第二話:絶望と希望
お久し振りです。Shironです。
かなりの期間が空いてしまいましたが、今回から毎週金曜更新を目標にしていきたいと思います。
皆さんのコメントが私のやる気の糧となりますので、どうぞよろしくお願いします!
サァァーーー、という風に揺られる木々の音が聞こえる。そして、目を閉じたままでも感じる、チラチラと顔に差し込む光の感覚。何故か、背から腹まで貫いているはずの禍々しい魔槍による痛みは、あまり感じない。
生きている────
自分の魔力も感じる────
芯魂も無傷だ────
どうなった………。俺は、ペトロから『罪転天槌』を受け……て………。
────っ!
「ルウ………っ!」
ルウシェ!!と思わず叫びそうになるが、目を見開き、僅かに朦朧としていた意識が完全に戻った瞬間、いままで感じていなかった魔槍の痛みが、雷撃の如き電気信号となって神経を介して、脳頭を貫く。
よく見ると、俺はそれなりに大きい木にもたれ掛かるようにして、その根本に座っている。そして、俺の傷口から流れ出している血液が、その場の土を赤々と染めている。
これだけの血液が流れ出れば、流石の俺でも危うい。勿論、治療しようと思えば意図も簡単に治すことが出きるだろう。しかし、どうしても、この傷を治す気にはなれないのだ。
「ルウ……シェ………」
この傷は確かにペトロの魔槍によるものだ。しかし、それと同時に、俺の過信が付けた傷でもある………。
過信………。そう、俺は俺の強さに自惚れていた。十二賢神で、その中でも序列三位という限り無く最強に近い者として賢神界に存在した。
十二賢神内では、三位と四位の間には実力で大きな差があり、上位三者は、特に秀でた実力の持ち主だった。
だから、その分国民の期待や信頼を背負っていることを自覚し、十二賢神の一人としての役割を全うすべきだった。
あの時も………。
ペトロ・グリセルダとの戦闘の時も、俺は全力では戦わなかった。俺とペトロの間に大した実力の差はない、という傲慢が、戦闘時に怠惰をもたらした。
始めから、全身全霊をかけて挑むべきだった。俺は嘗めていたのかもしれない、いや、嘗めていたのだ。奴は時限式の魔法を得意とする者だったが、俺の無陣化の技術で先手を取り、主導権を勝ち取るつもりだったが、そう甘くはなかった………。
どこからそんな自信が涌き出ていたのだろうな………。順位が上の相手に対して、自分の方が優っているなどと………。
滑稽極まり無い様だな。
─────私が………、守るから─────
─────あなたは、私を助けてね─────
……………。
すまんな、ルウシェ………。俺はこのまま死ぬだろう。君を死なせたんだ、相応の罪を償わなければなるまい………。
罪転天槌は、それを受けた者の罪に相応する裁きを与える魔法。
差し詰め、俺の罪はルウシェを死なせたこと。そして、その償いとして《死》を受けろというところだろう。
こんな、何処とも知れない森の中で死ぬとは思ったこともなかったな………。精々、この木の栄養にでもなるとするか………。
俺は、血が流れ、力が抜け、意識が遠退いていくそれらの感覚を覚えながら、目を閉じた。
しばらく混沌とした世界に身を委ね、もう少しで、自分という存在に終止符が打たれようとした時─────
「─────ですかっ!?」
ん………?何だ、まだ死んでないのか………。
この声は………。
俺は目を開け、曇った視界の正面で焦りながら呼び掛けてくる人物を捉えた。声の調子から女性であることはすぐに分かった
「大丈夫ですかっ!?」
まだ視界は完全に復帰していないが、再び意識が戻りつつある。
