第四話:グルーナ
どうもっ!
毎週の更新を結構忘れるShironです!
前回は、地下迷宮で封印されている少女の話の、良いところで終わりましたね。今回はその続きから。
是非楽しんで下さいませ。
部屋に静けさが戻る。忌々しいオブジェと、そこから延びていた鎖は消滅した。
「終わったぞ。これでお前は自由だ。」
俺は、彼女の方に振り返りながら言う。彼女は地面に座ったまま、自分の腕を交互に見ていた。今までそこにあった鎖はもう無い。彼女を縛り付けるものはもう、何も無い。
俺は彼女の側まで行く。「大丈夫か?」と声をかけると、彼女は俺の右手を両手で握って言う。「温かい………。」と。
「どれくらいここに封印されていたんだ?」
俺がそう聞くと、彼女は握った手を見つめていた紅い瞳をこちらへ向ける。少し考えた後に、彼女が答える。
「400年くらい……、だと思う………。」
だと思う………。って。まぁ、ずっと地下迷宮に封印されていたんだ。外の様子も分からないだろうし、無理はないか。
「そうか、それは大変だったな………。だが、もうそれも終わりだ。お前は封印から解放された。自由の身だ。」
それを聞くと、彼女は瞳から涙を流す。涙が頬を伝い、地面に落ちる。静かに、静かに………。
しばらくして、彼女が俺の手を放すと、涙を拭って改めて俺を見る。
「名前は………?」
彼女がそう聞いてきた。俺は、しゃがんで彼女と視線の高さを合わせる。
「シロンだ。シロン・ヴィルヌーヴ。」
「シロン………。ありがとう……、シロン………。」
「ああ。」と返して、俺は頷く。
「お前は?」
俺が彼女の名前を聞き返すと、彼女は少し微笑んで答えた。
「………。ソア………。」
ソア………。何だろう、賢神界ではあまり聞かない名前だからなのか、不思議と引かれるものがある………。気がする。
………。ところで、さっきまで気になっていなかったが、よく見ると、何の服も着ていないではないか。麒麟族というのはそういうものなのか?いや、まさかな。
「ところで、ソア。どうしてそんな格好をしているんだ?少々目のやり場に困るんだが………。」
俺は自分が身に付けている黒いマントを取り、彼女に被せる。するとソアは、少し顔を赤らませ、頬を膨らましながら被せられたマントを身体の前まで引っ張ってきて隠す。
「………。シロンのエッチ………。」
ソアがそう呟く。
いや、お前がそんな格好をしている方に問題があると思うが………。むしろ、羽織るものを与えたのだから感謝して欲しいくらいだ。
そんなことを考えながら、俺は苦笑いをする。
さて、この件は解決したことだし、取り敢えず地上に戻るか。この地下迷宮に来る時は、手頃な場所に穴を開けて潜ったのだが、また同じ様にするのは少し面倒なので、空間移動することにした。一度訪れた場所ならば(俺なら)距離を問わずに移動することが出来る。
「地上に戻るぞ、ソアも行くだろ?」
そう聞くと、ソアはこくりと頷く。
「なら掴まれ。」
そう言って右手を差し出すと、ソアはその手を握った。
「空間移動」
そう唱えると、俺は数時間ぶりに、ソアは400年ぶりに地上に出た。2人が陽光を浴び、風の囁きを聞き、森の匂いを感じたのは、地下迷宮で魔法行使によって発生した光に包まれ、その姿を消してからすぐの事だった。
「………。」
ソアは辺りを見渡し、空を仰ぎ、目を閉じて耳を澄ませる。俺はその様子を眺めていた。風になびく黄金色の髪が木漏れ日に輝く。羽織った黒いマントが、より一層髪を美しく映えさせている。その横顔に見える閉じた目に、何かが光って見えたのは気のせいではないだろう。
