第八話:旅立ち
どうも!先週更新できなかったShironです!
二週間ぶりですね!いやぁ、お待たせしてしまってすみません!
今回も頑張って執筆したので、どうか楽しんで読んでいってください!
できればコメントなどもらえると嬉しいなっ!
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心が……意識が……怒りと憎しみに支配され、目の前に居る二人を殺すことだけしか考えられない。
俺は右手に無陣化で、最上位魔法『轟雷刃破』を発動する。黒と青の雷線が大気を揺らす轟音と共に、その手に纏う。
刹那、雷線纏う俺の右手が、深々と一人の胸に突き刺さる。十二賢神第四位、クロム・エノヴェータだ。
止めの一撃を刺すべく、再び無陣化で左手に魔法を発動する。
「『煉極滅霸』」
地獄の業火をも凌駕する灼熱の炎が、周囲の景色共々、クロムを消し去る。
……………。
残りの一人、十二賢神第二位、ペトロ・グリセルダ。こいつを殺れば終わりだ……。
気付くと、俺の背には禍々しい魔力を漂わせる二本の黒い魔槍が突き刺さっていた。
みるみるうちに力が抜けてゆく。そして、ペトロの忌まわしい笑い声が響く。
ああ……。ルウシェを守りきれなかった。自らの力に驕っていた結果だ。
ルウシェの身体が光の粒子となって散っていく様が、脳裏に刻まれる。
───私が……守るから……シロンは私を───
……………。
意識がどこかに引き戻される。忘れることなどあり得ない、その光景から。俺を、後悔と絶望の淵に叩き落としたその光景から……。
「夢か……。」
寝起き特有の、朦朧とした意識に、町の賑やかな音が入ってくる。そして隣には、窓から差し込む光を反射し、キラキラとその金髪を輝かせる少女、ソアが寝ている。そちらの方へ顔を向けると、至近距離に彼女の顔がある。
そう言えば昨晩、ソアを賢神界へ連れていくという約束の証として、共に寝ることになったのであった。理由はどう考えても意味不明だが、彼女の希望なので仕方がない。
俺はベッドから身を起こし、朝の身支度をする。昨日の朝のように、お約束展開に襲われないよう、アリシアの部屋を訪ねるのはもう少ししてからにしよう。
今日はいよいよ、王都に向けて旅立つ日だ。そこで『異界の勇者』にまつわる情報を集め、賢神界へ戻る手段がないかを探す。道のりはあらかじめアリシアと相談してある。彼女は王都出身らしいので、道案内は彼女に任せるのが得策だろう。
午前中にはこの町を出たいので、もう少ししたらソアを起こして、朝食を食べに行こう。
そんなことを考えながら、まとめてある旅の荷物を俺の魔宝庫に収納する。
さて、ソアが起きるまで何をしていよう……。
町外れの草原に行って、軽く旅のアップを済ませておこうか。具体的には、視界に映ったモンスターを片っ端から消し去っていく……。うむ、止めておこうか。その土地がクレーターだらけの火の海と化す未来しか想像できない。
では、今ギルドに寄せられている依頼を全て受注して、さくっと片付けてこようか……。うむ、これも止めておこう。他の冒険者の仕事がなくなってしまう。
さて、いよいよ何をして過ごそうか思い付かなくなった……。
そうやって俺が唸りながら考えていると、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「シロンさん。起きてますか?」
アリシアだ。てっきり今頃入浴しているものと思っていたが、既に済ませていたのだろうか。俺は、既に起きていることを伝えると、アリシアが少しばかり扉を開き、その隙間から顔を覗かせる。
「少し、よろしいですか?」
アリシアに呼ばれた俺は、彼女の部屋のベッドに腰掛けていた。そして、アリシアが一言「失礼します」と言って、隣に腰掛ける。アリシアが、ふわっとその金髪を手で払うと、入浴を済ませたことを裏付けるかのように、良い香りが鼻腔を擽る。
「何か用事でもあったか?」
俺がそう話を切り出す。
「シロンさんは……魔王を倒しますか?」
おお……。なかなかに唐突な話だな。魔王を倒しますか? とは、やはり『異界の勇者』の伝説なるものに、俺を重ねているのか。
