H、回想を終える
私の前に、Sさんがいた。
Sさんの話を聞いた後、私はこう答えていた。
「そんなことで?」
Sさんとコンビニで会話したことが、再生されている。
物凄い勢いで、私の記憶が巻き戻され、私の言葉が強調される。
「Sさん、なに他人事みたいに言っているんですか?」
「どうして、自分からやろうとしなかったんですか? たとえば、野球だって『やりたい』と粘り強く言い続ければできたかもしれないのに」
「どうして、そんな自分の人生を投げ捨てるようなことをしたんですか?」
「どうしてこんなことをしたのか、説明する義務はあると」
「でも、言わないとダメです。Sさんが何を考え、どんなことがきっかけになって、何を思って犯罪を起こしてしまったのかを皆に話してください。納得する、しないではなく、話すことが大切なんです」
「でも、一人って寂しくないですか?」
「それじゃ、Sさん。今私とこうして話していることも否定するんですか?」
「きっと死刑になるでしょうけど……その日まで生き続けるんですよ? 今まで辛いことばかりだと思うけど、最後の日まで普通に生きてもいいと思います。どうにもできないことだけど、今から最後の瞬間まで、普通の人間として」
私のフラッシュバックが終った。
男は立ち上がっていた。
私が長いと感じていたものは、それはおそらく瞬きほどの時間でしかなかった。
でも、ひとつわかったことがある。
あの時、私がSさんに放った言葉の数々は、私自身が言われたくないことだった。
そんな上辺だけの言葉は聞き飽きた。
でも、そのような言葉を私はSさんに投げかけた。
Sさんが最後、あのような自殺まがいの死に方をしたのは、私の言葉がひとつのきっかけになったのかもしれません。
もし、今の私が同じことを言われたとしましょう。
言葉は私の心を上滑りし、私には何も響かなかったのに違いない。
少なくとも、あのときに私がSさんに言うべきことではなかった。
私が言い放ったのは、私が嫌いな誤魔化し。
あれでSさんが私を殺さんばかりに怒り狂っても、仕方がなかった。
私は馬鹿だ。
Sさんに話した言葉は、ただの実現不可能なきれいごとだった。
そして、口にした私自身が言葉通りに生きていない。