「よっ……良かったです………。まだ、生きていたのですね………。」
ぼやけた視界が次第にクリアになっていく。そして、真っ先に捉えたのは………。
─────青い瞳………。
居るはずの無い、現れるはずもない人物………。守りきれずに、俺の目の前で消えていった彼女のことを思い起こさせる。
「ルウ……シェ……か…………?」
途切れ途切れの言葉で訪ねると、目前の青い瞳の少女が、少し申し訳なさそうに答える。
「ごめんなさい……。私はあなたの知人ではありません………。」
………。
だろうな………。居るはずが無いことは分かっていた。しかし、どこかそういった、奇跡と呼ばれる現象を期待していなかったと言えば嘘になる。
やっとまともにものが見えるようになった視界に写ったのは、やはり、ルウシェとは別人だった。
目の前の少女は、木漏れ日を反射してキラキラと輝く金色の髪に、それをより一層映えさせている白い肌。しかし、何よりその澄んだ青い瞳は、ルウシェの瞳そのものだった。
「あっ……安心してください!今すぐその魔槍を取り去りますからっ!」
そう言うと彼女は、俺の身体に突き刺さっている魔槍に手を触れようとする。
「止めておけ。この魔槍はお前の手に終えるものではない。容易く触れれば、死ぬぞ。」
そう。この魔槍は十二賢神第二位ペトロ・グリセルダによって生み出されたものだ。同じ十二賢神でもこの魔槍を取り去ることが出来るのは、実力の近い俺か、第一位、それこそ浄化・防御魔法を得意とするルウシェぐらいにしか出来ないだろう。
ましてや、このような通りすがりの少女が除去出来るわけがない。
「私、闇系統のものには多少耐性があるのです。この魔槍も浄化できると思います。」
「おっ、おい………。」と言いかけたとたん、彼女は手を組み、祈るようにして何かを詠唱し始めた。
「《我が身に聖なる光の加護を与えし精霊よ、その清光をもって魔を浄化したまえ。》『プューリフィケーション』」
詠唱が終わると、彼女の周りに集まっていた光の粒子が、彼女の右手に集中する。優しい光に包まれたその手は、俺の身体に突き刺さっている魔槍に触れる。
一瞬、魔槍と彼女の手との間に光と闇が相殺したかのような現象が起きるが、次第に優しい光は魔槍を包み込むと、光を強め、魔槍の原型を崩していく。
それはほんの数秒の出来事だった。
魔槍が完全に消え去ると、彼女は
「ふぅ。無事に取り去ることが出来ましたよ。」と言い、少し安堵した様子で話を続ける。
「後は、その傷を治療するだけですね。」
俺は言葉が出てこなかった。
今のは何だったんだ。何かを詠唱しだしたかと思うと、聞いたことの無い魔法を使うではないか。終いには、あの禍々しい魔槍をほんの数秒で取り去ってしまった。
彼女は再び何かを祈るようにして手を組む。
すぅーー。っと彼女が息を吸い、詠唱を始めようとした刹那、一気に森が静かになった。
木漏れ日は薄れ、風が収まり、木々の揺れは無くなる。
しかし、立ち込める空気は自然な感じではなく、どこか警戒が感じられるようなピリピリとした雰囲気だ。
「どうやら、魔獣が来てしまったようですね………。」
魔獣……?ここは、そんなものが出てくるような物騒な場所だったのか。
「恐らく今までは、あなたに突き刺さっていた魔槍から発せられていた闇の力が、魔獣達を寄せ付けていなかったようなのですが……。」
なるほど、その魔槍が無くなった今、魔獣達が警戒するものは無いと………。
ん?ちょっと待て。いくら弱っているとしても、俺は十二賢神だ。魔獣もそんな者に襲いかかるほど馬鹿ではあるまい。
「来ました………。」
彼女はそう言うと、左腰に下げていた鞘から剣を抜き放つ。それを中段に構えると、俺を庇うように前に立ち、言う。