「分からん。魔王とやらを倒すことで賢神界へ戻れるのなら倒すが、解くに理由がなければ、倒す必要はないと考えている。」
「そうですか……。」
アリシアが、少し残念そうに俯く。
「魔王を倒して欲しいのか?」
「勿論です!」
俯いていた顔を、勢いよくこちらに向けてくる。
「魔王は、人間族にとっての宿敵! 倒すべき敵なのです!」
あ、ああ……。
「なのでもし、シロンさんに魔王を倒す力があるのなら、どうか魔王を討ち果たしてくださいませんか!?」
興奮して顔を近付けてくるアリシアの碧眼には、強い意思が籠っているのが分かる。
だが、何故アリシアはそこまでして魔王を倒そうと言うのか。いや、昔の三種族間の戦争以来、互いが敵視しあっているのはよく理解できている。しかし、それはこの国の一般国民である彼女に、ここまで言わせるほど根付いている意識なのだろうか。
俺がそんなことを考えながら唖然としていると、アリシアが頬を赤らめ、慌てて距離をとった。
「す、すみません! 少し興奮しすぎてしまいました……。」
「い、いや……。しかし、何故そこまで魔王討伐に固執する?」
俺がそう聞くと、アリシアはどこか遠くを眺めながら答えた。
「今、大きな戦争はないと言っても、やはり国境付近では衝突が絶えません。そこでは多くの死者が出ています……。」
そんなことを語るアリシアは、どこか儚げで、辛そうに……。
しかし……。
「アリシア。それは、向こう側の国でも同じことではないのか?」
「───っ! それは……。」
アリシアは、はっとこちらを向く。まるで、今まで気にしていなかったことに……いや、見て見ぬふりをしてきたことを、突かれように。
「“汝、いかなる世界を夢みるか。”」
と、俺が呟く。アリシアは訝しそうな顔でこちらを見ている。
「昔、賢神界での大戦の時にある人から言われた言葉だ。今でこそ十二国間では和平条約が結ばれているが、かつては、星を殺すとまで言われた激しい戦争を何百年もしていた。」
今でもよく覚えている。青空などというものは存在せず、絶えず黒い灰が星を包み込んでいた。不用意に出歩けば、爆炎や雷が雨のごとく降ってくる。常に死と隣り合わせの世界。
「昔は他にも賢神が居た。大戦終結時には、今の十二人しか残っていなかったがな。」
「シロンさん……?」
おっと、少し関係のない話までしてしまうところだった。
「そんな地獄を見てきた俺が断言する。」
俺はアリシアと視線を合わせる。彼女は、続く俺の言葉に不安を覚えているように、その青い相貌が揺れている。
「魔王を殺しても、今のこの世界の在り方は変わらないだろう。」
「……………。」
『異界の勇者』の伝説でもあったように、空いた魔王の座にはすぐに新たな魔王が着くだろう。では、魔人族の国グラナード王国を蹂躙し、エシュタリア王国に併合するか? そんなことをすれば、不満を募らせた魔族たちが、いつ反乱を起こすことになるか……。
暴力で、平和は掴めないのだ……。
「では……どうすればよいのですか……。」
アリシアが湿った声で問いかけてくる。
「分からない。」
「そんな……。」
今にも泣き出しそうなアリシアが俯く。小さなその手には、力が籠っている。
「果たして、平和などというものが本当に存在するのか。俺も長く考えているが、未だにその答えは分からない。」
俺はベッドから腰を上げる。アリシアが座っている前に行き、右手を彼女の頭に乗せる。アリシアは顔を上げて、潤んだ瞳で俺の姿を捉える。
「“汝、いかなる世界を夢みるか。”」
俺はそう一言言って、アリシアの部屋を後にした。
俺は未だソアがぐっすり眠っている部屋に戻ると、ベッドに腰掛け、ソアの寝顔を見る。どうやら悩みはふっ切れたらしく、安心した顔をしている。
もう少し寝かせてやりたい気もするが、午前中にはこの町を出たいので、そろそろ起こすことにする。
「そろそろ起きろ。朝食にするぞ。」
まあ、声をかけただけで起きないのは、なんとなく分かっていた。
俺は人差し指でソアの白い頬をつつく。すると少し眠りが浅くなったのか、瞼が少し動く。続けて頬を引っ張ってみるが、少し呻くだけで、なかなか起きない。
