H、回想を終えたら途端に怒り出す
手から手錠と警棒が零れ落ちた。
私は目を上げ、立ち上がる。
私と目の合った男は、ウッと息を呑んだ。
何だ、まだ生きていたのか。
Sさんならとっくに殺し終え、この場から離れているだろう。
こんなに時間がかかるなんて。
そういえば、私はSの彼女だといい、馴れ馴れしくS君と彼を呼んだこともある。
確かに、才能は譲ってもらった。
でも、それを使いきれているかといえば、答えはNO。
殺しに関しても、私はSさんの足元にも及ばない。
そんな私ごときがSさんを『君』付けで呼ぶなど……。
男は引きつりながらも笑顔になった。
「な、なんや、まだやるんかい?」
挑発しているつもりなのだろう。
でも、男の腰が引けている。
「……」
「え?」
私はなんと叫んでいるのか分からなかった。
私の拳は男の鼻に当たり、男を吹き飛ばした。
指先に生暖かい感触が残った。
男は背中からアスファルトに倒れた。
そこへ私は足を踏み下ろす。足は奴の首を踏みつけた。男が咳き込む。
私は足を引き、顔を横から蹴り上げる。
男が体をねじる。
私はズボンのポケットから財布を抜き取り、中を見た。
中には札束がぎっしり入っていた。
「こんなに入っているのか?」
男は答えない。
私は男の髪をつかんで引き起こし、アスファルトに叩きつけた。
そして再び持ち上げ、私に向かせる。
「答えろ! この金はどうした?」
「あ……う……」
「どうせ、強請りで巻き上げた金だろう! ろくに仕事をしないで、安物のメガネをブランドといってな! バックにヤクザか何かついてるのか! なんとか言え、この犯罪者が!」
髪をつかんだまま、前後に揺さぶる。
「犯罪て、お前もやないか」
力なく、私に口答えする。
なるほど、まだ余裕があるようだ。
いや、私にSさんほどの暴力がないのが原因だ。
工場労働者だったSさんと違ってニートやっていたから、運動不足になっている。
私は男に顔を近づけ、呟くように言い放つ。
「お前、今、何を考えている? 私につかまったのは運が悪かったと思っているだろ。最初から強請りなんかせず、真面目に働いていれば、こんなことにならずにすんだとは、思わないか!」
私は男の胸倉をつかみ、立ち上がる。