「血に餓えた魔獣達よ、命が惜しくばすぐにこの場から立ち去りなさい。」
心強い事を言ってくれる。
だが、その剣先が僅かに震えているのは気のせいではあるまい。
俺達の15メートル程先に居る赤い目をしたダークブラウンの毛を持つ狼型の魔獣が五匹、こちらを睨んでいる。
俺にとったら大した敵ではないが、さて、彼女はどうなのだろうか。
当然俺も加勢した方が良いのだろう。今すぐこの傷を直し、この者の前に立ち、あの魔獣を一掃すべきなのだろう。
分かっている。分かっているのに何故か、俺の身体は動こうとしない、魔法を使おうとしない、精霊の加護を受けようとしない。
そうしているうちに、状況はより一層緊迫している。
ガルゥゥ、と唸り声を鳴らしている魔獣達の真ん中の一匹が飛び掛かってきた。
その赤い目が捉えたのは勿論、俺の前に立っている彼女だった。
鋭い爪と牙を立てて飛び掛かってきた魔獣が、彼女の間合いに入る。すると、彼女は一歩踏み込み、飛び掛かってきた魔獣に剣を振り下ろす。
剣は魔獣の前頭部を叩き斬った。即死だろう。
彼女が、魔獣の頭部にめり込んだ剣を抜くと、今度は左右から一匹づつ飛び掛かってきた。
再び剣を構えると、右側から来た魔獣に剣を振り下ろす。今度も見事に前頭部を叩き斬り、即死させたが………。
─────遅い。
左から飛び掛かってきた魔獣が、透かさず彼女の左腕に噛みつく。めり込んだ剣を抜くのに時間をとられた彼女の失態だ。
「うっ………!」
彼女はその痛みに堪えながら、剣を右手で持ち、左腕にかじりついている魔獣の腹に剣を突き刺す。
キュウゥーン……、と言う魔獣の鳴き声が上がり、その魔獣は血を流して地面に横たわる。止めを刺そうと剣を逆手に持って突き立てようとしたその時─────
ドスッ!という鈍い音と共に、彼女の身体が3メートルほど飛ばされる。
待っていた二匹のうち一匹が、彼女に突進してきたのだ。
そして、もう一匹が倒れている彼女に飛び掛かる。仰向けになっている彼女は、飛び掛かってきた魔獣を何とか両手で受け止めようとしている。だが、傷を負った魔獣一匹と、突進してきた一匹、今彼女に乗り掛かっている一匹の計三匹がまだ残っている。
流石に危険な状況だな。彼女は俺に突き刺さった魔槍を取り去り、傷も癒そうとしてくれた。助けないわけにはいかない。
俺は身体に力を入れ、立とうとするが、やはり思ったように身体が動いてくれない。
そんなことをしていると─────
「ハァーーッ!」
彼女は右足で乗り掛かっている魔獣の腹を蹴り、魔獣を退かす。
やっとの思いで立った彼女は改めて俺の前まで来て、体勢を立て直すと
「大丈夫です。あなたは私が守りますから。」
─────っ!
俺は………。俺は再び同じ過ちを犯そうとしていたのか………。
ルウシェ、すまん。今一度だけ俺に立ち上がることを許して欲しい。俺を助けようとしてくれた者が今、目の前で戦っているのだ。
もう、あんなことを繰り返したくない。
だから─────っ!!
─────シロン………。立ち上がって。あなたのするべき事をするのよ。
完全に気のせいだ。気のせいだが、ルウシェがそう言ったように思えた。そして、俺にはそれで充分だった。
ガルゥゥ………。
三匹が彼女の前に詰め寄ってくる。そして─────
ガルゥゥー!!
三匹の魔獣が一斉に飛び掛かってくる。彼女は剣を中段に構えたまま動けずにいる。どう動けば良いのか分からないのだろう。だが、今はそれで良い。
何故なら、俺が守るからだ。
三匹の魔獣が彼女に爪と牙を立てて攻撃しようとしたその刹那。
ガイィーーン!!
