第零話:プロローグ
これがはじめての投稿です!
どうか皆さん、この『賢神界の追放者』をよろしくお願いします!
読んでもらった後に、コメントをくださると光栄です。
カーテン越しに見える茜色の空、それを追いかけてくる碧黒い空………。
「………。」
高校の6階からいつも見えるこの光景を、俺の心は、昔の出来事と重ねてとらえる…。
「神代、帰ろうぜ!」
いつものように共に帰ろうと友人の建宮が誘ってくる。
「ああ、一緒に帰ろう。」
俺もいつものように返事をする。学校の1日の授業が終わり、こうやっていつものように共に帰る。これが日常。
しかし、知らない。建宮も、その他の友人も、先生も、どんなに偉い研究家でも、皆知らない。この宇宙の誕生した理由や経緯について───。
軽く説明するとしようか。約140億年程遡るとしよう。地球が誕生したのが今から約46億年前で、宇宙誕生は138億年前と言うから、140億年前となると1つ前の宇宙となる。
一応言っておくが、今俺たちが過ごしているこの宇宙は、俺の知る限りでは、二回目の宇宙だ。
何故俺がこんなことを知っているかと言うと、察しの良い人はもう気がついているだろうが、俺は人間ではない。
今、この世界に俺の存在を表す言葉は存在しないが、言うなれば『神』のような存在と受け取ってもらえればよいだろう。
しかし、今の体は人間のものなので当然、記憶できる容量も140年分となっている。だから俺は、大容量の記憶媒体を数個用意し、それらと俺の脳とで、ネットワークを構築することによって何億年分の記憶を処理している。
と、誰に説明しているのか分からないが、あらかじめ世界観を軽く整理したところで、俺の真の物語をそろそろ始めるとする………。
約140億年前───
「───だったの。それでね───」
この広く静かな庭園の池の上にある石造りの屋根がついたベンチから見える茜色の空、それを追いかけてくる碧黒い空………。
庭園の木々は、まるで、空の色が移ったかのように美しく紅葉し、周りの水面もそれらを反射している。
俺は、隣で話している人のことよりも、夜でもない夕方でもない、この、不思議な時間の空を眺めていた。
すると、自分の話を聞いてくれていないことに気がついた彼女が、空の色を反射してほんのり茜色に染まった、腰下まである銀色の髪を揺らして、澄んだ青色の瞳を向けて言う。
「ねぇ、私の話聞いてくれてるかしら?」
俺は、空から目を離して彼女の少し不満そうにしている顔を見て答える。
「悪い、考え事をしていた。」
「もう、シロンったら………。そんなに私と話をしているのが退屈かしら?」
「いや、そう言うわけではなくてだな………。」
彼女は俺の思っていたことを察したらしく、少し声を抑えて答える。
「私たちと同じ十二賢神の第二位、ぺトロ・グリセルダ、第四位、クロム・エノヴェータ。その二人のことを考えていたんでしょ?」
「ああ………。あいつらの噂はあまり良いものではない。明日、面会しに行くつもりだ。」
「本当に行くの?あの二人が契約違反をした証拠、無いんでしょ?」
彼女は怪訝そうな顔で聞いてくる。
「最近、十二賢神第十二位、ロヴィア・ペルグリフを見かけたことはあるか?」
「いや、最近は見てない……けど、───っ…まさかっ───。」
「恐らく………な。あくまで推測にすぎないが………。」
そう、俺は第二位のぺトロと、第四位のクロムが手を結び、やたらと敵視していた第十二位、ロヴィアを殺めたのではないかと考えている。
「シロン、危険すぎるわ!もしそれが本当の事だったとしたら尚更よ!」
「おいおい、ルウシェ、俺を誰だと思っているんだ。」
「それは何回も聞いたわ。───俺は、賢神連合界・十二賢神第三位!ハイレドリア国統括賢神、シロン・ヴィルヌーブ!───ってね。」
