H、暴走……2
「ああっ、うくくく……。この、暴力女……」
「なんだと! まだ懲りていないのか!」
私の頭に血が上りきっていた。
私は、私自身が聞き取れないほど奇妙な声を発し、男を踏みつけていた。
足を振り上げ、踏み下ろそうとしたとき、男は体をひねり、私の足を避けた。
「いきがるなや、まだまだこっからや!」
そう言うと私に背を向け、車に向かう。
かなり痛めつけたと思っていたのに。
私は銃を取り出し、撃った。
銃声は二回響いた。
男は悲鳴を上げ、うつぶせに倒れた。
久しぶりの発砲。私は自信がなかった。
男の両膝の裏側に弾が当たり、貫通していた。
月が出てきた。それに目も慣れてきたようだ。
男の両足からの出血はひどく、おそらく二度と立ち上がれないだろう。
男は倒れたまま、私がすぐそこにいることにも気がつかず、私への呪詛の声もあげていた。
「うあっ、いてぇ、いてえ、ちくしょう、メス豚が、売女が……。絶対、いてもうたるわ、裸にひん剥いて、ひぃひい言わせたるわ……。あほんだら、いちびり……くっ、う……」
「言いたいことはそれだけですか?」
「この、クソ女、おんどれ、何者なんじゃい」
男は気力を振り絞り、私に顔を向ける。
「ニュース、見ていませんか? 私は、Hです」
「H? Hやと」
男が狼狽する。
口調だけでそれが分かる。
不意に冷たい風が吹いてきた。
車道の左右にある木々が互いに葉をこすれあわせる。
私の肌が汗ばんでいた。
スーツの襟のボタンを外す。
そして、肌が外気に当たるように服を緩める。
涼しくなった。
私の正体を知り、男はどうするのか、と思っていた。
そのまま逃げようとするか、それとも私に命乞いをするか。
どちらにしても、私は彼を助けるつもりはなかった。
私の顔を知り、私と直接関わった人間は生かしてはおけない。
こう思ったあと、私はおかしくなった。
私は、彼を生かしておくつもりだったのか、と。
一方、彼は私の予想もしなかったことを口走ってしまった。
「Sのマネか。それで悪者気取りか、アホが」
「?」
「お前がいくらSを気取っても、Sにはなれないんや」
アホめ。
私は男の髪をつかむ。そして、無理矢理上に引っ張る。
「言葉を慎んでください。Sさんに、何の関係がありますか」
「お前のやっていることが、そうだというとんや。ぼけぇ」
「私ではなく、Sさんを侮辱するのですか? よほど、命がいらないと見えますね」
男の顔が引きつる。
私は、男を直立したまま見下ろした。
「私がどういう人物かわかりますよね」
「知らんわ、ボケ」
私は男の顔を蹴飛ばした。
「私だけではなく、Sさんの悪口ですか?」




