H、回想を始める-1
学生時代、私の格好は地味なものでした。
違反のない制服。
結んだ髪。
びん底メガネ。
がり勉みたいに見えますが、外見だけです。
成績はどんなに勉強しても、平均点を少し上回る程度でした。
運動は出来たか……まったくです。
姉は勉強もスポーツもそつなくこなしていたのですが、私はそのどちらもダメでした。
まぶたに強い光を感じる。
目を開けた。
車の中だ。車を動かさないまま、また少し眠ってしまったらしい。
体を起こし、背筋を伸ばす。
誤って手がバックミラーに当たってしまった。直そうと手を伸ばしたが、そのとき、鏡に私の顔が映っていた。
なんて、不細工な顔……。
目を背け、バックミラーを直す。
後部座席には昨日の雨で濡れてしまった服が、そのままになっていた。
「服でも、買おうかな」
奪った金は結構な額だったはずだ。
ガソリンもたくさん入っている。
着替えや食料は近くの店で購入するしかない。それと、コインランドリーがあれば、服を乾燥させられる。
道はわからないが、このまま進んでいけばどこかにつくだろう。途中で警察に捕まっても、逃げ出す自信はある。
ふと思い立ち、私はバックミラーを見た。
「髪形も、変えてみようかな」
目元まで伸びた髪を手櫛でかきあげた。
染めたことも脱色したこともなければ、元々それほど艶があるとは思えない。そして、邪魔にならないように適当に結んでいただけの髪。
でも、いざとなったら、どんな風にしようか、まったく思いつかなかった。
車を走らせ、その町を走った。
不気味なほど人の姿を見なかった。今、この町の商店街を走っているはずなのに。
初めは道がわからなかったということもあるが、走っているうちにわかってきた。
商店街の、軒を連ねている店がことごとくシャッターを閉めているからなのだ。
この町は私も聞いたことのある場所だった。
高校時代はそれなりに知名度のある場所だと思っていただけに、実はそうでもなかったらしい。
世間知らずだったのだ、私は。
地理の授業で世界のことを勉強した所で、地元の福岡県のことすら知らない私は、世間知らずと罵られても仕方ないだろう。
それにしても、店という店が閉まっている。
本当なら開いているはずの本屋や、八百屋、肉屋など食品を売っているはずの店もシャッターが閉められている。
開いていなければ、色々と不便だろうに……。
地元にも、似たような商店街があり、私がもう少し若かったときは、まだ賑わいがあった気がします。




