表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
L3 killing of genius "H"  作者: 迫田啓伸
66/345

H、回想を始める-5

 思わず私はスーツを手にとりました。それだけでなくブラウスも、靴も。

 財布の中身を確認する。昨日殺してきた連中から金を取ってきていたのに、いくらあるのかわからない。が、何枚も折り重なっている札束を見て、自分の相好が崩れていくのを感じた。

 この他にも、着替えなど色々と買った。


 一階に降りる。メインの食品売り場から少し離れた所にベンチがあり、その近くにちょっとした店があった。アイスクリームとかジュースとかを売っているカウンターでした。

 二階の店員の様子からだと、みんな、まだ私が何者か分かっていないようです。

 ここでも、閑古鳥が鳴いているようです。カウンターの向こうの茶髪のバイトらしき女性は退屈そうに座っていました。

改めて店内を見てみました。夕食の買い物をしている主婦たちのほかに、来ている客といえば私ぐらいのものでした。

 よく考えてみれば、シャッター商店街の中にあるデパートです。営業しているだけマシではないでしょうか。

「あ、あの……」

「いらっしゃいませ」

 言葉をかんでしまった私に対し、店員は明るい声で返事をしました。私も、スーパーでレジ打ちをしていたので、店員の接客には好感が持てました。

「ソフトクリームの、バニラをひとつ」

「少々お待ちください」


 そういえば、私は家族でどこかに行った記憶はありません。

 年末年始も私立受験で勉強のために、ずっと家にいた記憶があります。

「大晦日や正月だからといって、気を抜くのはいけない。周りはみんな努力しているんだ。一日でも気を抜くと、後で苦労するぞ。これはお前たちのために言っているんだ」

 お前たち……私と姉のことです。

 父はよくこんなことを言っていました。

 母も似たようなことを口にしていました。

 両親のどちらも、若い頃から勉強してきて、それなりの地位に着いた人です。

 自分の人生経験に基づいての発言でしょう。

 そして、自分たちの主張は間違っていないとの自負があったのかも知れません。

 子供の頃から受験のための勉強をさせ、いい中学、いい高校、いい大学へ進めば、いい職場に入れる。職場では、女性は男性に比べて出世しにくい。となれば当然、給料も男性のようには上がらない。

 当時は年功序列。定期昇給があり、待遇で男女に差があるのは当たり前。

 それでも、いい会社に入れようとするのは、それなりの男性に見初められ、いい縁談があるかもしれないという理由。保守的ですが『女性は家庭に入るもの』というの。

 それが、両親が生きてきた時代の常識だったわけです。

 なるほど、変な会社に就職して、どこの馬の骨とも分からない……例えば『S』のような……男に娘を嫁にやり、娘が不幸な生活を送らないために、ということなのかもしれません。


 私の奥歯がガリッと鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