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L3 killing of genius "H"  作者: 迫田啓伸
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H逃走-2

 とっさに左拳を握り、真横に振った。

 隣の婦警が眼を覚まし、無線に出た。

 拳は婦警の鼻の頭に当たった。女性警官は無線の送話機を落とした。無線からは迎刑事からの呼びかけが続く。

 戸口巡査、どうした? Hが乗っているのか! 応答せよ!

「はい、乗っています! 私の隣に乗って。あっ!」

 戸口巡査は悲鳴を上げた。

 無線の声がかき消された。銃を抜き、戸口の膝を撃ってやった。

 遅かれ早かれ始末するつもりだった。それにしても、なぜ、彼女をこんな所まで同乗させてきたのか、まったく理由がわからなかった。

 無線から声が聞こえてくるが、何と言っているのやら。

 ただ、自分としては戸口に隣で叫ばれるのは、うるさくてかなわない。

 左手に銃を握ったまま、グリップで顔を叩き、その後、傷口に左手を振り下ろす。

 もちろん、前を向いて、アクセルを踏み込んだまま。

 膝の骨は銃で砕いた。

 その上から叩かれたら、痛みは倍増する。

 そして、悲鳴も聞き苦しく、痛々しいものへと変わった。

 戸口とやらは膝を押さえたまま、痛いのを我慢しようとせず、声を出し続けた。耳栓があれば是非とも欲しいところだ。

 視界に広がる直線の山道に、カーブが見えてきた。視界の悪い箇所にある急カーブだった。目前にスピード落とせの標識が通り過ぎていく。

 ちょうどよかった。そう思い、アクセルをますます踏み込む。

「何を」

 戸口が何か感じたらしい。しゃがれた声でたずねてくる。

 いちいち答える必要も無いだろう。

 銃を収め、ハンドルを両手で握る。今の速度は、百キロ近くを指していた。

 急ブレーキを踏み、急ハンドルを切る。カーブは右に曲がっていた。車体が左側に流され、その方向に重心が傾く。

 ハンドルを切る際、一瞬だけ左手を離す。

 そのときを利用して、隣の席のシートベルトを外す。ベルトをはめる所のワンタッチボタンを押すだけだ。そうすれば後はブレーキを踏み込むだけで、ハンドル操作はいらない。だって、もうすぐガードレール。

「ひっ……」

 戸口の悲鳴が聞こえた。後は、形容のしがたい破壊音と共に衝撃が体を揺さぶった。

 ミニパトは猛スピードでガードレールにぶつかった。車体は右に曲がろうとしていたが、ハンドルの切りそこね。助手席側がガードレールにぶつかった形となる。助手席のシートベルトは激突直前に外された。

 戸口巡査がどうなったかは、言うまでもないだろう。

 ただ、無線は生きていた。


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