8 街へ
「リュアン、次はあっちよ」
「リュアン、これをどう思って?」
「リュアン、ねえ、聞いているの?」
街へ出て、少女と2人で市場を巡る。雑貨、服、装飾品……。路上にならべられたものや屋台にあるものを忙しなくあちこちを見て回っている少女を見ていると、ふと疑問が湧いた。
一度市場に言ってみたいと、少女は言った。だが、この市場を歩き回る少女の足取りに迷いはなく、既に見知っているかのようだ。
そうして疑問を感じてみれば、屋敷での少女もおかしかったことが分かる。あらかじめおしのびの為に用意されたかのような、一見裕福な商人の娘の様にしか見えない服など、貴族令嬢が持っている筈がない。
「何よ、じっと見て。私の顔に何かついていて?」
「……いえ」
「人の顔を見詰めておいて、何でもありませんで通じると思うの? 話しなさい」
命令口調でじっと見詰められ、暫し逡巡した後で言う事にした。あれだけじっと見詰められていては堪らない。
「…貴女は、市場に来たことがあるのではありませんか……?」
少女は驚いた様に目を見開いた後、唇の端を釣り上げてフッと笑った。
「そうよ。貴方、意外と鋭いのね。ただの鈍い人かと思ったわ」
何だか失礼な事を言われている気もするが、まあ、いい。人間に馬鹿にされた所で何も思わない。
「何故、隠していたのでしょう」
「別に意味なんてないわ。貴方だって、何故そんな事を聞くの?」
「……」
確かに、意味などない。そう納得して、それきり2人とも黙ったままにただ街中を歩いた。
「ああ、そうだ。そろそろお昼時なのだけれど、何か希望はあって?」
唐突に、少女にそう尋ねられた。昼の希望、などと言われても、なんと答えたら良いのかが分からない。別に食事を摂らずともジブンは死にはしないのだから。
「…………貴女が、食べたいものを」
そう言うと、何故だか少女は顔を顰めた。
「ねえ、死神って食事が取れないようになっているの?」
唐突にそんな質問をされるが、そう言う訳では無い。実際、鎌の中には嗜好品として食事を楽しむ者もいる。ただ、必要がないだけだ。
そう告げると、少女は満足そうに笑った。
「ならいいわ。1人でとる食事と言うのも味気ないもの。せっかく一緒にいるのだから、付き合いなさい。貴方、食べ歩きはした事があるかしら」
「……」
「…そうよね、愚問だったわ。楽しみにしていなさい、リュアン。食べ歩きって案外楽しいものよ」
そう言った少女が最初に買ってきたのは、薄い生地に様々な果実や白いものが巻かれた食べ物だった。一口食べてみれば、酷く甘い。少女によると、これはクレープとか言う食べ物らしい。
クレープが終わって少女が買ってきたものはチュロス、チョコレートアイスなどなど、どれもこれも甘いものばかりだった。
人間の食事と言うのは甘いものらしい。そして量も多い。甘いものが苦手な人間などはいないのだろうか? いや、甘いもの中心の食事に順応出来るように進化してきているのかもしれない。
以前見かけた事のある真っ赤なソースが掛けられた料理も、このように甘いのだろうか。だが、あの料理を食していた人間は『辛っ!』と叫んでいた気がする。もしかしたらジブンと人間では味覚が違うのかもしれない。
何にせよ、やはり食事は取らなくて良い。甘いものばかりの人間の食事はジブンには理解出来ない文化だった。
ちなみに以前リュアンが見かけた赤いソースはタバスコです。この時代にタバスコとかクレープとかあるの?という突っ込みは受け付けません!なんちゃって中世だからいいのです。
フレアは甘党、リュアンは常識知らずな上にちょっと天然。
ツッコミ不在ですね。笑
今回もお読み下さってありがとうございました!