発端 1-6
その後、急に体に力がみなぎり、今までの疲れや痛みなどは、きれいに消えていった。
Hを囲んでいる六人の男などは敵ではなかった。
彼らに対する怒りが湧き起こるのと同時に、恐怖は消え去った。彼らはたかが小物だった。そんな連中に痛めつけられるいわれはないと、反撃に転じた。
どう動くかは考えなかった。
こうしようと思えば、体が勝手にそのように動いてくれる。錯覚だとしても、それが現実となる確信めいたものがあった。
今井刑事が身を乗り出した。
「それで、やってしまったの?」
「そうです」
まず一人目の首に噛み付き、喉をつぶした。それでもまだ生きていた。そこで体を抑えている全員に拳や蹴りを叩き込み、拘束が緩くなるのを待った。
少しでも緩むと強引に手足を動かし、その上で、一人目の髪をつかんで、車の外に引きずり出した。そしてドアで首を挟み、ねじった。異音がした。
ここが工事現場だと思い出した。ついてる、とHは思った。
「この女!」
男たちはいきり立って車から降りる。なぜこんな連中に怯えなければいけなかったのか、まったくわからなかった。
ためしに中指を立ててみた。
体中に力が湧いてくる。どれだけ暴れても、体が疲れて動かなくなりそうにはなかった。
「ふふふふ」
笑い声が出た。
このとき、今井刑事は思わず身を引いた。