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賢神界の追放者  作者: Shiron
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第一話:追放。

予定より遅い投稿になってしまって申し訳ありません!

前回はプロローグだったので少し短めの内容でしたが、今回はそれなりに量があります!


では、第一話:追放。ご覧ください!!


────次の日、面会で………………。



「────っ!」


俺は、絶句した………。


「いやぁ~、貴方も面白い反応をしてくれますねぇ~。苦労して準備した甲斐がありましたよぉ~。」


十二賢神第二位、ぺトロ・グリセルダ。こいつの声が、俺の中で何度も反復される………。



────数時間前に遡る………。



自国、ハイレドリアにある俺の城、ハイレドリア城の寝室で目覚めた俺は、いつものように顔を洗い、服を着替え、朝食をとる。


俺が外出しようとした時。


「今日は午後3時から面会の予定となっております。」


使用人の者が見送りのついでに、俺の予定を教えてくれる。


「ああ、分かっている。2時位には一度ここへ戻ってくる。」


「かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」


そう言うと使用人は、お辞儀して見送ってくれた。


「うむ。」とだけ言った俺は『飛翔(フィーム)』の魔法を展開し、城の北側の町『リューラス』、東側の町『ルービア』、南側の町『タリアール』、西側の町『ネロリア』を順に見物しに行くことにした。


 「やはり、このままの姿では駄目か………。」


俺は、このシロン・ヴィルヌーヴのままの姿で行けば、大騒ぎになることを危惧し、変装することにした。


 「変身(チェリブ)


中位魔法『変身(チェリブ)』は、言わば、下位魔法『変装(チェータ)』の上位互換である。


 勿論どちらも術者によって精度は異なるが、『変装(チェータ)』は主に外面(服装、髪型、身長、顔等)を変えるものに対し、『変身(チェリブ)』は、外面を、より多様に(異なる生き物等)変化させるだけでなく、上手く使えば、自分の魔法性質(オーラや、波動と呼ばれるもの)も変化させられる。


 正直のところ、『変装(チェータ)』で十分なのだが、念には念を入れよ、と言うので一応『変身(チェリブ)』にしておいた。


「流石は、城下町の一つだな。リューラスはいつ見ても綺麗な町並みだ。」


 石畳の街路には、紅葉した街路樹と街灯が建っており、昼には紅葉を、夜には街灯に照らされた幻想的な空間を、見て味わうことが出来る。


 建物はというと、主に大理石で出来ており、非効率と言えばそうだが、やはり、美しいものだ。


 道沿いには、多くの店が並んでおり、特にこのメインストリートでは買えないものを探す方が苦労するのではないだろうか。


 「さて、ルービアに行くとするか………。」


その時────


 「や、やめてください!!」


 「少しくらい良いじゃん、ご馳走するからさー」


 「テリン、行こ………。」


「おっと、どこに行くのかな?」


 なるほど、女子二人、片方の茶色い髪の方はテリンか。そして、路地裏でその二人を男二人が食事に誘っているのか………。


「きゃっ!」


 茶髪の、テリンという名だと思われる女子の右腕を男一人が右手で掴んでいる。


 ふむ。少々手荒だな………。こういう場合はこの町の警備員(ガーディアン)が注意しに入るものなのだが………。


 「近くには居ないようだな。」


 かと言って、警備員(ガーディアン)を待っている時間は………。


「ほら、行こうぜ!」


 「放してください!」


 テリンではない方の女子も捕まれていて、今にも連れていかれそうな状況にある。


 「待っている時間は無さそうだな。」


 俺は路地裏へ入り、その現場へ歩み寄っていく。


 「止めておけ。彼女たちは乗り気ではないようだぞ。」


 二人の男がこちらを睨み、女子たちも目線を向けてくる。


 「お前には関係ないんだよ!あっち行ってろ!!」


 テリンの腕を掴んでいる男がそう言ってくる。


 いや、関係はあるんだがな。何故なら、この国の統括賢神なのだから。しかし、そんなことは言えない。いや、言えないことはないが、なるべくその手を使いたくない。


 もし、ここで俺が十二賢神であることを言えば、一瞬で事態が片付くだろうが、その場合、騒ぎになることを懸念して、わざわざ『変身(チェリブ)』まで使ってこの町を見に来た意味がなくなる。


