Sの回想をHが語る-1
第二部を開始します
「Hさん、ごめん」
その人は私を後ろから抱き、耳元でささやきました。
冬だったので空気が冷たく、私たちの息も白くなっていました。私たちに眩しいほどの照明があてられ、目も開けられない状態でした。
首元を擦るかのように、その人の声が流れていきます。
私はその人の手を握りました。
ガサガサの皮膚、何もかも諦めてしまったかのような、そんな気持ちが伝わってくるような固い角質。
でも、暖かかった。
鼻をすすり、乱れそうな息を整えます。
私は、その人と一緒にいて……初めのうちは怖かったのですが、実際はそうでもなかった。すごく話し易かった。話すうちに、私もその人もたくさん笑うことができました。
でも、その人とはもう会えないでしょう。
私の目頭が熱くなりました。
私の前方、距離はありますが、そこにはたくさんの人がいます。警察の人です。SATというのですか? 彼らは私たちに銃を向けていました。狙いはその人です。
外の寒さはまったく感じませんでした。テレビカメラも向けられていました。
「何か聞かれたら、俺のことは好きなようにしゃべってくれ。極悪人にしてくれてもいい。だから、行って。絶対に振り向かないで。もう、俺のことなんか気にしないで、Hさんのいつもの生活に戻っていって」
「コンビニでのことは正直に言います」
「ありがとう、俺は最後に、君に会えてよかったと思っている」
「それなら、よかった……」
「さようなら、Hさん」
Sさんは私から手を放しました。私はSATに向かって歩き出さなければいけません。私は自分の歩みを一歩一歩踏みしめるように、歩いていました。そしてもう少しでSATの前に出るところでした。
SATは、銃を私に向けました。そして発砲。一瞬、何が起きたかわからず、私は立ちすくみました。
「はっ……!」
振り向くと、Sさんは撃たれ、倒れてしまいました。
照明のおかげでよく見えました。Sさんは血を大量に流し、倒れたまま動きませんでした。
Sさんは死んだ。
ひどい、話すって、全て話すって言っていたのに!
弾丸が私のすぐ横を通り過ぎていくのを感じました。弾丸が倒れたままのSさんの体に当たり続けました。
銃撃の音にも耳が慣れてきました。SATは、Sさん憎しとばかりに射撃を続けました。




