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L3 killing of genius "H"  作者: 迫田啓伸
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H、カツアゲにあいながら、過去を思い出して苦悩する

 男は、私の打撃をくらい、顔を押さえて悶絶していた。

 私は何も言わず、その顔にもう一度、拳を叩き込んだ。

 男は私に何かを言おうとしていた。

 しかし、私がそうさせなかった。

 助手席に放り込み、車を発進させた。

 その際、男は抵抗し車を止めようとハンドルにつかみかかって来たが、私は手錠を握り締めたまま、裏拳を男の顔に叩き込んだ。


 私はそのままここから走り去ろうとした。

 男は助手席で気を失っていた。

 私を強請ろうとするからだ。

 このようなつまらない人間に弱みをにぎられて、言いなりにされるのは、かなり辛いことだと私は思う。

 博多の夜景は次第に遠くなった。

 赤信号のときに、隙を見て男の懐を探った。

 財布を抜き取り、ライターとタバコを取った。

 タバコを試しに吸ってみたが、苦くてダメだった。

 私が車を運転している間、ずっと昔のことが頭を駆け巡った。


 私は部活をしなかった。

 面倒だったからではない。

 親が許さなかった。

 そんなことをしても、何の役にも立たないと言われた。

 小学生の頃から言われ続けた。おかげで、当時はそうなのだと思い込んでいた。

 学歴が支配するといっていい現代日本社会では、いい学歴を手にするためには受験勉強に力を入れざるをえない、が、それが全てだろうか。その社会状況が、いつまでも続くだろうか。

 私のときのように、いざ大学へいこうとしたとき、信金が倒産してしまうような『事情が変わった』ということになるかもしれないのに。

 私は、私の預かり知らぬところで、翻弄されていた。

 気がついたら今の状況に追い込まれていた。

 しかし、それは全て私のせいだろうか。


 私が人質だったあの時、私はSさんに、

「私、可愛くないし」

と、自嘲気味に言いました。

 そうしたら、Sさんはカウンターを叩き、身を乗り出してきました。

 そして、物凄い勢いで

「何言ってるんだ! Hさん、君が不細工なら、この世に美人はいなくなってしまうぞ!」

 おそらくSさんは私に気を使ってこんなことを言ってくれたのだと思います。

 それか、Sさんは目が悪かったからだと思います。

 でも、私はその一言が嬉しかったのは、事実です。

 それから、しばらく私とSさんが話しこみました。

 Sさんはかなり酒に酔っていました。

「もし、俺と君が同じ高校の同じクラスで、こんなことを言ったら、どうする?」

と、前置きをしてからSさんは背筋を伸ばし

「Hさん、俺は君が好きでした。俺と付き合ってください」

 私はあの時、どういう反応をしたのでしょうか。かなり動揺したのだけは覚えています。

 私は首を振りました。

 もっと思い出すべきことが、あるはずなのに。


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