彼女の物真似が、似ているのかどうかは別としておいて、俺の名乗り方はそんなにおかしいか?と、疑問に思ってしまう。
「でもね……、」
彼女は話を続ける。
「あなたは、『第一位』では無いでしょ?」
俺は予想外の言葉に、眉間にシワを寄せる。
「ましてや、相手にしようとしているのは、第二位と第四位。片方は、あなたより順位が上なのよ?」
彼女の澄んだ青色の瞳が、俺の姿を鮮明にとらえる。
その瞳に俺は、どのように写っているのだろう……。
「あなたの力を疑ってるわけではないの………。ただ………。」
「ただ?」
俺は、一時停止した彼女の言葉の続きを聞く。
「ただ、相手は二人。もし、戦闘になったらどう考えても相手の方が有利だわ。」
ハハハ!なるほどな………。心の中で笑ったが、思わず表情に出てしまったらしい。
「笑い事じゃ無いわよ。」
呆れ半分、心配半分といった口調で注意してくる。
「そうだな……。無いとは思うが、もし戦闘になったら、取り敢えず第四位、クロム・エノヴェータを瞬殺する。第二位とは苦戦を強いられるだろうが、一対一なら、大して実力の差はない。」
俺は、余裕の笑みを浮かべて答えた。
「瞬殺って……。」
そんな事出来るはずがないと思っているのか、どう見ても呆れている。
「問題はない。それに奴等も、いきなり攻撃してくるほど馬鹿ではあるまい。」
いつの間にか空もだいぶ暗くなり、星々が瞬き始めている。この、広く静かな庭園は、足元を照らす仄かな明かりに包まれて、幻想的な空間と化している。
「そういう問題じゃなくて……。」
俺の耳にやっと届く位の大きさで発せられた彼女の言葉に返す。
「では、どういう問題が?」
「………。はぁ…………。」
何故、彼女がため息をしたのか理解できないが、俺は再度聞く。
「ルウシェ?」
「もういいわ!とにかく、あなたの身に何かあったら、残されたハイレドリア国民はどうなるのよ!」
「その時は、ルウシェ。お前に任せるとするか。」
「お断りよ!私はもう、リーブストリアっていう立派な国の統括賢神なんだから!これ以上仕事を増やさないでっ!」
何に怒っているのか分からないが、なんだかんだで、いざという時は引き受けてくれるんだろうな、と思い、彼女の優しさには、つくづく感心させられる。
思わず、「ハハハ!」と笑ってしまったが、特に何も言われることもなく、ただ、ふてくされた態度をとられただけだった。
「帰ろうか…………。」と俺が言うと、彼女は変わらない態度のままベンチから立ち上がった。
ここは、どの国にも属さない場所で、誰でも好きな時に来ることが出来る。しかし、夜になるまでこんなところでウロウロする者は居ない。もしそんな事をしていたら、「どうぞ、自分を好きにしてください。」と言っているようなものだ。
しかし、俺達は例外だ。言うなれば、「襲ってきても良いが、返り討ちにあう覚悟は出来ているんだろうな?」という感じだ。
などという事を考えながら、足元を淡い光で照らされた道を歩いていく。俺の右側を少し送れてルウシェが歩いている。
基本、この世界での移動手段はテレポートで、そこそこ魔法が使える者、勿論俺たちも含めて、特殊な環境下でなければ何処でも発動させられるが、当然魔力を消費する。消費量は、発動地点から目標地点までの距離で大体決まる。
なので、この世界では、あらゆる所に『転移石』というものが設置されており、その石に手を触れて目標地点をイメージするとテレポート出来るという仕組みで、その場合、魔力をほとんど消耗しない。
「ルウシェ、俺はこの近くにある店に用があるからすぐには帰らないが、転移石まで送っていこうか?」
十二賢神ともなると、所有する魔力量は計り知れないもので、テレポートしたくらいでは、どうということも無いが、せっかく転移石があるので、急を要する時以外、少しでも消費魔力量を削減するために使用する場合が多い。