突如現れた魔法障壁に阻まれ、魔獣達は5メートル程後ろまで飛ばされた。
「なっ……何が………。」
呆然としている彼女の横に歩み寄って言う。
「悪い、苦労を掛けたな。だが、もう大丈夫だ。後は俺がやる。」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている彼女は「えっ……?」とだけ声を漏らす。
俺はこちらを睨み、威嚇している魔獣に向かって言う。
「さぁ。誰を相手にしているのか理解できていないようだから教えてやる。俺は十二賢神第三位シロン・ヴィルヌーヴ。今回の騒ぎ、貴様らの死を以て償え。」
ガルゥゥ!!
三匹が一斉に唸りながら襲い掛かってくるが、俺は余裕の笑みを浮かべて右手を前に出す。
「豪火球!!」
中位魔法『豪火球』は下位魔法『火球』より、一段階強めたものだ。
右手から発射された直径3メートル程の、猛々しく燃え盛る火球が三匹の魔獣を飲み込み、消し炭にした。
森に風が抜け、木々が揺れた。
殺気立った気配は消え失せ、再び森に木漏れ日が差し始めた。
「三匹を……一斉に………。」
俺の一歩後ろに下がっていた金色の髪をした少女が、驚きのあまり声を漏らす。
「ああ、あれくらい大したこと無い。所詮は、相手の力量も測れない雑魚だ。」
それにしても、魔獣のいる森など、まだあったのだな。ほとんどの国では魔獣を駆除しきっているはずなのだが。
「あの………。身体の傷はもう大丈夫なのですか?」
彼女は心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だ、傷はもう塞がった。」
「それは良かったです。しかし、いつ治癒魔法をお使いになったのですか?全く気がつきませんでした。」
「治癒魔法は使っていない。俺には精霊の加護が働いていてな、そのお陰だ。」
彼女は「なるほど」と言い、納得した様子だった。
「そんなことより、人の心配をしている場合ではないだろう。左腕を見せてみろ。」
彼女は、右手で押さえていた左腕を隠すようにして言う。
「これくらい大したことありません。後で手当てしておきますから大丈夫です。」
「遠慮するな。俺に突き刺さった魔槍を取ってくれた借りがある。何より、その傷は俺を庇ったからできたものだ、見過ごすわけにはいかない。」
俺はそう言うと彼女に歩み寄り左腕を見る。
魔獣の牙で裂かれた傷口からは血が流れているが、特に毒が入り込んだ感じは無い。あの魔獣の牙に毒は無いらしい。
俺はその傷口に手をかざし、下位魔法『治癒』をかける。
淡い光に包まれた左腕の傷口は次第に塞がっていき、綺麗に治った。
「すごい………。」と声を漏らした彼女は、傷が治ると頭を下げる。
「ありがとうございます。魔獣から助けていただいた上に、傷も治していただいて………。」
「いや、魔槍を取り去ってくれたんだ。俺の方こそ感謝している。ありがとう。」
久し振りに「ありがとう」等と言ったが、さて、最後に「ありがとう」と言ったのはいつだっただろうかと、記憶を遡っていると
「そう言えば、名前を言っていませんでしたね。」と、彼女が言うので、俺も確かにそうだったと思う。
「私は、アリシアと申します。改めて、先程は色々とありがとうございました。」
アリシアなる者が微笑みながら名乗るので、俺もなるべく相手を怖がらせないようにしようとしながら名乗る。
「俺は、シロン・ヴィルヌーヴだ。俺からも改めて礼を言う。」
偽名を使った方が良かったかもしれないが、戦闘の時に堂々と名乗ってしまったし、変装もしておらず思いっきりシロンの姿なので、偽名を使ったところでいずればれることだろうと思って素直に名乗った。
「シロン・ヴィルヌーヴ………。この辺りではあまり聞かない名前ですね。どこの国の出身なのですか?」
ん?
