H逃走-5
いつの間にか眠っていた。とはいえ、うたた寝みたいな浅い眠りだった。雫が頬に一滴落ちてきただけで目を覚ました。
顔を上げた。
まだ夜は明けていない。
しかし雨は上がっていた。くしゃみが止まらず、ぬれた服が冷たい。足元には水溜りが出来ていて、足がそこに浸かっていた。
ため息をついた。
それから、再び時間が経った。
何もせず、ただ無為の時が過ぎていくのには慣れていた。
ふと、自分の正面の、かなり遠い所で何かがキラッと光ったように見えた。
顔を上げた。目の前に広がるものは今までと同じ真っ暗闇……いや、小さな光が点滅しているように見える。
手のひらで顔を流れる水滴を払い、目を開く。
点滅していると感じたのは、森の木々が光をさえぎっていたからだった。
自動車のライトだった。一瞬、光が直接目に当たり、まぶしかった。そして、すっと左側に流れた。
再びこの場は闇に戻った。
しかし、今度はさっきまでと違う。
正面に歩いていけば車道に出る。
立ち上がり、ゆっくり足を踏み出す。車道の方角はわかったものの、視界が悪いことは変わらない。
捕まるかもしれない。
しかし、この場にはいたくない。
大丈夫。絶対に自分が逮捕されることは無い。そのような自信めいたものが心のそこから沸き起こってきた。
水溜りを踏んで水しぶきを立てたり、草を踏みつけたりしながらも、光が見えた方向に進んでいく。光が消える寸前、左に流れた。車はこちらに向かい、途中で右折したのだ。
少しずつ歩みが速くなる。
「あらっ……ぷ!」
何かにつまずいた。受身を取ることも出来ず、泥水の中に顔を突っ込んでしまった。その水溜りは面積が意外と大きく、今ので顔だけでなく全身が濡れてしまった。雨に濡れっぱなしだったので、いまさらという感じだったが……。
起き上がり、髪に付着した落ち葉を取る。
大体一時間ぐらいだろうか。
森を抜け、車道に出た。
外灯が妙にまぶしかった。
自分の真正面には坂がある。
その坂を登ると右へ曲がるカーブがある。
振り返り、見上げると急カーブに付き物の鏡が設置されていた。
先ほどの車の行った先に行ってみようと思った。
空には厚い雲が立ち込めていたが、その裂け目から満月が顔を出していた。
風が生ぬるかった。
服の湿り気はまだ乾いていないが、身震いは止まった。