400年………。ずっと地下迷宮に封印されていた彼女はその間、何を思って生きてきたのだろうか………。国王に裏切られた事への悲しみと怒り、日の当たらない場所で孤独になり、感じる寂しさ。あるいは、その全てか………。
「ソア。」
俺が呼ぶと、彼女は目を開けてこちらを向く。
「ソア、俺はこれから人探しをしなくてはならない。そのため、北の方にある町へ向かう。だから、ここで別れる事になるが、これからお前が楽しく生きていけることを祈っているぞ。いつかまた会おう。」
そう言って、俺は右手で彼女の頭を撫でると、北の方にある町を目指して再び歩きだした。
「─────っ!待って!」
ソアが俺の後ろでそう叫ぶ。俺は振り返り、「どうした?」と聞くと、彼女はこちらへ駆けてきて俺の左腕を掴む。そして、俺の目を見て言う。
「私も………。私も連れていって! 私……、他に居る場所無い。私の居る場所……、シロンの所!」
「おい………。」と、少し困惑してしまう。何かと俺は事件に巻き込まれやすい体質なので、一緒に居ると必然的に危険な目に遭う。ましてや、これから先、情報を集める旅をしなくてはいけないだろうから、安定した生活を送ることが出来ないだろう。
加えて、400年もの間何も出来なかったソアにそんな暮らしをさせたくはない。
「あのな、俺は─────」
「お願い………。何でもするから………。お願い………。」
う~ん………。何故そこまで俺にこだわるのか分からないが、そんなにお願いされては、否定してやるのも可哀想ではある。
「何でも……か………。なら、少し頼みたいことがある。良いか?」
そう言うと、何故かソアは頬を赤らませ目線を少し外す。俺の左腕を掴んでいた両手から力が抜けるのが感じられる。しかし、すぐに俺の腕を掴み直して、目を合わせる。
「わ……分かった………。それでも良いから……連れていって………。お願い………。」
まぁ、良いだろう。安定した生活は送れないかもしれないが、ソアの身の安全は俺が守る。案外俺の側にいてくれた方が安全かもしれないしな。この世界には魔物も居ることだし。
「分かった、ついて来い。だが、ひとまず人探しだ。良いか?」
左腕に張り付いているソアは、こくりと頷く。
ところで、さっきの反応が少し気になるな。恥ずかしがるようなシーンはなかったはずだが………。
しばらく後に聞いた話ではあるが、この時ソアは、身体で奉仕させられると思っていたらしい。まったく、勘違いも甚だしい。どう見たら俺がそんなことを命令するような者に見えるのだ。
俺とソアは、北の町を目指して森を進むのであった。
─────アリシアはと言うと………。
「これと言った魔力反応は感じられませんね………。」
魔王襲来の情報をもとに、トルドの森までやってきたアリシアは、かれこれ数時間探索し続けている。
アリシアがこの森に来た理由は二つ。一つは、魔王又は魔王幹部を発見すること。もう一つは、昨日この森で会ったシロンの無事を確認すること。
確かにシロンさんは強かった………。もしかしたら、この国に古くから伝わる伝説に登場する『異界の勇者』かもしれない。でも、例えそうだとしても、怪我が治りきったばかりの身体で、ましてや、何かの悩みを抱えている状態で、かの魔王と対峙したなら命はない………。
「早く見つけないと………。」
アリシアは辺りの魔力反応に意識を向けつつ、シロンと会ったあの大樹を目指して森を進んでいく。
