Hが狂い始める-6
四人目が来た。
持っていた警棒を横になぎ払う。
警棒は四人目のこめかみに当たった。
倒れた男を尻目に、今度は三人目に警棒を振るう。
時計の振り子のように三人目の横っ面を叩く。
ゴンという音が立ち、口から白いカケラが飛ぶ。
その上で、足を踏み下ろす。足が鼻と口を押しつぶした。
三人目は顔中を血で汚し、もだえていた。鼻はつぶれて折れ曲がり、口の中に歯は見えず、頬骨も微妙に変形している。
「おきろっ」
髪をつかみ、三人目の上半身を起こす。
「おいやめろ。もういい、俺たちが悪かった。だからもうその辺で、やめてくれぇ!」
「人に何か頼むときはね、もっと丁寧に言うものよ!」
言葉が終わらないうちに、自分の全体重をかけ、三人目の頭をアスファルトに叩きつける。再び引き起こし、叩きつける。
四人目は土下座し、声を張り上げて哀願した。
「お願いします。やめてください。それ以上やられたら、死んでしまいます。お願いします!」
「ダメ!」
無下に言い放ち、三度起こすと警棒を捨て、今度は両手で顔を持ち、指を広げて固定。そして、またも体重をかけ、三人目の後頭部を叩きつける。三人目の腕が力なく落ちた。
四人目は呆然と見ていた。
警棒を拾って立ち上がり、四人目をにらみつける。四人目は怒りもせず、かといっておびえも見せず、驚きの表情のまま、その場にひれ伏して様子を眺めていた。
「ひでえ。ここまですることない……。謝ったじゃないか! なのになんで殺すんだよ! 俺たちが何かしたのかよ!」
「どうせ後で『このことをばらされたくなかったら、言うことを聞け』とか言って、私をゆする気だったんですよね? どんな友達だって、弱みを握ってしまえば、上下関係が出来て、いじめに発展してしまう。それに、私は初めから許す気なんかなかったの」
四人目は逃げ出した。手錠を投げつけた。手錠は四人目の背中に当たった。四人目は倒れ、自分もすぐに追いつくことができた。服をつかみ、拳を握る。四人目がこっちを向く。四人目が腕を振ってきた。とっさに引き下がった。四人目の手には石が握られていた。
「はあ、はあ、死んでたまるか……」
四人目は目を血走らせ、石を振り回してくる。
その動きは緩慢で、避けるのはそう難しくなかった。
「うおおお」
「この……」
警棒を握り締め、隙をうかがう。
四人目が大振りし、バランスを崩した。
そのときを見逃さなかった。
まず四人目の股間を蹴り、警棒で手を叩いて、石を放させる。四人目は短くうめき、足を止める。痛みで目を自分から逸らしている。
自分は警棒を思い切り振り下ろした。
警棒は四人目の額を割り、森の入り口に突き倒し、地面に伏せさせた。そのまま覆いかぶさり、警棒を繰り返し振り下ろす。四人目の悲鳴と同時に、手に痺れが伝わってきた。
足元に手ごろな大きさの石があることに気がついた。
かなり大きな石で、両手でないと持てないほどだった。
どうして、こんな石があることに気がつかなかったのか、まったく不思議だった。
夜で視界が利きにくいことと、痛めつけることしか考えていなかったから、見逃していたのだろう。
それはおそらく四人目も同じだった。
自分からなんとか逃げるのに必死で、それどころではなかったのだろう。
以前なら持ち上がらなかったであろうその石を、今、自分は持ち上げている。
「そんなに石が好きなら、これでも食らわせてあげるよ!」
そして、それをうずくまっている四人目の頭めがけて、投げ落とした。




