里緒、これからのことを話す
帰り道では、既に日が沈みかけていた。
珍しい梅雨の晴れ間だが、あしたからまた雨になるそうだ。
だが、もうすぐ夏になる。梅雨が明けるのも時間の問題であった。
「迫田君、君は誰かを殺したいとかと思ったことはあるかな?」
「あるけど」
「無いと言って欲しかったな……。いやなことがあってむしゃくしゃして、何かに当たりたいと思ったことは?」
「あるけど」
「皆そうだよね」
里緒はずっと前を向き、ボソボソと呟くように話しかけてくる。俺は彼女の少し前を歩いていたが、時々振り返り、足を止めながら進む。
「何か辛いことがあっても、そのせいにして悪いことしちゃいけないよね。もし、心が辛くてつい犯罪行為に及んで、それが許されるようになれば、この国は犯罪大国になってしまうよ」
「その通りだな。ところで、何かわかってきた?」
「少しね。明日、今日のことを警察に話しに行こうと思うの。警察の捜査も進んでいるだろうけど、Hの人物像が少しでもわかれば手がかりになるんじゃないかな」
「なるほど」
「迫田君。悪いけど、しばらく留守にするから」
「捜査に参加するため?」
「そうなるかもしれないけど、それより先に会っておきたい人が一人残っているから」
「それは?」
「Hの姉。福岡県の端のほうにいるから、移動に時間がかかるかも」
「今までの話で十分じゃないの?」
「ううん、今まで聞けなかった話か聞けるかもしれない。今までの証言の裏づけという意味合いもある。それに、姉妹という違いだけでHとHの姉は生活環境が似ているもの。ただ、成長した姿が正反対というだけで。意外といい話が聞けるかも。Hの資質とかHがおかしくなりそうだったこととか」
「あまり期待しないほうがいいよ」
あまり期待しないほうがいい。
俺のこの忠告が里緒に聞こえたかどうかはわからないが、とにかく里緒は出かけてしまった。
福岡県内のあまり聞いたことのないところだから、ちょっとした出張みたいになるだろう。
里緒が部屋を留守にした翌日。県内のとある山中で男性の焼死体が見つかった。
警察の発表では、体全体に強い打撲が加えられた後、火を放たれたということだ。
現場に残った足跡や指紋、毛髪などからHによる犯行だと断定された。
これでHによる殺人は19人目。
それでも、里緒が帰ってくるのは遅かった。