しかし、そう簡単に進ませてくれないのが、魔獣である。何かの縁なのか、対峙した魔獣はシロンと協力して倒した、狼型の魔獣《闇狼》だ。その数三匹。
アリシアは吊るしてある剣の柄を右手で握る。
「死にたくなければ、この場より立ち去りなさい!」
そのアリシアの言葉を気にすることもなく、闇狼は唸り、牙を剥き威嚇してくる。
アリシアは鞘から剣を抜き放つと、その切っ先を真ん中の闇狼に向ける。そして、両手に持ち変えると魔力を刀身に送る。淡く輝きを放つ剣を右腰に引いて構え、腰を落とす。
闇狼は警戒していて動く気配はない。
「はぁっ!」
アリシアは淡く輝きを放つ剣を、右腰から左斜め上に切り上げる。そして、その軌道上から輝く刃が放たれる。その刃は迷い無く真ん中に居る闇狼へと飛ぶ。刹那、真ん中の闇狼から黒々とした血が噴き出す。
その出来事が火蓋を切ったかのように残り二匹が駆けてくる。アリシアもそれに合わせて迎撃すべく、前に足を踏み出す。アリシアは右前方から飛びかかってくる闇狼に狙いを定め、剣を振る。見事に首に命中し即死させると、すぐさま逆方向から来ていた闇狼に剣を突き出す。白銀の刀身が最後の闇狼の脳天を貫いた。
剣を一振りして、刀身に付いた血を払い捨てから剣を鞘にしまう。
アリシアは「ふぅ………。」と一息つくと、すぐに探索の続きを始めた。
─────その頃、俺とソアは………。
「おい。」
と俺がソアに呼びかける。
「ん………?」
とソアが眠たそうに返事をする。
俺とソアはようやく、森の出口に差し掛かろうとしていた。まぁ、歩いていたのは俺だけなのだが………。
「いつまで俺の背中におぶさっているつもりだ。」
そう、俺達が森を進み始めて一時間経った頃に、ソアが疲れてきたようだったので俺はソアを背負って進むことにしたのだった。
「何だか……、眠たくなってきた………。」
とソア。
400年間寝ていたようなものだろ………。と突っ込みたくなるのを我慢する。それにしても軽いな。この身体の小ささは400年間食事と運動を出来ていなかったからか?いや、それとも生まれつきなのか………。
ソアは大体、40センチちょっとの身長の少女である。だから軽いのは無理無いが………。
俺はソアを降ろす。「シロン………。」と残念そうにするソア。
400年間動いていなくて、すぐ疲れるのは分かるが、だからこそ動くことに慣れるべきだと思ったのでこうした。
「そう言えば、お前が(背が)小さいのは、動いていなかったからか?それとも食事を摂れていなかったからか?」
俺がそう聞くと、ソアは不機嫌そうな顔をして答える。
「別に(胸が)小さくても困ること無い。それに、女性の価値は(胸の)大きさで決まるわけじゃない………。」
女の価値がどうとかこうとかは分からんが、俺の質問の答えになっていない………。
「あのな、ただでさえ長い間動けてなかったんだから、久し振りに自分の足で歩く気にはならないのか?」
そう言うと、ソアは更にむくれる。
「なった………。だから、始めは自分で歩いてみた………。でも疲れた………。」
「十分休んだだろ。それに、これから先長い旅になるかもしれない。今のうちに少しでも体力をつけておくべきだろ。」
そう。これから先、この世界の摂理を知り、賢神界へ戻る手掛かりを探すための旅をする事になるだろう。ソアが俺についてくるのは自由だが、毎回俺が彼女を背負うわけにもいくまい。
「………。分かった………。自分で歩く………。」
まだ少しむくれたままではあるが、納得してくれたようで何よりだ。子供だと言って甘やかすわけにも……いか……ない………。
ん?