 「確かに、直接関係があるわけではない。」


 「だったら────」


 俺は相手の言葉を遮って言う。


 「なら、関係を作ればいいだけの話だ。」


 「はぁ!?なに言ってんだお前?」


 普通に、関係がどうのこうのの話ではなく、ただ、助けなければならないから助ける、ということでも良かったのだが、相手が関係にこだわりたいようなので、あえてこう出た。


 「君たち、助けが必要か?」


 俺は、女子二人にそう問う。


 「は、はいっ!」


 「助けてください!!」


 「了解した。」


 俺はそう答えると、男二人に向けて言う。


 「これで俺にも関係ができたと言うわけだ。悪いが、介入させてもらうぞ。」


 「お前なぁ~、どう解決するつもりか知らないけど、こっちは二人いるんだ。お前一人、どうってことないんだよ!」


 二人の男は女子から手を離すと、俺の方を向いてくる。


 俺は答える。


 「人数なんて関係無いな。たとえ、貴様らが10人、いや、1000人居ようと大した差ではない。」


 男の一人が殴り掛かってきながら言う。


 「大口叩けるのも今のうちだぁ~!!」


 それに続いて、もう一人も殴りかかってくる。


 このまま動かずに立っていても、俺の魔法障壁で難なく防ぐことは出来るが、そうなると、この度が外れた強さから、俺が十二賢神だとばれかねない。


 「おらぁっ!」


 一人の、なんとも隙だらけの右パンチを左に回避し、次に来た男の、これまた隙だらけの右パンチを、飛び越えて回避する。


 そうして、女子二人の前まで来た俺は、二人を俺の後に庇う。


 これで人質をとられる心配は無くなった。


 「てめぇー、もう容赦しねぇ~!!!」


 「ぶっ飛ばす!!」


 男二人はそう吠えると、両手に魔法陣を展開させる。あれは恐らく、下位魔法『重硬化(ヘイバー)』だな。拳を硬く、重くすることで、威力を上げようと言うのだろう。


 体術が得意な者が使うならまだしも、あんな隙だらけのパンチを出してくるような奴が使っても、なんの脅威でもない。


 男二人は、拳を固く握り、こちらへ向かって何の警戒も無しに走ってくる。


 「下がっていろ。」


 俺は、女子二人にそう言うと、両手に魔力を集中させる。


 「おらぁぁーーー!」


 なるほど。その重さを利用するために、上段から拳を振り下ろしてきたか。


 しかし、俺は構うことなく男の懐へ入りこみ、両手に集中させた魔力を発射する。


 「ぐはぁっ!!」


 男は、その場に膝をつく。そして、もう一人が………。


 「───っしぁぁ!」


 この男は先ほど同様、右手パンチをつき出してくる。


 俺はその拳に手のひらを向け、魔力を発射する。


 「ぐあぁぁ!」


 恐らく、右肩の関節が外れただろう………。その男は、うずくまり右肩を押さえる。


 俺は、男二人が戦闘不能になったことを確信し、通信魔法で警備員(ガーディアン)を呼ぶ。


 「あ、あの………。ありがとうごさいました。」


テリンと思われる女子がそう言うと、もう一人も「ありがとうございます。」と言って頭を下げる。


 「いやいや、大したことはしてない。礼には及ばんよ。」


 俺はそう答える。


 よくよく見てみると二人とも制服。これは………、ハイレドリア国立魔法学院附属リューラス中学校か。そしてこのリボンの色は緑。一年生か。


 「私は、テリンと言います。魔法学院付属中学の一年生なんですけど、登校中、あの人達に声をかけられて………。」


「私は、セリアと言います。テリンと同じ一年です。それで………魔法を使おうとしたんですけど、上手く魔力がコントロール出来なくなってしまって………。」


二人は経緯を説明してくれた。


 「なるほど。それは災難だったな………。魔法が使えなかったのは、焦っていたからだろう。魔力は心の動きに敏感でな、君たちが怯えていたから、魔法を使うどころか、魔法陣を展開することさえできなかったのだろう。」


