作者、テープリライターを続けてしまう-1
「ただいまーっ」
里緒が帰ってきた。
俺はMDを繰り返し聞き、聞き取れなかった点や間違いを探している最中だった。
振り返ると、彼女は両手に大きなスーパーのビニールを持っていた。帰りに色々と買ってきたらしい、食材とか。
「つかれたーっ」
と、それほど疲れてそうにない張りのある声を出して、スーパーの袋を置いた。
もう六月も半ばになり、日々暑さも増してきた。
いつもはスーツを着ている里緒も、今回はTシャツの上に薄手のワイシャツを羽織っていた。
俺はMDを止めた。
「大体書けた」
「そう。じゃ、次はこっちかな」
まだあるのか。
里緒はMDプレーヤーから中身を取り出すと、里緒が別のMDをくれた。
「まだあるの?」
「今度のはね、Sを射殺したSAT隊員と会って来たの。それから、Hの同級生とか、バイト先の人の話とか」
「忙しかったのか」
「ちょっとね。普通の弁護士の仕事もあったし。飲む?」
里緒は袋からパックのコーヒーを取り出し、ドン、と俺の目の前に置いた。さらに、迫田君はこっちかな、とペットボトルをコーヒーの隣に置いた。ブルーベリージュースで『目に優しいアントシアニン配合』と書いてあった。目にいいのは本当にアントシアニンだったかは覚えてない。
そんなことより、俺はSAT隊員の話を聞きたかった。
S射殺の際は俺もニュースで見ていた。俺だけでなく、日本中の人が見ていたことだろう。正確な数字は分からないが、かなりの視聴率が出たらしい。ちなみに、どのチャンネルを回してもそれしか映っていなかった。さらに、その後数日間はSの特集が組まれ、号外も配られた。
里緒が俺の向かい側に座り、MDをよこしてきた。
ご存じない人のために解説しておこう。
SATとは『Special Assault Team』の頭文字をとったもので、特殊急襲部隊と訳される。国内のハイジャック事件やテロ事件などに出動する部隊である。
SATが出動した事件で記憶に残っているものといえば、少年による西鉄バスジャック事件。発光グレネード弾を使ってバスに突入した部隊がそうである。
近年では、愛知県で起きた人質立てこもり事件。この事件でSAT隊員一名が殉職している。
編成されている地域は東京、大阪、北海道、千葉、神奈川、愛知、沖縄そして我らが福岡県警である。
以上、俺は里緒から聞いた。興味が出た人は、各自で資料を探して調べて欲しい。