「ところでソア。400年間封印されていたんだよな?」
俺は今まで気になっていなかったが、よく考えたらとても不思議なことに気がついた。
急な質問にきょとんとするソアは「そうだけど………。」と今更な感じで答える。
人は見かけによらないものだな。見た目はどう見ても少女だが、実年齢はなかなかなものだろう。ちなみに、俺は恐らく今、1000歳になってるかなってないかくらいだろう。まぁ、賢神になってからは、身体の老化は無くなるので、俺の身体は賢神になった年齢、17歳なのだが。
「ソア、お前今いくつだ?見かけによらず割といってないか?」
そう言ったとたん、この場の空気が一気に重くなったのは気のせいだろうか。
……………。
………。
…。
「─────っ!シロンの馬鹿っ………。」
何故か馬鹿よわばりされた俺。彼女は怒って、そっぽを向いてしまった。
歳を聞いただけでそこまで怒ることは無いだろ………。確かに、女性に歳を聞くのはマナー違反と聞いたことがあるような無いような感じではあるが、彼女についての情報が少なすぎるのだから、少しくらい教えてくれても良いだろうに………。
「………。悪かった、許せ。」
ここは俺が一歩引いて、どうにか機嫌を戻してもらうとしよう。
横目で睨んでくるソアは「謝る気……無いでしょ………。」と、完全に見透かされていた。俺は苦笑いを浮かべながら「そんなことはない」と、押し通した。
「それより………。」
と、俺はもう一つ気になったことを聞こうと、話を展開する。
「お腹は空かないのか?400年もの間、生命力を生成し続けることができる身体が故に死にはせずとも、飲まず食わずでは飢餓感や脱水感はあるだろう?」
ソアはそれを聞いてほんの少し考えてから答えた。
「飢餓感も脱水感もある………。でも……、400年も我慢してたら慣れてくる………。」
そのすさまじい忍耐力には感心するな………。と思ったが、その忍耐力があるなら、尚更少しは自分で歩けと思ってしまった。そして、アリシアを見つけて一段落したら、町にあるであろう飲食店に連れていくか、とも思った。
今は「そうか。」とだけ答えておく。
こんな会話をかれこれ数十分続けていると、森の奥の方から何かの気配を感じ取った。
「ソア、少し後ろに隠れてろ。俺のそばを離れるな。」
そう言うと、すぐさまソアは俺の後ろにまわると、俺の服の端を手でつまんだ。
掴まれると少し戦いにくいな………。などと思いつつ、意識を前方に向ける。微妙に影に隠れていて姿がはっきりとは見えないが、特に殺気だった気配ではないことから、人間であると推測できる。
すると─────
「シロン……さん?」
ん? この世界で俺の事を知っているのは、今、後ろに隠れているソアと………。
そこまで思考を巡らせた時、一人の人間が日陰から出てきた。木漏れ日に照され、金色に輝く髪、そして青い瞳。やはり………。
「久し振りだな。と言っても、一日振りか。」
俺は、この世界で初めて会った人物であり、今の俺の目的である人物。アリシアに再び会うことが出来た。
アリシアは軽く頭を下げて会釈すると、改めてこちらに向きなおる。そして、視線が少し下に行き、俺の後ろに隠れているソアに向けられる。
アリシアは不思議そうにして「そちらの方は………?」と尋ねてくる。
その質問に俺が「こいつはソア。訳あってついさっき─────」
会って共に行動することにした。と言おうとしたら、後ろに居たソアが割って入ってきて
「恋人………。」
などと戯けたことを言うので、アリシアは両手で口を抑え驚き、どう見ても真に受けている様子だ。
俺は、お仕置きにソアのおでこを指で軽く弾く。「うっ………。」と声を漏らすソアから目をアリシアに戻し、「ついさっき会ったばかりだ」と訂正を入れておいた。
それを聞いてほっとしたのか、アリシアは「そうだったのですね。」と微笑んだ。しかし、はっと思い出したかのように、アリシアは心配そうな顔になる。
「そっ……そうでした!今この森に魔王か、その幹部が来ているらしいのです。お二人は大丈夫でしたか?」
