうにも、勇気が出ない。
一生閉じこもっただけの生活。出ようと思うことがある。いや、出たいと強く願い続けたこともあるが、体がどうしても動いてくれない。
頭を振る。思い出を消す。
鉄パイプを拾い、三人目の頭に振り下ろす。うわあ、と悲鳴が上がり、三人目は頭を庇う。もう一撃と鉄パイプを振り上げるが、別の方向から声がした。
「やめろ、コラァ!」
リーダーだった。ナイフを取り出した。確か、発売禁止になったダガーナイフでは? と首をかしげた。
「いい加減にしろ、ぶっ殺してやる!」
「やってみろ」
差し出されたナイフを鉄パイプで叩き落し、リーダーの首をつかむ。そしてHはリーダーに自分の額をぶつけた。髪をつかみ、リーダーの鼻の頭を下に向け、同時に膝を蹴りあげた。膝に生温かい液体がこぼれたような感触があった。パイプをリーダーの首に押し当て、倒した。それからパイプで頭を殴る。何度も、力任せに振り下ろした。
「ああ? どうだ、痛いか!」
リーダーが手で防ごうとしたら、襟元をつかみ激しく揺さぶる。相手の鼻面に頭突きを食らわせたり、口の中に鉄パイプを突き入れた。リーダーは鼻と口から大量に血を流した。
Hは怒鳴りつけていた。
「なめたまねしやがって! 私に何をしようって?」
リーダーを起こし、下から鉄パイプを振り上げた。鉄パイプはあごを打ち抜き、リーダーを直立に近い姿勢を取らせた。Hは三人目をにらむ。三人目は動かなかった。そんな三人目に向かって、Hはリーダーの襟首をつかんで突き出した。
「おい、小沢……」
三人目がリーダーを支えようとした。しかしその前に、Hは鉄パイプを振り下ろした。リーダーの頭からピュッと血が噴出した。
三人目はリーダーに近寄りすぎていた。リーダーの鮮血を浴び、呆然として立ちすくんでいた。リーダーを支えようとして伸ばした手はそのまま。
「私が誰なのか、わかっているのかぁ! この、腐れレイピストォ! オラ、どうした、死ね!」
鉄パイプは短いモーションで振り下ろされた。