これはまた予想外の反応だ。俺を知らないのか。まさかそんなことがあるわけない。十二賢神の名前など、そこら辺の子供でさえ知っていることだ。いったい何が………。
「シロンさん………?」
アリシアが不思議そうに覗き込んでくるので、聞かないわけにはいかなかった。
「アリシア、俺を知らないのか?十二賢神のシロン・ヴィルヌーヴという名に聞き覚えはないか?」
「申し訳ありません。もしかして、かなり有名な方なのですか?」
おいおいおいおい。賢神界の中で俺の事を知らない者など居るはずがない。
そう、賢神界の中では。
嘘だろ。ここはまさか─────っ!
「アリシア。ここがどこの国か聞いても良いか?」
俺がそう聞くとアリシアは、驚愕の色を浮かべて言う。
「シロンさん。もしかして記憶喪失になられてますか!?」
「頼む、教えてくれ。」
確かに記憶喪失になっている可能性も一瞬考えたが、それは違う。思い出そうとすれば、いくらでも今までの事を思い出せる。
そこから、記憶を改竄させられた可能性も考えたが、それも違う。何故なら、先程「十二賢神のシロン・ヴィルヌーヴという名に聞き覚えはないか?」と聞いた時に彼女は「十二賢神にそんな名前の人は居ない」とは言わなかったからだ。
つまり彼女は、十二賢神の事を知らないということになる。賢神界の中に俺の名前は疎か、十二賢神の存在を知らないものが居るとすれば、その人こそ重度の記憶喪失者だ。
俺の質問に彼女が答える。
「ここは、エシュタリア王国です。」
やはりか………。
そんな国は聞いたことがない。とすると、ここは賢神界ではない。
異世界だ………。
「シロンさん………?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。少しばかり理解しがたい現実を目の当たりにしただけだ。」
「理解しがたい現実………と言いますと?」
アリシアが首をかしげながら聞いてくる。俺はそれに呆れた顔をして答える。
「どうやらここは、俺の住んでいた世界ではないようだ。」
アリシアはそう聞くと、再び驚愕の色を浮かべる。
「あなたは……異世界から来た、ということですか………?」
「どうやらそのようだな。」
「まさかそんな……。」と声を漏らしながらアリシアは、何かを考え込むように下を向く。
しばらくの沈黙が過ぎた後、アリシアが口を開いた。
「ま……まぁ、ここで考えていてもどうにもなりませんし、とりあえずこの近くの町に行きませんか?私もその町に行くところだったんです。あなたみたいな強い方が付いてきてくれたら、この森を抜けるのも心強いですし。」
町があるのか………。この世界の町とは、人とはどのようなものなのだろう。
いくつか気になることがあるが、俺は付いていくわけにはいかない。何故なら、俺がこうやって再び立ち上がったのは、危機に面していた彼女を助けるためであって、俺がこの世界で生きていく為ではないからだ。
「悪いな、それはできない。俺はここで自分に課せられた罪と裁きの意味を考えなければいけない。」
「罪と裁き……?」
「ああ、この世界に来たのも少し訳ありでな。君に付いていけば迷惑をかけることになるかもしれないからな。」
アリシアは少し残念そうだったかが、すぐに気を取り直して言った。
「分かりました。残念ですけど、シロンさんに頼りっぱなしになってもいけませんしね。シロンさんもどうか気を付けてくださいね。」
アリシアはそう言うと、俺が目覚めた木の根もとに置いていた持ち物を拾い上げる。
「それでは、またどこかでお会いしましょうね。」
「ああ。またどこかで。」
そう言って別れを済ませるとアリシアは、森の北の方へ歩いていった。
さて、俺もどうしたものか。この世界に飛ばされた事が裁きだと言うのなら、俺に何を償えと言うのだ。いったい俺の罪とは何なのだろう。
俺はただこの事だけを考えながら、目覚めた木の根もとに腰掛け目を閉じる。
それを考えているうちに、なぜペトロ達はルウシェを誘拐したのかという疑問も浮上してきた。
俺が、助けに来ると思ったから、俺をおびき寄せる餌にした。
何故俺がルウシェを助けると確信できる?
………。
確かにルウシェが拐われた時に俺は、助ける以外の選択肢が思い付かなかった。しかし何故?