魔王?幹部?何のことかよく分からないが、特にそれと言ったような魔力反応は感じ取れなかった。ましてや、ソアはもちろん、俺もそんな奴には会っていない。
「見ての通り無事だ。それに、特に大きな魔力は感じ取れなかったぞ?」
昨晩森で戦った、二足歩行の大きな狼型魔獣はそれではないだろう。あれは、この森の、いや、あの付近のリーダー的存在ではあっただろうが、魔王などと呼べるような強さではなかった。
アリシアは「そうですか………。」と言って、怪訝そうな顔を浮かべながら、何かを考え込むようにした。
「ところで─────」と俺が話を展開する。
「ちょうどお前を探しに行こうと町に向かっていたところなんだ。色々と教えてもらいたいことがあってな。」
俺がそう言うと、アリシアが
「実は私もシロンさんに伺いたいことが沢山あるんです!ここは少し危険なので取り敢えず町に行きましょう。」
木漏れ日を反射する金色の髪を、キラキラと輝かせながら、微笑んで言った。
俺はその提案を受け入れ、三人で町へ向かうことにした。しかし、何故かさっきからソアの機嫌が悪いように感じられる。まだ年齢のことで怒っているのだろうか………。などと考えながら、俺達は歩きだした。
道中、魔王襲来の情報のことについて話した。そして、俺がそれらしき魔力反応を感じ取っていなかったこと、アリシアが魔王もその幹部も発見できていないこと、何より、ギルドが魔力を感知した時間帯から推測して、その原因が俺だということに行き着いた。
昨晩、多くの魔獣と戦った際に使用した魔法と、戦闘時に俺から出る魔力を観測してしまったということだろう。
そんな話をしているうちに、目的の町『グルーナ』に到着した。アリシアによると、この町はエシュタリア王国の西の方に位置しているらしい。
正面門から入り、メインストリートを進む。何やら俺を見て不思議そうにしている人が多く見られるが、理由はよく分からない。気にせずアリシアに着いていくと、あるお店の前に到着した。
「ここは?」
俺がそう尋ねると、アリシアが少し苦笑いで答える。
「洋服店です。その格好だと少し目立っていますからね………。何より、ソアさんがこのままの格好というのも………。」
すっかり忘れていた。今の俺の装束は、十二賢神として仕事をするときのもので、マントはソアに貸しているが、黒色をベースにした取り合わせで、割と高価なものである。見た目もそれなりに重厚感がある。ましてやソアは、裸にマントをくるんだだけである。
流石にこんな堅苦しい服装、ましてや隣に布を一枚巻かせただけの少女を連れて歩いていては、自国の城下町であろうと浮いてしまうだろう。
「なる程な。だが、残念なことに俺達は金を持ち合わせていない。」
俺が今の経済状況を話すと、アリシアが微笑みながら返した。
「大丈夫です。お金は私が出しますから。」
なんという気前の良さ。そんなことをいつも通りの明瞭な声のトーンで言われても、こちらが困ってしまう。出会ったばかりの人に、そんなことまでさせるわけにはいかないのだが………。
俺は、アリシアのあまりの気前の良さに困惑していると、追撃してくるかのようにアリシアが話を続けた。
「そんなに悩まないでください。私、お金には困っていないので。」
アリシアがそう言い放つと、俺の手を掴み、店の中へと連れていった。ソアもそれに続いて店内へと入った。
アリシアは、「おっ……おい………。」と困惑しながらに声を漏らす俺を構うことなく、手を引いて店内の奥の方へと向かった。
気に入ったものが見つかったらしく、その場所で止まった。そこには、暗い灰色のロングコートがあった。この世界の素材はよく分からないが、このコートは薄手の生地で出来ており、腰のところには付属のベルトがあった。
俺がそのコートを見ているうちに、アリシアがそのコートの内に着る、黒色のシャツを探し出して持ってきた。「う~ん………。」と目前にあるコートと、持ってきたシャツを重ね合わせて、しばらく検討すると「よしっ!」といって、今度は少し離れたところから紺色のズボンを取ってきた。
