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25話 『堕魔を打ち破れ!』


「あら~~ 1人行っちゃったね~~ もうばれちゃった~~? でも…… いくら零番隊とは言えど、君『陸の座』だよね? 零番隊でも下の方だよね~~!! 君1人でその可愛い子達、全員を守りながら戦えるのかい~~?」


 イーナが去った戦場で、ルートに向かって、無邪気な笑みを浮かべながらそう口にした小太りの男。その場にいた生徒達は皆、怯えた様子で、ルートの後ろに固まっていた。ルートは静かに、背負っていた大剣へと手を伸ばす。


「先生……」


 そして、不安そうに声を漏らしたソール。そんなソールに、ルートは笑顔を返す。


「大丈夫だ。心配するな」


 小太りの男、グールはそんなルートの言葉を、面白可笑しい様子で真似た。


「大丈夫だ! 心配するな! だって~~ かっこいいね~~ 格好良すぎてぼくちん…… めっためたの! ぎったぎたの! ぼっこぼこに殺してやりたくなっちゃうよ!!」


 だが、そんなグールの挑発にも一切表情を変えること無く、ルートは冷静に言葉を返す。


「こいつらには手は出させん。 俺がいる限りな」


「こいつらには手を出させん! だって~~ でもさでもさ~~ 今頃お兄ちゃんの方は片が付いちゃってるかも知れないよ~~ 君の大切な生徒が…… くびちょんぱ!」


「先生……」


 首をかき切るような動作でそう笑みを浮かべながら言い放ったグール。グールのあまりの狂気ぶりにソールも再び不安の声も漏らす。だが、そのグールの言葉にも一切ルートは表情を変えることは無かった。


「ふん、イーナが行った以上心配は無い。お前は自分の心配でもした方が良い」


「ホントに~~? ぼくちんの魔法を前にしても…… そんな余裕でいられるのかな~~」


 そして、魔法を発動しようと、構える男。相変わらず、余裕そうに笑みを浮かべながら男は口を開いた。


「今までもいろんな討魔師が、君みたいに勇敢にぼくちんに立ち向かってきたんだ! だけど~~ 皆ぼくちんの魔法を前に、絶望に顔を染めて死んでいったんだよ!  さあ、君はどうなるかな~~ 雷の……」


「風切!」


 次の瞬間、男の頭部は宙へと浮いていた。ソールもルウも、ルートがいつ剣を抜いたのか、全く見えなかった。誰しもが、そのルートの一撃を捉えることはなかった。笑みを浮かべながら宙を舞うグールの頭。そして、突然切り替わった視界に驚くような声を漏らすグール。


「えっ……」


 ルートが剣を収める音が静かに鳴りひびき、そしてぼとりと頭が地面へと落ちる音が空しく路地裏に響き渡る。その場にいた生徒の誰もが、その瞬間、何が起きたのか、未だに理解が及んでいなかったのだ。


「終わりだ。お前の悪行、地獄で償え」



………………………………………



「豪炎!」


 全身全霊を込めたリアの一撃が男の顔面へと直撃する。そのまま、壁へと吹き飛ばされた男。白煙が舞い上がる中、全ての力を一撃に込めたリアはそのまま地面へと倒れ込んだ。


「リア!」


 何とか動けるようになったカシン。まだ足が震える中、這うようにリアの元へと近づく。そして、カシンに支えられて何とか立ち上がったリア。ありったけの力を腕に込めた反動で、リアの身体はもう限界に近かったのだ。それでも……


「カシン…… やったよ……」


「ああ、すげえよ! リア! お前本当に!」


 笑顔を浮かべるカシンにリアも何とか笑みで返す。全身全霊を込めた一撃は、相手に確実にクリーンヒットしたという感覚がリアの中にもあったのだ。


「……風の術式 風牙」


 だが、無情にも白煙の中から再び男の声がこだまする。途端、リアとカシンを鋭い風の魔法が襲う。全身を切り刻むような風の魔法。既に限界が近かったリアは、そのまま地面へと倒れ込んだ。もう、身体が言うことをきかなかったのだ。


「そんな…… モロに入っただろ……」


「……ってえな!」


 すぐそばで見ていたカシンも驚きを隠せなかった。リアの魔法攻撃は確かにあたったはずだ。なのに…… 平然と立ち上がった男を前に、怒りを露わにする男を前に、もう打つ手はないと言っても過言ではなかったのだ。


 起き上がろうとしたリアだったが、体中がきしんで…… 痛みで身体が思うように動かない。ありったけの力を…… 全ての力を腕に注ぎ込んだのが仇となったのだ。


「……てめえ…… 絶対に殺す! ばらす!」 


「カシン、君だけでも逃げて……」


「バカいってんじゃねえよ! お前を置いて…… 逃げられるわけないだろう!」


 怒りにまかせたまま、リア目掛けて一直線に突っ込んでくる男の前へと立ちはだかったカシン。


――リアが、命がけでかばってくれたんだ。俺ばっかり格好悪いところ…… みせらんねえだろ!


 勝てるビジョンなんて一切無かった。それでも…… それでも……


「男なら引けない場面があるだろうがよ!! 土の……」


「だったら死ね!」


 魔法を発動しようとしたカシン。だが、もうすでに男の凶刃はカシンの目の前へと迫っていた。


――間に合わない……! 終わった……


 思わず目を瞑ったカシン。だが、そのカマはまたしてもカシンを貫くことはなかった。確かに、目の前まで男の攻撃は迫っていたはずだ。だが、いつまで経っても、痛みの訪れない自らの身体にカシンは困惑していた。


――俺の身体…… 切られていない? 一体何が? 


「大丈夫だよ、カシン…… もう大丈夫」


 リアの弱々しい声がカシンの耳に届く。おそるおそる目を開けたカシン。カシンの目の前には、カシンよりもずっと小柄な…… それでも誰よりも頼りがいのある背中があったのだ。「伍」という文字が大きく入ったローブを纏った少女は、二本の剣で男の攻撃を食い止めていた。


「リア、カシン! ごめんね! そして、よく頑張ったね!」


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