H、ますます暴走していく
男の髪をつかみ、口元を自分の膝に合わせる。
生暖かい液体が、自分の足に付着する。
男が顔を上げた。鼻や口から血が流れていた。
遠くの外灯や月明かりで、私の目も慣れてきたこともあり、男をよく見ることができた。
男は私の服を血でぬれた手でつかみ、私に血の混ざった唾を吐きかける。
そして、男は顔をゆがめる。
「Sが、なんぼのもんじゃ……」
言葉が終わらぬうちに、私は男をアスファルトに突き倒し、足で指先を踏んだ。
男の指先は私がついさっき折ったばかり。
男は獣のような声をあげた。
その声を掻き消すかのように、私の怒声が男に浴びせられる。
「お前みたいなやつが、Sさんを語るな! お前、Sさんの何を知っている! この犯罪者が! 貴様ごときがSさんを……いや、私と五分で話すなど、あっていいとでも思ったか!」
この、カス!
私は男の指先を何度も踏みつけた。
男はそのたびに発音の不鮮明な悲鳴を上げ、泣きそうな顔になり、体を激しく揺さぶる。
男の口がかすかに動いている。
「何だ! 何か言いたいことがあるのか」
男の口に耳を近づける。
もしかしたら、命乞いかもしれない。
だが、男はまたも予想外のことを口走った。
当然、その余計な一言が改めて私を怒らせることとなった。
「何がSじゃ。調子に乗ってんな、ボケ。殺すぞ」
そういえば、先ほど男の両膝を銃で壊したことを思い出した。
私は軽くジャンプし、壊した男の膝の上に降りた。
男はもう悲鳴を上げられないようだった。
いや、今の私の攻撃がそれほど効かなかったのかもしれない。
男はうつぶせに倒れたまま、顔を上下させ、爪でアスファルトを引っかいていた。
足をあげ、改めて踏み下ろす。
男の足は力なく地面に落ち、あらぬ方向へ曲がった。
「よく聞こえなかっ……くしゅっ! やっぱり夜は冷える。ん? あっ、あっ、あぁっ! 服が、私の服がボロボロ。そうか、さっきもつれ合ったときに」
「へっ、それで就職する気やったんか。お前なんか、どこにいけるっていうんか? え?」
頭の中で、金属音が響きました。
びきびきと何かがねじ切れる音が聞こえました。
Sさんから引き継いだ才能が目覚める直前、そう、アルバイトの帰り道にレイプ犯六人に襲われたときのことです。
あの時と同じ心理状態になりつつあります。
「この野郎!」
私は男の股間を蹴り上げました。
そして、髪をつかみ、引っ張りました。
私の手の動きについてくるみたいに、男の体は起き上がり、体を反った形になりました。
その男の顔を間近でにらみつけました。
男の口元が震えていました。
だが、視線は私から逸らそうとしません。
「お前、なんと言った? 殺すぞって、お前、ひとりでも殺したことがあるのか! そんな奴が、私を殺すとか、できるわけがないだろう! それにお前! 私に何をしたか分かっているのか! ……、答えろ、答えんか!」
私は指先で男の口元を掴みました。
これは何だ!
何のためについている!
それとも私みたいなのと話してやるのは、とっても馬鹿らしいってか!
私は叫びました。
喉が痛くなるほど、頭の血管が切れるほど、口の中が乾くほど、激しく、男を口汚く罵りました。
しかし、男は笑いました。
そう見えただけかもしれません。
厳密には、恐怖で顔が引きつっただけかもしれません。
ですが、私にかろうじて残っていた自制心は、消え去りました。