 と、先生のような解説をしてしまったが、俺は外見的に見ても若すぎて説得力に欠けるだろうか、と思ったが………。


「なるほど、そうだったんですか!まだ、学校でも、やっと実技をしだしたところで、そういうことまで教わってなかったんですよ。」


 セリアが気を取り直したのか、元気よく話す。


 「あの、あなたのお名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」


 テリンがそう聞いてくが、「俺は、シロン・ヴィルヌーヴだ。」とは言えない。しかし、こういう時のために仮の名前は用意してある。


 「俺は、エルド・ぺルゼータだ。」


 「エルドさん。今回は、本当にありがとうございました。」


 とても礼儀正しいな、と感心したとき────


 「あぁぁぁ~~~~!!」


 セリアがいきなり叫びだした。


 「ど、どうしたの?セリア。」


 テリンが聞くと。セリアが、


 「どうしたもこうしたも!一時間目の授業が始まるまで後3分しかないよ!!」


 「しょうがないよ、こんなことがあったんだもん。後で先生に事情を説明したらいいよ。」


 ふむ、3分か。充分だな。


 「遅刻は嫌か?」


 俺はそう二人に聞くと、二人とも


 「はい………。」


 「もちろん!!」


 「なら、少し手を貸そう。」


 そう言った俺は、二人の手をとり、自分達に『飛翔(フィーム)』の魔法陣を展開すると、地面を蹴って飛んだ。


 「うわぁぁ!!」


 「きゃあ!」


 二人は空を飛ぶのはこれが初めてだろう。この反応にも無理はない。


 「この魔法は『飛翔(フィーム)』だ。中位魔法に分類されている。いずれ、君達も使うようになるだろう。」


 と、軽く魔法の解説をしながら、中学校の方へ飛ぶ。


 『空間移動(テレポート)』でも良かったが、出発地点から中学校までは直線距離で約2キロメートル。どうってことない距離ではあるが、慣れていないと酔うことがある。


 大体一分半位かかっただろうか。目立たないように、学校の裏に着地した。


 「あぁ、楽しかった!」


 「色々とお世話になりました!」


 二人とも空を飛ぶのを楽しんでいたようだ。随分と、ご機嫌になっている。


 「間に合って何よりだ。さぁ、行ってこい。」


 「はいっ!行ってきます!」


 「行ってきまーす!!」


 俺はお前らの親ではないのだが………。と思ったが、温かく送り出してあげた。


 その後、ルービア、タリアール、ネロリアを順に回っていったが、特に変わった様子も無かった。


「もう12時か、後1時間ほど何をして過ごそうか………。」


 そう言えば、ルウシェの様子はどうだろう。まだ機嫌を損ねているだろうか………。


 会いに行くか………。


 俺は近くにある転移石まで移動し、ルウシェが居る、リーブストリア国に転移する。


 異国から転移してきた場合、入国許可を下ろす施設に強制的に転移させられるが、俺はその限りではない。


 十二賢神並びに、その他の上層部の者は、転移石のシステムにあらかじめ自分の魔法性質を登録させてあるので、自由に…………とは言えないが、制限されている場所(大抵城の近くや、重要機関の周りなど)以外なら転移出来る。


 まぁ、何故か俺だけは、リーブストリア城に直接転移することが出来るのだが………。


 ルウシェに会うのだから別に姿を変えている必要もないだろう。『変身(チェリブ)』の魔法を解き、エルド・ペルゼータから本来の、シロン・ヴィルヌーヴの姿に戻る。


 俺は正門から入り、玄関のところで、ここの使用人を呼び出す。


 「シロン様、いらっしゃいませ。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。」


 普通だったら、いきなり俺が来たら驚くが、ここへは割とよく来るので、使用人も驚くことなく、いつも通りに用件を聞いてくる。


 「ルウシェに会いに来た。今居るか?」


 「はい、いらっしゃいます。どうぞお入りください。三階の自室におられると思いますが、お呼びいたしましょうか。」


 「いや、大丈夫だ。自分で行く。」


 「かしこまりました。」


 そんなやり取りをした後、俺は階段を上がり、ルウシェの自室がある三階まで来た。


 いつもであれば、ここら辺で俺の魔力を感じ取ったルウシェが、「いらっしゃい。」と、自室から出てきて声をかけてくるのだが、今日はそれがない。


 仕方ないので、ルウシェの自室の前まで自分で行き、扉をノックする。


 しかし、返事がない………。


 使用人は、居ると言っていたので、恐らく、まだ機嫌が直っていないのだろう。


 「シロンだ。ルウシェ、居るか?」


 返事はない。


 「入るぞ。」


 どれだけ機嫌を損ねているのだろう。などと思いながら、扉を開ける。


 「ルウシェ?」


 居ない………?