「いいえ、一人で大丈夫よ………。」
「そうか。」
俺は、男だからどうとか、女だからどうとかと、性別で物事を判断したりはしない方だが、女性一人で帰らせるということ、ましてや、こんな夜中に帰らせることに少々抵抗があったので、一応付き添おうと思ったのだが、断られてしまった。
まぁ、ルウシェも十二賢神の一人なのだから襲われる心配など無いのだが。
「では、俺はここで。」
分かれ道で俺がそう言うと彼女は「じゃ、またね………。」と、少し寂しそうな答え方をしたので、気になってしまったが、次に会う時には、いつものように、元気さと上品さを兼ね備えたルウシェ・エリエルに戻っているだろう。
俺は中位魔法『飛翔』を発動する。一瞬体が薄緑色の光に包まれて、地面を軽く蹴ると体が浮き上がり、目指した方向へ時速60キロメートル程の速さで飛んでゆく。
飛び去り際に、彼女が「私はあなたの事が心配なのよ………。」と、言ったように聞こえたのは、恐らく気のせいだろう。俺は目的の店に向けて飛び立った。
この行動の選択が、後に絶大な後悔をもたらすことを、俺は、まだ知らない─────。
俺は飛行速度を、時速90キロ、120キロと、加速させながら目的の場所を目指し、到着するのにさほどの時間は掛からなかった。
用がある店………というのは嘘で、実は、最近この辺りで十二賢神がそれぞれ治める十二国家のどれにも属さない、無所属民と呼ばれる者の一部が、怪しい動きをしているという事を風の噂に聞いたので確かめに来たのだ。
ただでさえ視界が悪い夜中なのに、今宵は新月。飛んだまま地上を眺めてもほとんど何も見えない。
俺は下位魔法『暗視』と、中位魔法『索敵』を発動させた。
『暗視』発動にともない、自分の目が少し緑色に変化し、お陰で、昼間と大差なく物を見ることが出来るようになった。
「して………、族は…………。」
索敵は、使用者を中心とする不可視の円が地形に沿って広がっていき、イメージ内に正確な地形データが印される。そして、範囲内に存在する生命体(今は無所属民に反応するように絞ってある)を、その地形データに重ねて印す魔法だ。
「………、居た……………。」
ここから10時の方向、約3キロ先に五人を確認した。俺はその方向に向けて、再び時速120キロ程の速さで飛んでいく。
五人が俺を知覚する距離まで行くのに、大した時間は掛からなかった。
「誰だ!!」
五人のうち一人が、悪いことをしている現場を目撃された時に使う典型的な台詞を放ってくる。
その言葉に連れて、残りの四人もざわつき始める。
「俺は、賢神連合界・十二賢神第三位、ハイレドリア国統括賢神、シロン・ヴィルヌーブだ。」
俺はそうやって名乗りながら、ルウシェとの会話を思い出してしまう。同じ十二賢神である彼女であるからこそ、特に大きな反応を示さないが、まぁ、その方が特殊な例だろう。大体の者は……
「なっ………。」
「嘘だろ………。」
「………。ありえねぇー……。」
「どうして……。」
「終わった………。」
この五人が普通の反応をしてくれたので、説明する手間が省けた。そう、俺の名を聞いて恐怖の色を示さないのは、恐らく、同じ十二賢神くらいだろう。
「嘘?あり得ない? わざわざ嘘をついて何の得がある?」
五人は凍りついた。
「最近、この辺りで無所属民の一部が怪しい動きをしていると、風の噂に聞いたのだが、それはお前らのことで間違いないか?」
まぁ、この状況で「間違いです。」と、答えることはできないだろう。
五人は沈黙を続ける。
「お前らはここで何をしている?」
答える者は居ない。
「答えられないなら、答えなくて良い。直接お前らの記憶に聞くとする。」
そう言うと俺は、五人の方へ降下し始める。
すると─────
「あんたが十二賢神っていう証拠はどこにもねぇー!だから、俺達があんたの質問に答える義理もねぇー!!」
