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L3 killing of genius "H"  作者: 迫田啓伸
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Hが狂い始める-4

「そんなこと信じている人が、いると思っているんですか?」

「そうだよ。今は結果がすべてじゃん」

「どんなに頑張ったって、ダメなものはダメなんだよ」

 生徒たちからの反論に絶句していた先生は、教室全体を見回した。

 教卓に両手をつき、息を吸う。

「静かに! 何がダメなものか! それなら、Hではない誰かが話し合いにいけば、もっと違った結果が出たというのか! Hを出したのは皆だろ」

「それはもう終った話ですよ」

「では聞きますが、頑張ることが大切なら、どうして毎日一生懸命頑張っているサラリーマンがリストラされるんですか?」

「派遣切りだってそうだよ。頑張ったって、不景気になれば首だなんて、やってられないよ」

「頑張りが大事なんて、そんなこと言ってたら受験なんか必要ないよ。頑張ったって、落ちるときは落ちるんだから」

「成果主義なんですよ。先生と違って、これからは頑張ることが大寺ではなくなるんです。そういう時代なんです」

「あと一歩のところで手が届かず、悲劇のうちに終るなんて流行らないんだよ」

「先生の言っていることは理想論です。頑張ることが大事といいながら、社会で求められるのは結果です。これが現実なんです」

 先生は両手の平で教卓を叩いた。

 生徒たちは一斉に口を閉じた。

 そして先生が「何を言うか!」と一喝。騒々しかった教室は水を打ったように静まり返った。

「それでは、結果が出なければ、それまでの努力は無駄だというのか? 目標にあと一歩手が届かないのは、努力が足りないからか? お前たちが今まで出してきた色々な結果は、他の人から見ても満足のいくものばかりか? それなら、失敗するとわかっている努力はしないほうがいいのか? 確かに、努力したからって、全ての者が成功はしない。だが、世界で成功している者は、誰も例外なく努力している。人並みではなく、人の何倍もの時間を費やし、努力を続けているんだ。話がそれたな。今回のことは、皆には気に食わなかったかもしれない。でも、Hだけを責めるのはお門違いだ。一人のミスを皆で埋めあう。それを学ぶのもこのイベントでの課題なのだ。とにかく、Hを責めるのはもう止めなさい。いいね」

 生徒たちは誰もがうつむき、先生と顔を合わせようとはなかった。

 そして、これからのことについてクラスで話し合った。

 しかし、わかっていた。

 ドラマならこれで解決する。

 そうシナリオに書かれているからだ。

 休み時間になった。先生は職員室に戻っていった。

 自分の席に座っていると、他の生徒たちから腕をつかまれ、後ろの席につれてこられた。

 別の生徒の席に無理矢理座らせられ、周りをぐるりと囲まれた。部活のエース。成績優秀者。クラスのムードメーカー。リーダー的存在。不良な生徒。

「さっきので終ったと思ったの?」

 クラス全体から囲まれ、逃げ場が無い。

 当然、反論する余地なんか見つからない。

 そして、休み時間中ずっと、次の自習時間にも延長でクラス中から文句を言われた。

 色々言われすぎて、具体的な言葉は覚えていない。

 そして、先生の言ったとおりクラスで一致団結して、という風にはならなかった。

 自分がどんなに手伝ってと哀願しても、他の奴らは無視してさっさと帰ってしまった。

 結局誰も手伝ってくれず、一人で展示物を作った。出来は、良くなかった。

 当然といえば、当然の話だ。

 先生にはこの件を相談できなかった。すれば、もっとひどい目に合わされるとわかっていた。親にもだ。

 理由を話すのは自分がどんな目にあったか思い出さないといけない。思い出すと辛いことを再現しているような気がしてくる。

 それに

「長い人生のうちで、たったそれだけの短い時間なんだから、将来のためにも我慢しなさい」

と、言われるのがおちだ。実際に言われたこともある。

 準備期間中はどうしても遅くなり、親に怒られた。

 理由を話しても、別の人の任せて帰って来いと言われた。

 それが出来るならとっくにやっている。

 クラスと親との板ばさみになってしまった。自分が何も言わなければ、それが一番時間のかからない、一番丸く収まる方法だった。


「おい!」

 その一言で回想は終わった。


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