 いや、使用人は確かに居ると言ったんだ。なら、使用人の把握ミスか?違う、そんなことはない。出掛けるのならルウシェが使用人の誰かに言うはずだ。


 俺は、何故かとても嫌な予感がした。


 ルウシェの自室の中を見渡していると、窓辺の机の上に手紙が置いてあった。


 勝手に読んだら、流石にまずいかと思ったが、俺の第六感が、読まないといけないと言っている気がした。


 俺はその手紙を開くと、俺の悪い予感が的中していることを知った。


 「なっ────!?」


 嘘だろ!?これは、俺の読み間違えなのか。いや違う、かと言って、隠された意味のある文章とも思えない。


 手紙にはこうある────


 “この手紙を読んでいる頃には、ルウシェ・エリエルが居なくなっている事に気がついているでしょうねぇ~。ですがぁ、もう遅いです。遅すぎます。ルウシェ・エリエルの身は私が貰い受けます。さて、読んでいるのは誰でしょうかねぇ~?普通に考えたら使用人でしょうけど、私はこう予想します。シロン・ヴィルヌーヴ。あなたではありませんかねぇ?さぁ、どうしますかぁ~?”


 差出人は────ペトロ・グリセルダ!!


 くそっ!


 俺はルウシェの自室の窓から飛び出し、『飛翔(フィーム)』を使って、転移石のあるところまで飛んでいった。


 かかった時間は、20秒。


 そこから、ペトロ達と面会をする場所へ転移し、すぐさまその建物内へ入る。


 ─────居る!!


 わずかだが、ルウシェの魔力が感じられる。それと同時にペトロとクロムの魔力も。


 面会室の前まで来た俺は、その扉を強く押し開ける。中には、ペトロとクロムが居た。


 「いやぁ~、随分とお早い到着でしたね~。シロンさん。」


 「御託は結構!!ルウシェは!ルウシェ・エリエルは今どこに居る!!」


 「まぁまぁ、落ち着こうではないか。シロン殿。」


 クロムがそう言うと俺は、


 「落ち着けだと!?よくもそんなことが言えるな!どう考えても、賢神界禁法に背く、何より、我ら十二国間の和平条約に違反する行為だぞ!」


 自然と俺の声が大きくなっていく。


 すると、ペトロが、


 「賢神界禁法?和平条約?えひゃひゃひゃひゃひゃ!そんなもの、知ったこっちゃありませんねぇ~!!」


 「貴様っ!」


 「大体、和平を結ぶ必要なんてあったんでしょうかぁ?この世界は平和ボケし過ぎてしまったのです。昔の戦争時代の方が断然面白かったですけどねぇ~?」


 「もう、いい。貴様らの事は後回しだ。ルウシェを返せと言っているのが聞こえないのかっ!!!」


 「分かりました分かりました。今返しますからぁ~。」


 そう言ったペトロは、指をパチンと鳴らすと、ペトロの立っているところの、横の床に丸い穴が開き、魔法の鎖がそのちょうど真上に空いた穴に向かって伸びる。


 そして鎖が引っ張りあげられて、出てきたのは─────


 ────ルウシェ!


 「貴様………。何ということを………。」


 「ほらぁ、返しますよ~。さぁどうぞ?」


 「────っ!」


 俺は絶句した………。


「いやぁ~、貴方も面白い反応をしてくれますねぇ~。苦労して準備した甲斐がありましたよぉ~。」


十二賢神第二位、ぺトロ・グリセルダ。こいつの声が、俺の中で何度も反復される………。


 「ほら、受け取らないのか?シロン殿。もう、随分と楽しませてもらったからな、受け取ってもらって構わん。」


 クロム・エノヴェータ。こいつは何を言っているんだ………。


「まっ、まさ、か………。」


両手、両足を拘束され、鎖で吊るされているルウシェの服は、所々破れていて、その白く美しい肌を露出している。そして、意識はない。


 死んでいるのか。いや、それはない。だだ、気絶しているだけだ。不幸中の幸いと言ったところか………。


 いや、何が幸いなものか。こんな辱しめを受けていて、幸いなわけがない!!


