第27話 戦闘訓練
課題依頼を終えたミニアは、今度は中堅クラス冒険者教習を受けてみないかという話が出た。
この教習は強制ではないが、Cランクを目指すものは大抵受ける。
Cランクの試験は別にあり、この教習は上に上がるために足りない物を気づかせるそういう教習らしい。
そうミニアが言っていた。
俺はいつもの通りギルド前にのんびり座って空を眺めたり、呪文の解析をしたりしていた。
「ウィザ。なぐさめて」
「どうしたんだ」
ミニアがギルドから出てくるなり俺の腹に抱きつき言い、俺は魔法で尋ねた。
「戦闘訓練。ボコボコ」
「一方的にやられたのか」
「一撃も。駄目」
ミニアの魔獣との戦いは見たけど、喧嘩殺法だな。
正規にちゃんと鍛えた人には手も足も出なかったってところか。
それにまだ子供だしな。
魔法ありならまた結果も違うのだろう。
「そうか、ミニアには魔法があるじゃないか」
「うん。魔法試射。褒められた」
実はコンパイルした魔法はリタリー以外には見せないようにミニアに言っておいた。
切り札は隠すものだ。
その方が格好いい。
普段は詠唱して三連続弾のファイヤーボールを撃つように言ってある。
詠唱の暗記はすんなり出来た。
意外にミニアは頭が良い。
「今日は終わりか」
「ううん。午後から。戦闘訓練。一緒」
俺が戦闘訓練に参加すんの。
勝負にならないっしょ。
教官も物好きだな。
門の外にある街道脇で俺達は教官と対峙する。
教官ははげた頭をなで、木で出来た大剣の切っ先を地面に突き刺した。
ミニアは皮鎧に木のショートソードを構える。
「ルールを説明する。魔法禁止。ミニアは俺の剣が届く位置からスタートだ」
「ウィザ。乗るのが。戦闘スタイル」
「それじゃ駄目だ。別々に行動する事もあるだろう。襲われるとしたらそういう時だ」
「納得」
「じゃあ始めるぞ」
教官が剣を振りかぶる。
俺は伝言魔法でミニアにしゃがめと指示を出した。
ミニアの頭上を俺の尻尾が通過していく、教官は俺の尻尾の圏外に飛びのいた。
教官の奴読んでいたな。
今度は後ろに飛び退けとミニアに指示を出す。
ミニアが飛び退くと同時に俺の両手がミニアの頭上から覆いかぶさる様に振り下ろされた。
素早く距離を詰めて薙ぎ払った教官の大剣が俺の爪に弾かれる。
ミニアはこの隙に下ろした尻尾から背中によじ登った。
「降参だ」
教官が両手を挙げて宣言した。
戦闘の検討に入る。
「ウィザ。無敵」
「なんと言ったらいいのか。凄まじい錬度だな。最初の一手も仕草らしい物がなかった。伝言魔法にしては詠唱がない。たぶん前もってドラゴンにしゃがんだら尻尾で薙ぎ払えと教えたのだろう。良く躾けられているな。感心した。二手目も素晴らしい。ミニアを守れば確かに無敵だな」
ミニアが戦闘不能になっても俺は自立戦闘できるけどもね。
「終わり?」
「ミニアは剣を習った事がないのだろう。型を教えてやる」
「うい」
少し嫌そうにミニアが言った。
俺は二人が木剣を振るのを眺めていた。
そうだあれを試してみるか。
俺は伝言魔法してからある呪文をコンパイルしてミニアに掛けた。
その魔法のイメージはこうだ。
void main(void)
{
TEL *tpi,*tpo; /*体の定義*/
tpi=topen("モニミニチ.body"); /*体を開く*/
tpo=topen("temp"); /*仮体を開く*/
muscle_up(tpi,tpo); /*筋力強化*/
tclose(tpi); /*閉じる*/
tclose(tpo); /*閉じる*/
system("copy /-Y temp モニミニチ.body"); /*体書き換え*/
}
いわゆる筋力強化という奴だ。
ミニアの剣の振りが一段と鋭くなる。
成功だ。
この呪文のいい所は他人にも掛けられるって事だ。
この呪文が強化するのはどうやら筋肉そのものではなく、筋肉が纏ってる魔力を強化するみたいだ。
この世界に生きている人間の動きがやけに良いと思ったら、自然に魔力で強化しているのだな。
なんとなく納得だ。
それに視界にない者は強化不可だ。
隷属魔法も同じだろう。
この魔法も許可がいる。
魔法の中身を解析できれば弱体化なんてのも可能だ。
流石に許可なしで際限なく弱体化できればチートだろう。
簡単にはそんな事は出来ない。
とにかく一つ手駒が増えた。
「途中から動きが凄く良くなったが、最初は手を抜いていたな。実戦では実力を隠すのも有りだが訓練は全力でやれ」
「はい」
「今日は終わりだ」
そう言って教官は去って行った。
「お風呂」
ミニアがねだる様に言う。
実は家の周りを壁で囲ってから石で家の前に露天風呂を作った。
風呂を用意するのは俺の仕事だ。
巨大ウォーターボールを出して風呂を満たす。
そして低温ブレスで暖める。
湯気が良い具合に上がり始めた。
服を脱ぎ捨てプールほどもある露天風呂にミニアが飛び込んだ。
盛大に水しぶきが上がる。
少しはしたないな。
「ミニア、今度から掛け湯をして頭と体を洗ってから入るんだ」
「めんどくさい」
「それが作法なんだよ」
「ドラゴンなのに」
「冒険者をストーキングして聞いたんだ。それが人間の作法だと」
「ウィザが。言うなら」
ちなみに俺は体が大きくて入れない。
その代りミニアがブラシで擦ってくれる。
全身を毎日洗うのは骨なので体の一部分を洗ってローテーションだ。
今日は尻尾にお湯を掛けられ洗剤をつけた馬用のブラシで擦られた。
ミニアは泡まみれだ。
また風呂にはいらないとな。
なんとなく、くすぐったい。
「キュンキュン」
変な声が出てしまった。
「声。前に。聞いた」
「どこで」
「ベヒーモス戦」
そんな声上げたかな。
ああ、その後に彼女とやっちゃた時か。
あれを聞いていたのか。
「まあ、その、なんだ。あれだよ。弱点だ」
「焦ってる」
ミニアがジト目で俺を見る。
この場はなんとか誤魔化したが、彼女が産卵するのに森を訪れた時にどう言おう。
子供ができちゃったてへっとか。
何をミニアに遠慮しているんだ。
俺はドラゴンだから自然の営みって奴だ。
堂々と言うぞ。