はて、どうしたものか……。
「ソア。このまま起きないのなら、イタズラするぞ。」
ソアの身体がビクッと一瞬。しかし、瞼は閉じられたままだ。
俺は掛け布団をばっと剥がす。すると、膝を抱え込んだ体勢のソアが露になる。ワンピース型の寝間着……一般にネグリジェと言うらしいが、そのスカート部分が微妙に捲れており、窓から差し込む朝日を浴びて、より一層白さが映える艶かしい脚を見て、自分でしておいてなんだが、少し申し訳ない気持ちになった。
やはり今起こすのは諦めようと、そう思い、剥がした掛け布団をもとに戻そうとする。ふとソアの顔を見ると……。
「おい。」
再びソアの身体がビクリ。
「「……………。」」
「おい、いつまで寝たふりを続けているつもりだ。」
そう、いつからかソアは起きていた。掛け布団を戻そうと彼女の顔を見たとき、頬が赤く染まっていたのだ。
ソアは瞼を開けて、その紅い瞳をこちらに向けると。
「ば、バレた……?」
「ああ。バレた。」
うーん……。あの申し訳なくなった気持ちを返してもらいたい。
ソアは身を起こし、ベッドの上にちょこんと座ると、上目遣いで聞いてきた。
「もし、起きてなかったら……どうしてた……?」
「どうもしない。ただお前を起こしたかっただけだ。」
と即答。何を期待していたのか、ソアはしゅんと残念そうにしていた。
「そんなことより、早く支度を済ませろ。朝食にするぞ。」
ソアは「はーい!」と返事をして、洗面所に向かっていった。俺はというと、気まずい状況に陥らないように───具体的には着替えを見てしまったりしないように───ソファーに腰掛けて、目を閉じていた。
さて、今頃賢神界はどうなっているだろうか……。ペトロ達が何を考えてあんな行動をとったのかは、正直まだ分からない。しかし、賢神界に帰れば、奴との戦いは避けられない。果たして、勝てるだろうか……。
「シロン、準備おっけー!」
「行くか。」
俺はソファーから腰を上げて、ソアと共に、隣のアリシアが居る部屋へ再び向かう。扉をノックして呼び掛ける。
「アリシア、朝食を食べに行こう。」
すると、扉の中から準備を済ませていたアリシアが出てくる。何処に食べに行くかという話し合いの結果、いつも通り、宿の正面の飲食店に行くことになった。相変わらず大食いのソアは、急ぎ足で宿の階段を降りていった。俺もそれを追うように足を運ぼうとすると、灰色のロングコートの裾を引っ張られた。
「どうした?」
コートの裾を掴んだアリシアの方に振り向く。
「“汝、いかなる世界を夢みるか。”私、王都に戻るまでに、その答えを見つけようと思います。」
その透き通った青い相貌に……ルウシェによく似た瞳に……大きな決意が秘められているのが感じられる。しばらく互いの視線を交わした後、俺は少しだけ笑みを溢した。
「お前なら、見つけられるかもしれないな。」
「はいっ!」
アリシアは嬉しそうに、そして、改めて決意を固めるかのように答えた。そして、ソアのあとを追いかけた。
店に入り、いつも通りの席位置(俺の右隣にソア、正面にアリシア)に着き、料理を注文する。相変わらずのソアの食いっ振りを見ながら朝食を済ませ、一度宿に戻る。
「準備完了。」
ソアが腰に手を当てて報告してくるが、何かを装備したりするわけでもないので、正直こいつと俺はあまり準備するものがない。あとは、アリシアだが……。
そう思ったとき、扉がノックされる。そこから装備を整えたアリシアが入ってくる。初めて会ったときの姿……美しい装飾が施された青色を基調とした胸当て、腰当て、すね当てを身に纏い、左腰には長剣が吊るされている。
「私も準備できました! 出発しましょうか!」
「ああ。あと、荷物は俺が預かろう。」
俺はそう言って、アリシアが手に持っていた大きな鞄を見る。すると、アリシアは鞄を抱え上げた。
「い、いえ! シロンさんに負担はかけられません!」
「魔宝庫に収納しておくだけだから大して負担にはならないぞ。それに、身軽な方が良いだろ?」
そう言うと、アリシアは少し考えて、鞄を差し出してきた。