 「どうしましたぁ~?受け取らないのですか?それとも、もしかして、怒ってます~?」


 「貴様ら………。どうやら、俺のこの寛大な心でも受けきれないほどの事をしてくれたらしい………。」


俺の怒りがこみ上げてくる。それにともない、この広い面会室の空気が振動する。


 「この罪は………、貴様らの死をもっても償いきれるものではないっ!!」


 「おいおい、まさかここで殺り合うつもりなのか?」


 十二賢神第四位、クロム・エノヴェータのその発言にこう答える。


 「まさか………。殺り()()つもりはないさ。俺が一方的に殺るだけだっ!!」


 俺の怒りが最高潮に達し、俺から暴れ出る魔力が可視出来るほどになっている。やがて魔力は乱気流と化す。


 「────ふっ!!」


 俺は魔法陣を展開せずに高速で右手に魔法を発動させながら、クロムの方へ飛びかかる。


 俺の右手には最上位魔法『轟雷刃破(ジルドクロード)』が発動されている。黒と青の雷線が、右手を纏って轟音を響き渡らせる。


 しかし、その轟音を、聞いたときにはすでに、俺の右手はクロムの心臓を深々と(えぐ)っている。


 「ぐはぁっ!!」


 クロムの胸から血が噴き出す。そして口からも血が出てくる。


 「これぐらいで死んだりはしないだろう?クロム。」


 俺はそう言うと、左手に魔法を発動させる。今度も、魔法陣の展開を飛ばした。


 「煉極滅霸(グラディオン)!!」


 左手から発せられた、地獄の業火など比にならないほど激しく熱い紅蓮は一瞬でクロムを、この建物ごと跡形もなく消し去った。


 吊るされていたルウシェは、俺が魔法障壁を張って守っていたので無傷だった。そのまま、地面に横たわっている。


 十二賢神第二位、ペトロ・グリセルダは、寸前で防御魔法を発動したのだろう、ほぼ無傷であった。


 「いやぁ、大したものですねぇ~、あなたの魔法は。一瞬でクロムさんを消し去ったのですからぁ~。」


 「他人事のようだが、次は貴様の番だぞ?ペトロ。」


 ペトロは、愉快な笑みを浮かべたまま話す。


 「えひゃひゃひゃひゃひゃ!あなた、私を倒せるのですかぁ~?順位が下のあなたが?」


 「ほざけ、俺とお前の戦力にさほど差はない。」


 再び俺の魔力が乱気流と化し、それすらが、鋭利な刃物を思わせる。


 「あなたの、無陣化(ノースぺル)(魔法陣を展開せずに魔法を行使すること)の技術には驚かされますねぇ~。」


 「貴様こそ、悪知恵を働かせる速度で言ったらピカイチだぞ。」


 俺は、今か今かと攻撃のチャンスをうかがっているが、ヘラヘラしているように見えて、ほとんど隙を見せないところは、流石は十二賢神第二位と言ったところだろうか。


 「ところで………。リーブストリア城の使用人は確かにルウシェは居ると言ったのだが、まさか、城まで行って誘拐してきたわけではあるまい。いったいどこで………?」


 俺は、さりげに気になっていた疑問を放つ。


 「あれぇ~?あなたなら、すでに気がついていると思っていましたけど?まぁ、いいでしょう。教えて差し上げますよぉ~。」


 そう言うと、ペトロは、今が戦闘中であることを忘れたかのように、隙だらけの、何の緊張も感じていない様子で語り始める。


 攻撃するなら今が好機だが、この疑問を晴らすまでは攻撃しようにも出来ない。


 「昨日、あなたとルウシェさんが楽しそうにお話ししているのをお見かけしましてねぇ~、暇潰しに様子を見てたんですよぉ。」


何………!?様子を見ていただと?いったいどうやって。あの時は、確かに誰も居なかったはずだが………。


「しばらくして、あなたとルウシェさんが話し終わって、帰りましたよねぇ~。そう、ルウシェさんは一人で転移石に向かった………。」


一人で………。そうだ。送ろうと提案したのだが、ルウシェは一人で大丈夫と言ったので、転移石へはルウシェ一人で………。


 ────嘘だろ………。


「そうです!!その時です!!私がルウシェ・エリエルを()()()()にしたのはっ!」


 ペトロは両手を高々と掲げ、空を仰ぐ。その時のことを回想しているかのように。


 そうか………。一人になったルウシェに不意打ちを仕掛け、催眠魔法なり憑依魔法なりを使って、自分の思うように動かしていたというわけだ。


 「その時────、」


 ペトロは仰いでいた顔をこちらに向けニヤリと笑い、話を続ける。


 「あなたは何をしていましたかぁ?」


 俺は、噂に聞いた、怪しい動きをしている無所属民(リトナイカー)の調査に行き、その者達が描いていた広大な煉素系魔法陣を破壊した。そして、その黒幕はペトロ・グリセルダだった………。


