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L3 killing of genius "H"  作者: 迫田啓伸
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H、事件の日を思い出す-1

 二日前のことだと思います。

 私はスーパーの仕事を終えて家に向かっていました。

 交通量も少なく、いつも歩いている慣れた道。

 そこへ、ある車が来たのです。来なくていいのに……。

 そして私に、中の男たちは声をかけてきました。

 私は驚いて、逃げました。でも、人間の足で車から逃げられるはずがないですよね。そうでしょう? SFじゃあるまいし。


 両腕をつかまれ、腹部を強打。息が止まり、頭が一瞬真っ暗になりました。そんな状態で体の中に鈍い痛みがはっきりと残っている状態。

 学生時代、なんの謂れもなくお腹を叩かれ、苦しがっている私を見て笑っている人たちがいましたが……。

 それに、×ゲームと称してやられたことも思い出しました。

 一人が後ろから私を羽交い絞めにして、もう一人が殴るという。打ち所が悪く、気絶しそうなほど痛くて、でも

「あ、ゴメーン」

で、済まされました。強く言ったら相手も強く出て、集団で私一人を袋叩きにしてくる。

 それでも、私なんかを相手にしてくれる人たちは、その人たちだけでした。

 今思えば、情けない話です。

 メガネをなくし、襲ってきたのがどんな人たちか、わからなかった。いや、恐怖で身がすくみ、頭が何も感じなくなっていたのかもしれません。涙があふれ、為されるがままでした。

 それが引き金でした。

 水中にいるみたいに息苦しく、手足を鎖で縛られているみたいに四肢の節々が痛み、体の隅々まで覗かれているみたいに恥ずかしく感じ。

 SFに出てくるような、ヌメヌメギトギトドロドロの粘液にまみれた触手が体を這い回るような不快感で一杯でした。

 その一方で怒りや憎しみの情念が渦巻き始めました。

 どうして私が?

 怖くて開けられなかったはずの目が開く。

 私は、何か悪いことをしたのですか?

 薄ぼんやりとして車内、その中で下卑た薄笑いを浮かべて私を見下ろす男たち。

 この人たちはなんなのですか?

 緊張し自分の意思で動かせなかったはずの、指先が動く。

 この人たちだけじゃない、社会にとって私は何なのですか?

 体の上を這い回っていたはずの触手が、人間の腕に変わった。

 部屋からやっと出られて、真面目に働きだしたのに。正社員ではなくパートだけど、私はどこにも出られないのですか?

 自分の呼吸音が聞こえる。


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