別に助けなくても、俺に損はない。俺の国に悪影響があるわけでもない。
だったらどうして?
………。
自分の大切なものだから………。
今、俺に何が出来る?
ルウシェを助ける。
十二賢神は肉体が滅んだくらいで完全に死んだりはしない。あの時ルウシェは肉体こそ滅んだが、芯魂はまだ何処かに存在しているはず。その芯魂さえ見つけ出し、救うことができれば、ルウシェは再び肉体を取り戻し、もとに戻るだろう。
そのためには………。
賢神界へ戻らなくてはならない。
追放された身で?
関係無いな。俺はシロン・ヴィルヌーヴ。俺は俺のやりたいことを、やりたい時にする。誰の指図も、どんな理屈にも縛られない。
ふっ………。
俺は長く目を閉じ、自分の罪と裁きの意味を考え続けたが、とうとう分からなかった。しかし、一つ分かったことがある。それは、賢神界に戻り、ルウシェを助けるべきだということ。
何故?
理由などどうでも良い。強いて言うなら、俺がそうしたいからだ。
俺は目を開き、決意する。
賢神界へ舞い戻ると。
「さぁ、逆転劇を始めよう。」
俺は、この世界で始めて目を覚ました場所であり、一人の少女とであった場所でもあり、賢神界へ戻ることを決意したこの場所から、長らく落としていた腰を上げる。
「もっとこの世界の事を知らねばならないな………。」
賢神界へ戻る手がかりを掴むためにも、この世界の摂理を知る必要がある。
かといって、頼りに出来る者が居るわけでもないし………。
─────!
あの少女を探すか………。
確か、この近くにある町に行くと言って北の方へ歩いていったはずだ。
よし、行くか………。と思った時、複数の殺気染みた視線に気づく。
「魔獣か………。」
ここはやけに魔獣が多いんだな………。などと思いながら、視線の感じる方を見やる。
だいぶ日も沈んでいて、この森の中には深い闇が落ちている。その中に、赤い光が多数存在していた。
この世界で初めて出会ったあの狼型の魔獣達だ。
「町に行くのは後だ………。こんなにも多くの魔獣達に歓迎されているのに、それを無視して行ってしまうのも忍びない。良いだろう、掛かってくるがいい。せいぜい俺の遊び相手ぐらいにはなってくれよ?」
俺の身体から魔力が滾る。それと同時に、興奮した魔獣達が、一斉に襲い掛かってくる。
おおよそ十匹か。その後ろにも多くの魔獣が潜んでいる。
雄叫びという名の吠えをしながら駆けてくる魔獣を迎え撃つべく、魔力を込めた右拳で地面を殴る。
発生した衝撃波により、駆けてきた魔獣約十匹が宙に晒される。
空いている左手に魔法陣を展開し、発射する。
「火球」
連射された火球は計十発。それらが無防備な十匹の魔獣にそれぞれ命中し、一瞬のうちに跡も残らず消え去る。
「おいおい、とんだ茶番だな。これでは遊びにすらならんぞ。」
警戒し始めた魔獣達は、こちらの様子を伺ってばかりで、これといった動きは無くなった。
「どうした?来ないのか。ならば今度はこちらから行くぞ。」
右手を掲げ、魔法陣を展開させる。
「精霊魔法・白炎網羅」
右手の上に燃える白炎を中心に、あたかも自我を持ったかのように敵を追撃する白き炎が、周りの木々の中まで広がる。
隠れていた魔獣も含め、この周囲から魔物の気配が消え失せた。
「ふっ………。他愛ないな。」
近くの魔獣を殲滅し終えた俺は、アリシアを探しに行くべく、北の方にあると予測される町へ向かった。
向かう途中でも色々な魔獣から多くの歓迎を受けたので、その全てに感謝の意を込めて答えた。
どうでしたか?
シロンがまさかの絶望に陥る状況に…
この後の展開も楽しみにしていてください。
コメントよろしくお願いします!!