おい………、嘘だろ。まさかあれは、俺を誘き出してルウシェを一人にさせるため………。


「罠………、だったと言うのか………。」


いつの間にか、俺の怒りが奮い立たせていた魔力の乱気流がおさまっていた。


 「えひゃ……えひゃひゃ………。えひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 怒りから絶望へ、そして後悔へ………。


 あの時、俺が送っていれば………。


ペトロの、その耳障りな笑い声がもはや、呪いの魔法のように感じられる。


 「そうですよぉ?あなたは、まんまと私が作った罠にはまってしまったのですよぉ!?」


 ────プチン………。


俺の中で、聞こえるはずのない、何かが切れる音が聞こえた。


 絶望と後悔、その二つだけが入り交じる心の中で俺は、思わずにはいられなかった………。



 ────あの時────送っていくべきだった────っ!


 「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 俺は絶望と後悔さえ通り越した、極限の負の感情に突き動かされるまま、叫び、魔力を煮えたぎらせた。


 大地が震え轟き、空間はねじ曲がる。溢れ出す魔力の乱気流が俺を包み、プラズマを発生される。


 「────展開っ!!!」


 足元に3つの魔法陣を重ねた三重化魔法陣が、目の前に2つの魔法陣を重ねた二重化魔法陣が展開される。


 足元の魔法陣で、一時的に魔力量を無限にし、目の前の魔法陣に魔力を集中させる。


 「神籟煌矢(フリューシュレイアー)!!」


 俺が開発した最上位級魔法の攻撃は、空間を裂き、大地を穿ちながら光速でペトロを貫こうとする。


 「はあぁーいっ!!」


 先程まで余裕をかもし出していたペトロも、流石に本気で守りに入る。


 ブワァァーーン!!


 神籟煌矢(フリューシュレイアー)とペトロの防御魔法が激突し、凄まじい衝撃波と衝撃音を響き渡らせる。


 わずかにペトロの防御魔法が劣ったか。土煙が上がる中、すかさず飛び込みにいく。


 まだ、魔力量は無限化されている。俺は右手に二重化魔法陣を展開し、両肩の上に三重化魔法陣を展開する。


 飛びかかった俺と、先程の攻撃で少しばかりよろけたペトロとの距離はわずか5メートル。


 「小癪なぁ~!!」


 ペトロは自身の目の前に二重化魔法陣を展開させ、反撃しようとする。


 しかし、それより早く────


 「万象凍結(アルピリエイト)!!」


 俺の右手から放たれた刹那の閃光は、一瞬でペトロと、ペトロが展開していた二重化魔法陣ごと凍結させた。


 俺はその勢いのまま、ペトロを凍り付けにしている巨大な氷柱ごと破滅させんとし、


 「聖煌煉焔(レ・フィラクヴェータ)!!」


 俺の両肩の上に配置されていた三重化魔法陣から、万物を焼き払い、聖なる鉄槌を下す業火の球がそれぞれ発射された。


 ズゴォォォォ!!


 金色の業火が、巨大な氷柱ごと焼き尽くす。


 勿論、焼け跡には何も残っていない。


 しかし────


 ズシャッ!!


 どこからともなく現れ、俺の背中を突き刺し、腹まで貫いた二本の漆黒の槍からは、禍々しい魔力が溢れ出ている。


「ぐっ!!」


 俺は片膝を地面についてしまった。


 ペトロを倒したと思い、油断したのか。いや違う、表現として最適なのは、時限爆弾方式で設置してあった魔法陣から放たれた感じだ。


 すると、俺の前に魔法陣が展開され、そこから黒い煙が出てくる。その煙が一ヶ所に集まり、形作ったのは………。


「ペトロ……グリセルダ………っ!」


 「いやぁ~、久しぶりに殺されましたよ。危ない危ない。このまま私の芯魂(しんこん)まで壊されてたら、やばかったですねぇ~。」


 そう、生命は必ず芯魂というものをもっている。芯魂とは、言わば根源、魂、心、コア等と呼ばれるものである。そして、たとえ肉体が滅んでも、芯魂さえ残っていれば肉体を再生することもできる。


 「基礎中の基礎の魔法ですがぁ、十二国間が和平を結び、賢神連合界などと呼ばれて平和が訪れた今となっては、あまり使う機会がなかったですからねぇ~。この『蘇生(ルピリア)』は。」