ファッションの事に関しては知識が乏しい俺は、どこか楽しそうに服選びをしているアリシアをただ呆然と眺めていた。そして、何故か途中から服選びに参加しているソアが、淡い青色のマフラーを持ってきてアリシアに話しかける。そして、その話しに頷いて答えたアリシアはそれも選んだ服の中に置く。
他人の服選びがそこまで楽しいものだろうか………。と疑問に思いつつ、服選びを任せっぱなしの俺はその様子を眺める。
どうやら服選びが終わったようなので、俺は二人のもとへと向かう。会計の時に、どんだけ買うんだ………。と少し驚き、その値段を聞いた時にはもっと驚─────
「金貨11枚と銀貨9枚になります。」と店員の声。
……………。
………。
全く分からん。金貨11枚、銀貨9枚と言われても、その貨幣がどれくらいの価値なのか理解できない。しかし、これだけの量の服を買ったんだ、決して安くはあるまい。
「すまないな。こんなに買ってもらって………。」
こんなことをされても、特に返すものを持っていないので、申し訳なく言うことしか出来なかった。
アリシアは言われた金額を払いながら「謝らないでください。私がしたくてやったことなのですから。」と言い、改めて、その広い心と財力に感服した。
購入した服を手渡されて、俺とソアはこの店の更衣室でそれぞれ着替えることにした。手渡されたものは、黒いシャツ、紺色のズボン、暗い灰色のロングコート、淡い青色のマフラーと、いつの間にか買っていたブーツだった。
今着ているものを魔法で取り払い、魔宝庫と呼ばれる、術者の所持品などを入れておく特殊な空間に収納する。本来であれば、自国、ハイレドリア城の地下にある宝物庫とも繋がっているのだが、異世界から干渉することは出来ないらしい。
まぁ、それが出来れば、自分をハイレドリア城の宝物庫に飛ばして賢神界へ戻ることが出来るのだが、そう上手くはいかない。
続けて目の前に置いてある買ってもらった服も魔宝庫に収納する。そして、頭上に魔法陣を展開し、その魔法陣を身体を潜らせるようにして動かす。同時に、潜り終わった身体にはさっき魔宝庫に収納した、買ってもらった服が纏う。足元まで移動し終えた魔法陣は音もなく消え、あっという間に着替え終わる。
最後に、いつも身に付けている深い青色の宝石が一つ付いた首飾りを首にかける。この首飾りは、昔にルウシェから貰ったもので、かけていないとルウシェにねちねち文句を言われるので欠かさず身に付けているうちに、付けるのが習慣になってしまったものである。
そして、これを見て改めて思うのであった。必ず賢神界に戻り、ルウシェを救うと。
更衣室のカーテンを開け、店の外に出る。そこにはアリシアが待っていた。ソアは居ないのでまだ着替えているのだろう。
俺の服装をしばらく見て、微笑みながらアリシアが言う。
「似合っていますよ。」
どこかルウシェに似た澄んだ青色の瞳が、沈みかけた日の光によってキラキラと輝く。声は明瞭で、気品も感じられる。
「ありがとう。俺はこういった系統の知識が乏しくてな、人に選んでもらった方が良いらしい。」
そう言うとアリシアは、ふふっと少し声を漏らして上品に笑った。しばらくの間話していると、店から小柄な少女が出てきた。
少し装飾に凝った白いシャツに、膝上までの黒いスカートと黒色のニーソ。そして、上から長い白コートを羽織っている。袖口からは、下に着ているシャツの装飾であろうレースが見える。
なる程な。これがファッションセンスの力か………。あのソアが少し大人っぽく見えるのは気のせいではない気がする。
そんなことを思いながらまじまじとソアを見ていると、夕陽を浴びているからであろうか、少しかをを赤らめながら照れくさそうにして「どう………?」と聞いてくる。
どうと聞かれても、何と答えれば良いのやら。左隣のアリシアからは何かを促すような視線を感じるが、その意図が全く分からない。森での会話の時みたく怒らせないように、なるべく変なことを言わないようにしなければ。