「で、では……お願いできますか?」
俺は「ああ。」と答えると、指をパチンと鳴らす。魔法陣が展開されて、大きな鞄がその中に姿を消した。その様子をソアとアリシアがじっと見詰めていたので、どうしたのだろうかと聞くと。
「ずっと聞こうと思っていたのですが……。シロンさんは無詠唱で魔法を行使できるのですか?」
と、アリシアが。
「加えて、見たことのない魔法ばかり……。世界が違うと、魔法も違うの?」
と、ソアが。
そうだそうだ。俺も前から聞こう聞こうと思いつつ、なんだかんだ忙しかったので、タイミングを逃していたのだ。二人とも魔法行使の際にいつも何か唱えているな……。
「ああ、賢神界ではこれが普通だ。あと、俺からしたらこの世界の魔法は初めて見るものだぞ。詠唱とやらも含めてな。」
「「ほー……………。」」
俺達は互いの世界の、魔法理論の差違について話し合いながら、この町、グルーナのメインストリートを、門に向かって歩いていた。
「えっと、賢神界では魔法陣を描くことによって、その陣に対応した魔法が行使できる、と……。」
アリシアが、俺の話した賢神界の魔法理論を確認しながら、考え込んでいる。
「でも、魔法陣から魔法を発現させるのは一緒……。でも、どうやって魔法陣を展開させるの?」
ソアが隣を歩きながら、見上げるように聞いてくる。
そう、そこなんだ。この世界では魔法陣を展開させるために詠唱を行う。その後の魔法の発現方法は同じで、展開した魔法陣に対応する魔法が発現する。
「魔法陣の展開は魔法行使の際の基本だ。端的に言ってしまえば、発現させたい魔法の陣の形を頭の中で構築し、完成した魔法陣をこの様に展開するんだ。」
俺は右手人差し指の先に『火球』の魔法陣を展開させる。
「魔法陣を展開する際にも、僅かばかり魔力を消費する。魔法陣は、魔力によってできた力線で描かれていると言うことだ。」
「「おおぉ……。」」
両隣を歩く二人が、俺の指先に視線を向けて感嘆の音を漏らしている。
「そして、展開した魔法陣に魔力を送ると……。」
俺は指先に展開した魔法陣に少しだけ魔力を送り込む。すると、小さく燃える赤い火球が発生する。
「「おおぉ……!!」」
「また、送り込む魔力量によって発現する魔法の規模が調節できる。」
そう言いながら、俺は魔法陣に送り込む魔力量を徐々に上げていく。それに比例するように、指先の小さな火球は大きく、熱く、激しく燃え盛り、半径3メートル程の火球が完成する。
「し、シロンさん……?」
アリシアは心配そうな顔で大きな火球を見ている。ソアは、パチパチと拍手をしていた。それだけでなく、周りに居た人達もこちらを見てざわざわとしていた。
俺はそろそろ良いだろうと思い、赤々と燃える大きな火球を、朝の青空へと放った。その大きな火球が、浮かんでいた雲を貫き、それでもなお進み続け、青空へと吸い込まれていく様子をしばらく眺めていた。
町の人達も一緒に……………。
「まあ、あれくらいの大きさの火球を作るなら、今の『火球』の魔法陣を使うより、その一段階上位の『豪火球』の魔法陣を使った方が効率的だが。」
俺はそう言って、何事もなかったかのように再び歩き出す。二人はというと、しばらく呆然と空を見上げた後、小走りで追ってきた。
「び、ビックリしましたよ。てっきりこの町を消し飛ばすのかと……。」
アリシアがそんなことを言ってくるので、思わず躓きそうになった。
「おい、俺はお前の中でどういう扱いをされているのだ。」
ソアは隣でクスクスと笑っていた。
その後、俺はこの世界の魔法理論を教えてもらいながら歩いていた。
聞くと、なんでもこの世界では、自然界に存在する精霊の力を借りて魔法を行使するらしい。そのため、詠唱を行うことで、精霊に呼び掛けているそうだ。では何故魔力を消費するのか。それは、力を貸してくれた精霊に、魔力を対価として払うからだそうだ。つまり、この世界の人間は、自分で魔法を発現させているわけではなく、精霊を呼び、精霊によって魔法を発現させているのだ。
「なるほどな。」
俺は二人から説明されたことを頭の中で整理していると、いくつかの疑問が浮かんでくる。特に気になったのは次の二つ。