 不覚にも俺は、奴の芯魂を破壊し損ねていたらしい。しかし、俺が放った魔法は全て最上位魔法、または、俺が開発した最上位級魔法で、芯魂を破壊するのには充分な威力だったはずだが………。


「残念でしたねぇ。あなたの攻撃は確かに私の芯魂を破壊するに相応しい威力を持っていました。私が自分の芯魂に防御魔法をかけていなかったら、死んでいたでしょうねぇ~。」


 そういうことか………。確かにあらかじめ防御魔法を施されていたのなら破壊出来なかったことにも納得がいく。


 「うっ…………!」


 ちょっと待て、確かに俺を貫いているこの槍は高度な魔法ではあるが、やけに治りが遅くないか?というより、傷が治らない………。


 いつもなら(と言ってもあまり無いが)体に風穴を開けられても、治癒の加護によって、30秒程度で傷が塞がるはずなのだが。


 「ちなみに、この槍の傷は簡単には治りませんよぉ?あなたは、精霊達と、とても仲が良いと聞いたことがあるので、加護を妨害する術式を組み込んでおりますよぉ?」


 しかし、傷が治らないのはこの槍の性質だけではないのかもしれない。今の俺は、心を負の感情で満たしてしまっている。そんな者に精霊は近寄りたがらない。


 「くっ!」


 俺が立ち上がろうとした時────!


 「もうここで終わりですよぉ~~!!」


 クロムが右手をこちらに向けて、そこに四重化魔法陣を展開させる。恐らくは、ここで決着をつけるつもりだろう。


 「ジ・エンドですねぇ~!!」


 くそっ!このままでは確実に俺の芯魂ごと消し飛ぶ。しかし、これもこの槍の性質か知らんが、魔力が足りない。この魔法を防ぐほどの魔法を出せないっ!


 「黒焔砕撃雷(ジ・バラディーラ)~!!」


 ペトロの右手の魔法陣から黒々とした雷線が放たれる。これが当たれば間違いなく俺は本当に死ぬ。この近距離で外すわけもなく、そして、もうすぐ俺の体に到達する。


 死ぬ時はこんなものなのだろうか………。奴の魔法が俺を直撃するのに、一秒とかからないはずなのに、時間がゆっくり流れているような………。一瞬をとても長く感じてしまう。



 ─────シロン………。


俺を呼ぶ声が聞こえる。聞き慣れた声が、俺に語りかける。


 ─────私が………、守るから─────


 ─────あなたは、私を助けてね─────


 

 バチイィーーン!!


 突如俺の体を包んだベールが、ペトロの攻撃を防ぐ。


 「なっ!?何ですかぁ~!!これは!!」


 ペトロは驚きを隠せない様子でいる。正直、俺もとても驚いてるのだが、驚いている暇はない、このベールが無くなる前に、魔力を溜めなければ………。


と、思った瞬間─────



 「────シロン。」


 そこに立っていたのは、ルウシェだった。服装もいつも通りの、膝下辺りまである、白いワンピース。そして、長い銀色の髪に、青色の瞳………。


「ルウシェ………、なのか………。」


俺は呆然としてしまう。なぜなら、ルウシェは今も俺の後ろで横たわっているはずなのに、目の前に居る彼女は元気な姿だ。


 「何よ、死人を見たような顔して。」


 「………。あっ、ペトロは!?」


 俺は、ルウシェが目の前に元気に立っている姿を見た衝撃で、一瞬忘れていたが、今は、緊急を要する事態だ。


 「大丈夫。まだ私があなたの体を守っているから。」


 そうか、ここは言わば精神の空間だ。現実の俺はルウシェの魔法によって体を守られているはずだから、その魔法を介して俺とルウシェの精神が一時的に繋がったのだ。


 「お前はまだ倒れたままなんだろ!そんな状態で魔法を使ったらお前の肉体が持たない!今すぐ止めるんだ!」


 恐らく今、ルウシェは体が動かせない。そうなると、普通は魔法が使えないが、芯魂をフル活用して魔法を行使しているのだろう。しかし、そんなことを続けていたら、肉体が芯魂の働きについていけなくなり、壊れる。


