Sの回想をHが語る-4
夢を見ていたようです。
まぶたに光を感じました。
私は顔を横に向けて、光を避けようとしていた。しかし、すぐに眠気はどこかに消えてしまいました。
目を開けると、見慣れない景色が見えました。
車の中。そして私は座席のシートを倒して眠っていたようです。正面から太陽の光が差し込んできます。六月の、梅雨明けの朝日です。金色に光る光線がフロントガラス越しに私の顔を照らしてきます。
どうして私はこんな所に……。
思い出した。
昨日、この車を奪って逃げ、そして、そのまま当てもなく走って、眠ったのでした。
体を起こす。
昨日着ていたはずのスーパーの店員の制服ではなく、所有していなかったはずのピンクのポロシャツを来て、薄茶色のチノパンを履いています。
後部座席を見ると、スーパーの店員の制服と、婦警の制服が乱雑におかれてありました。
「夢じゃなかった」
車を止めた場所は新興住宅地の開発予定地だと思います。
土地がきれいに区分けされ、遠くには一軒家が立ち並ぶ所もあります。
私が車を停めた場所はまだ整備段階の区域でした。
草の生え放題の土地が車窓から見えたます整備をしようにも、不況からの予算不足で一時中断しているようでした。
昨夜の雨は止んでいました。
車から降りて背伸びをしてみました。背
筋がほんの少し悲鳴を上げ、コキコキとかすかに音を立てる、が、それがまったく不快ではなありません。
外の空気はうっすらと湿り気を浴びていました。
でも肌がべたつくとかいうことはなく、とてもさわやかなものでした。
両手を見た。昨日までとなんら変わっていない。
「現実なんだな」
その手は昨日、何人もの人間の命を奪ってきました。
この車に乗っていた五人組も、自分でも信じられないほど、あっさりと、簡単に、死んでしまいました。
あんなことが、この私にできるとは思わなかった。
殴ったときに拳に衝撃として伝わる骨の硬さ。両手で絞め上げ、首が折れたときの歪な感触。罵声、哄笑を投げつけたときの相手の表情。そして、射殺した直後の、人の倒れる様まで。
現実だとわかっています。全て私が一人でやったこと。世間一般では絶対にやってはいけないことだと。
でも、殺しの瞬間、そのことは頭から消え去っていました。
しかし今、私は自分がどれだけの事をしたのかも、理解できていないのです。
車内に戻り、座席を起こす。
後部座席に再び目を向けると、服と共に銃と警棒、手錠が確認できた。やはり夢なんかじゃなかったんだ……。首をたれ、息をついた。