ふむ。証拠証拠と迫ってくるのは反抗期に差し掛かった子供と相場が決まっているのだが、いい歳をした大人が言ってくるとは思わなかった。
証拠男が右手に魔法陣を展開させる。
あれは………。
「火球!!」
下位魔法の火球か。俺も子供の時、よくこの魔法を使って遊んでいたものだ。
残りの四人も連れて、火球を放ってくる。
俺は構うことなく彼らの方へ降下し続ける。
そして、5つの火球が俺を直撃した。厳密に言うと、俺が無意識のうちに纏っている、魔法障壁に当たっただけなのだが。
当然俺は無傷で、余裕の笑みを浮かべながら彼らの前に降り立った。
「これが証拠ということでいいか?」
俺は証拠男に向けて聞いた。
「たとえ……、たとえあんたが十二賢神だったとしても、俺はあんたの質問に答えることは出来ねぇーし、教えることも出来ねぇー!!」
証拠男は、後ろに飛び下がろうとしたので、俺は魔力による覇気を飛ばし、五人共を軽くノックバックさせた。
「悪いが教えたくなくても、俺は知らなければならないので調べさせてもらうぞ。」
「記憶透視」
俺は上位魔法『記憶透視』を発動し、五人全員の記憶を同時に、遡りながら見てゆく。
50秒程掛かっただろうか、俺は五人のこの事に関係しそうな記憶を調べ終えた。いや、調べ終えてしまったと言うべきだろうか。
「うっ……うぅぅ………。」
だいぶ体に負荷が掛かったのだろう、五人とも意識が朦朧としている様子だ。
それよりも、この証拠男ではないが、ついに証拠を手に入れた。十二賢神・第二位ぺトロと、第四位クロムが結託し、ここに広大な魔法陣を描こうとしていたのだ。
俺は『飛翔』で地面を見渡せる高さまで飛び上がり、目を凝らして魔術的な反応が見られる、いや、どう考えても魔法陣を描こうとしているのを目視した。
詳しくは、どういう魔法を発動させるための魔方陣なのかは分からないが、見た感じ、熱素系魔法と風素系魔法を組み合わせた、熱素系魔法の上位、煉素系魔法発動の魔方陣らしい。
放っておけば、ろくな事にならないと考えた俺は、上位魔法『術式破壊』を発動させた。右手に青紫の光が宿り、それを地面に描かれかけている魔法陣に向かって放つ。
すると、地面の魔法陣は砕け散ったかのように、跡形もなく消滅した。
意識が朦朧としたままの五人をこのまま放っておくわけにもいかず、五人に向けて弱く魔力を放った。俺の魔力を吸収し、意識が戻り始めてきた五人に言う。
「お前らが行っていたことは、賢神連合界規定、賢神界禁法に違反するものの他、なにものでもない。しかし、お前らに指示した者が者なので今回は目をつぶることにする。」
五人は裁きを覚悟していた様子だったが、見逃されるという、予想外の展開に驚きを隠せずにいる。
「しかし……」
俺は話を続ける。
「次は無い。同様の罪、又は、それに相当する罪を犯している所を発見次第、それ相応の罪と、今回目をつぶった罪を加えて処罰するから、留意しておくように。」
すると、証拠男は左足を引いて膝をつき、頭を下げる。
「寛大な意に感謝いたします!そして、貴方様のお言葉を肝に命じておきます!」
恐らくは、五人のうちでリーダーの役割を担っていたのだろう。証拠男がそう言うと残り四人も同じように膝をつき、「感謝します。」と言った。
俺は「うむ。」とだけ言って『飛翔』でこの場を去った。
─────しかし……
こうも簡単に奴等の尻尾が掴めるとは思っていなかった。それに、少々都合が良すぎるところが気にかかるが……気にしすぎか。
明日の面会では俺の勝ちのようだな、ぺトロ、クロム………。
────次の日、面会で………………。
「─────っ!」
俺は、絶句した………。
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