 「あっ!肉体で思い出した!!」


 しかしルウシェは、俺の警告を気にも止めないで話す。


 「あ………、あのさ………。ちょっと言いにくいのだけれど………。」


俺の話を遮ってまで言うのだからとても大切なことなのだろう。


 「あなた、多分………、勘違いしてるわよ?」


 「………。は?」


 何のことだかさっぱりわからんが………。


「ん~~、もう!察しなさいよっ!!」


 ルウシェは、顔を真っ赤に染めて言う。


 「だから!私はあの二人に、シロンが思ってるようなことはされてないってこと!!」


 「ん?俺の思っていること…………?」


 「だ~か~ら!!私の服が破けてたりしたから、勘違いしたのかもしれないけど!それは、あなたをそうやって勘違いさせるために、あいつらが仕組んだだけなのっ!!」


 「ああ、なるほどな………。了解した。それでだな────」


 「了解したで済ませないでよっ!」


 またまたルウシェは何に怒っているのかさっぱりと分からないが。今はとりあえず、ペトロを倒すことが最優先だ。


 「ルウシェ。とりあえず、お前はこれ以上魔法を使うな。お前が死んでしまっては、もともこもない。」


 ルウシェは、「ふぅ~」と息を吐き、気持ちを整えると、微笑んで言う。


 「言ったでしょ?私があなたを守るって。だから、私をあなたが助けてって。」


 そう言うとルウシェは、強張っていた俺の手を優しく包み込んだ。


 「もうすぐ、私の防御魔法も持たなくなる。だから、魔法が切れた瞬間があいつを討つチャンスよ。」


 「分かった。無理はするなよ。」


 俺のその言葉を最後に、意識が現実へと向く────



 「くっ!」


 俺は両足に力を入れ立ち上がる。そしてすかさず、右手に無陣化(ノースぺル)で魔法を発動させる。


 「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 正面に立っているペトロに向けて、今の所有魔力量で放てる最善の魔法、クロム・エノヴェータの体を貫いた『轟雷刃破(ジルドクロード)』を放つ。


 右手に、黒と青の雷線を纏って、ペトロの懐に突き刺さそうとした時────


 「残念でしたぁ~!!」というペトロの言葉と共に、俺の右手が肩から切断される。


 「ぐはぁ!!」


 俺はバランスを崩し、倒れ込む。


 何故腕が切断されたのかは疑問に思うまでもなかった。こういう時限的に魔法を発動させるのは、どうもこいつの得意分野らしい。あらかじめ、奴の体の前に不可視の魔法陣でも張っていたのだろう。


 「早々に片付けてあげますよ!!黒焔砕撃雷(ジ・バラディーラ)!!」


 ────シロン、ごめんね………。


ルウシェの声が、そう囁いた気がした………。


俺の前に光輝く女性のシルエットが出現した。俺はすぐにその女性がルウシェだと分かった。遂に、芯魂の働きに体がついていけなくなったのだろう、今にも消えそうなその体で、何をしようというのだ。


 「神煌守壁(レドナイト)


 そう唱えた刹那、眩い光が放射される。そして、音もなくペトロの魔法が消え失せる。


 放射された光は次第に弱くなり、その中から光輝くルウシェの姿が見られる。


 彼女は微笑み、そのすぐ後、光の粒子となって散開した。


 「あの女~!!二度も私の邪魔をしましたかぁ~!!許せませんねぇ~!!」


 地団駄を踏みながら、怒りを表すペトロが再度、魔法陣を展開する。


 動けない………。声が出ない………。ルウシェが光の粒子となって散開していく様子が頭から離れない。


 「これはもう、あなたを殺すくらいじゃ~収まらない怒りですよぉ~!!」


 と言ったペトロは、なにかを思い付いたようにニヤリと笑う。


 「そうですねぇ~。裁く、というのも良いですねぇ~。」


 展開していた魔法陣を破棄し、新たな魔法陣を展開させる。


 「今まで使ったことがない魔法ですが、あなたで試すとしましょう。罪転天槌(ジビオリート)!!」


 これは、十二賢神が十二賢神を裁く為の魔法。裁かれるべき十二賢神にその者の罪に相当する何かを下す。


 「さぁ~、どうなるか楽しみですねぇ~。」というペトロの声と共に、魔法が発動した。


 俺はだんだん意識が遠ざかり、体の感覚が無くなってくる………。



────ルウシェ………。


 最後に俺は彼女の名前を心の中で呼んだ………。



 そして────




────木々の香りと木漏れ日が、俺の意識を再覚醒させた………。

読んでいただきありがとうございます。


私のやる気に繋がるので、コメントをよろしくお願いします!


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