疑問1:俺はこの世界で詠唱せずに、すなわち精霊に頼らずに魔法行使出来ること。
疑問2:精霊との親和性の高い俺の目から見ても、この世界の人間が魔法行使する際、精霊の気配がしないこと。
疑問1については初め、俺がこの世界で異界人というイレギュラーな存在であるため、この世界の魔法理論以外でも魔法行使が出来るという、特殊な例なのだろうかと思ったが、疑問2と合わせて考えてみると、実は、この世界で一般に語られている魔法理論は間違っているという可能性が高まる。
しかし、その説が正しいと仮定すると、この世界の人間は、長ったらしく詠唱なんかして、精霊を呼び出した気になって、精霊に魔法を使ってもらっている気になっていて、実際は、自分の魔力で、自分が魔法行使していたということになる。
うむ。これが本当に正しいなら、この世界の人間はかなり痛いことをしていたことになる。伝えたら、アリシアとソアも顔から火が出るのではないだろうか……。
まあ、今はその説を裏付ける証拠もないし、黙っておこう……。
「シロン……?」
ソアの声に、ふっと現実に戻される。
「ん、なんだ?」
「急に喋らなくなったから、何かあったのかなって……。」
どうやら俺は、考え事に集中すると、周りが見えなくなる癖があるらしい。今もついつい自分の世界に入り込んでしまっていた。
「ただ、教えてもらったことを整理していただけだ。」
「ならよかった……。」
そんなやり取りをしているうちに、グルーナの出入口である門の前まで来ていた。
「いよいよですね。」
アリシアが、これから先の旅に期待を膨らませながら言う。
「これからが本番……。」
どうやらソアも同じ気持ちだったらしい。
二人の、微妙に色の異なる金髪が、朝日に照らされてキラキラと輝いている。
「さあ、行こうか。」
「はいっ!」
「ん!」
俺の呼び掛けに二人が元気よく答えると、三人でグルーナを背に、歩いていった。王都エシュタリアに向けて。
───その頃、ある森で───
陽の光が大きな木々によって遮られ、朝でも昼でも暗いある森に、次々と断末魔の鳴き声が響き渡る。その種類は、通常のモンスターから魔獣まで様々。
「足りないわ……。」
そう呟く人影が一つ。片手には、身の丈よりも大きな鎌が握られている。そして、その周囲には多くの死骸と、興奮したモンスターが多数。
一匹のモンスターが、目に赤い光を灯して、その人影に飛び掛かる。刹那、暗い景色に一条の光。少し遅れて、飛び掛かってきたモンスターから鮮血が迸る。続けて、周囲のモンスターが同時に多数飛び掛かってくる。
「全然……駄目。」
そう呟きながら人影は、大きな鎌を器用に操る。すると、人影の周りにいくつもの煌めきが一瞬。やはり少し遅れて、飛び掛かってきた多数のモンスターの身体から、血が吹き出る。それぞれ短い断末魔の叫びを上げた後、目に灯った赤い光を、次々と消してゆく。
死骸の山が築かれたその場所から、何事もなかったかのように、一つの人影が、大きな鎌をぶら下げて立ち去っていく。
一筋の朝日が、木々の隙間から差し込む場所で、その人影は止まって、空を見上げた。被っていたフードを外すと、長い髪がなびく。緩く二つ結びにされたその髪は、単純に黒髪というのではなく、グラデーションのように紫がかっているようにも思える。背の程は160センチ越えるくらいで、その髪の色とは対照的に、白く美しい肌をしている。
血に濡れた鎌の刃が、朝日を反射して怪しげに光る。
「全く、何処に居るの……。」
どこか面倒な感じで、しかし、諦めようとはしていない雰囲気で、何かを……誰かを探している。
一息つくと、再びその少女はフードを目深に被る。身の丈を越える大きな鎌を一振りし、刃についた血を払う。再び歩き出すと、光が当たらなくなり、闇に紛れる人影に戻った。
しばらくすると、モンスターの断末魔が再び聞こえ始めた。
どうでしたでしょうか!?
最後になぞの少女が出てきましたね!
彼女は一体……。
ルウシェ「何だかシロンの周りに女の子が集まってきてない? これって私を助けてくれる物語だよね!? ちゃんと助けにきてね!?」