「ああ、とても似合っている。少し大人っぽく見えるぞ。」
しまった、最後のは余計だったか………。と思ったが、そうでもなかったらしい。まだ気恥ずかしそうにはしているが「シロンも……似合ってる………。」と言った。
さて、アリシアのお陰で服装を整え終わったところで、俺とソアは彼女に連れられて、ある宿屋までたどり着いた。何でもこの町の中のお勧めの宿屋らしく、お風呂も設置されているらしい。それがすごいことなのかは、この世界のことをよく知らない俺にとっては分からないが………。
正面のドアを開け中に入ると、小さなフロントがあった。アリシアがそこに居る係の男性に話しかけた。
「あと2部屋空いていますか?」
とアリシア。
「はい。空いてますよ。」
と係の人。
「では、そこの予約もお願いした─────」
アリシアが予約を付けようとした時、俺はそこに割って入る。
「待て。その予約、まさか俺達の………。」
そう言うと、アリシアはきょとんとして「そうですよ………?」と言い怪訝な顔をする。すると、
「あっ……、もしかして、二人一緒の方が良かったですか?」
などと言うので、いつかこの者に一般常識と言うものを教えてやらねばならないと思った。
「いや、そうではなく。お前にここまで世話をさせるわけにはいかない。確かに今晩はこの町で過ごすつもりだが、自分達でどうにかするさ。」
そう。いざとなれば町の外に魔法で家を建てれば良いだけの話。アリシアに頼りっぱなしになるわけにもいかない。と思ったのだが………。洋服店に入る前の時と同じように、彼女は微笑んで言った。
「気にしないでください。シロンさんの事について教えてもらう為の情報料だと思ってください。」
いや………。その理論で言うなら、俺もアリシアに聞かねばならないことがあるので、等価の情報料を払わねばならないことになるが。
そんなことを考えていると、俺のとなりに居るソアが言った。
「シロン、ここまで言ってるんだから言葉に甘えよう。」
うむ………。そうしたいのは山々だが………。
「だがな─────」
別にここに泊まらなくても、町の外に一晩過ごす家を建てれば良い話なんだ。と言おうとしたが、本日二回目、ソアが割って入ってきてアリシアに言う。
「言葉に甘える。でも、私はシロンと同じ部屋で良いから、予約する部屋は一つで良い。その方が経済的。」
と勝手に話を進め、アリシアもそれを承諾し部屋を一つ予約した。代金は前払いらしく、一晩分(銀貨1枚、銅貨5枚)を支払った。
言葉に甘えて部屋を借りてもらったのはもういい、経済的に考えて部屋を一つにするのも良い。ただ、普通に考えたら男は男で、女は女同士の方が良いのではないか? と疑問に思っていると、何を思ってのことなのかソアがこちらを見て笑みを浮かべる。
まぁ、寝るときに考えれば良いかと思い、今は後回しにする。借りた部屋は、三階の四つある部屋のうち一番奥の部屋だった。ちなみにアリシアはその隣の部家だ。
俺とソアは借りてもらった部屋に荷物を置くと───と言っても所持品はないので、コートを脱いで小さなクローゼットに入れただけなのだが───隣のアリシアの部屋に向かった。ノックをして中に入ると、部屋の真ん中にどの部屋も共通であろう円形の小さな机と、三つの椅子が置かれていた。
「どうぞお掛けください。」とアリシアに言われたので、椅子に座ると、ソアとアリシアも連れて座る。
話し合いの準備は整った。部屋の窓のカーテンは閉ざされているが、日がすっかりと沈んでしまった様子が窺える。ソアも久し振りに歩いたので疲れているだろうからなるべく手短に済ませたい。
「では、取り敢えず俺のことから話そう。」
俺は話を展開する。
二人の視線が俺に向けられる。俺は目を閉じ、少し間を置いて再び声を発する。
「俺はシロン・ヴィルヌーヴ。賢神界の追放者だ─────。」
と。
どうだったでしょうか?今回の出来映えは。
私の小説はこれからも、技術や文法、語彙など、どんどん進化させていきます!
これからもよろしくお願いします!!
(更新忘れないようにしないと……。)