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鎌を持てない死神の話  作者: 桜庭しおり
第一幕 辺境伯の娘
8/15

7 死神の名前

死神の名前が初登場です。

本日は他2作品も投稿していますので宜しければ是非。

 この少女は、一体何なのだろうか。

 ぽかんと口を開けてジブンの事を見てきたかと思えば、声を掛けた途端に何だか怒ったような表情になって下を向き、何やらぶつぶつと呟き始める。

 名前を付けるなどと言い出した事と言い、人間とはここまで理解不能な生き物だっただろうか。鎌たちが連れてくる善良な命たちや、『鎌』になる前の鎌たちはもう少し理解出来ることを話していた気がするのだが。


 どうせ少女以外に呼ぶ者もいないというのに、名前など付けて一体何になるのだろうか。死神と呼べば通じるのだから、それで構わないと思う。それでは駄目な理由は何だ? ――分からない。


「……決めたわ」


 そんな事を考えている内に、気付けば少女は俯いていた顔を上げていた。春を思わせる金緑色の大きな瞳が、まっすぐにこちらを射抜く。

 そうして、少女はゆっくりと口を開いた。


「貴方の名前はーーリュアン」


 どくりと、心臓が脈打ったような気がした。同じようなことを、以前にも経験した気がする。それは、一体いつのことだったか。


 少し前までの言葉で、月を表す音。それが、どうやらこれからのジブンの名前になるらしい。

 そう聞いても、感慨は浮かばなかった。だが、不思議と悪くないと思う。

 何とも形容し難いムズムズとした感覚が襲ってきて、胸の内側がほんのり温かい気もする。これは、何だ? こんな感覚は、知らない。


 本日2度目の不可解な感覚に眉を顰めていると、目の前の少女も眉を顰めて首を傾げた。


「まさか、人が付けた名前に文句をつけるの?」

「…いえ、そんな事は」

「じゃあ、何故眉を顰めてるのよ」


 少女の問いに答える言葉が見つからず、黙り込む。そうして言葉を探していると、少女はまた溜め息を零した。


「まあいいわ、どうせ文句を言われようが私は受け付けないもの。……さて、改めて自己紹介と行きましょうか。私はフレア。歳は14。貴方もとっくにご存知の通り、死にかけの伯爵令嬢よ」


 少女の名前を聞いて、何故だか胸がつきりと痛んだ。太陽を意味する言葉を聞くといつもそうだ。心当たりなど無いと言うのに、不思議と懐かしくて、温かくて、胸が痛い。

 かつて、太陽に焦がれた時期があった。だが、ジブンに太陽の元を歩く資格などないような、許されないような気がして、いつからかフードを纏うようになっていた。

 それを、思い出すからだろうか。


「貴方も自己紹介するのよ、リュアン」

「ジブンも、ですか……。…………ジブンはしにが……………リュアン。鎌を持てない死神であり、鎌を統率する者です」


 死神だと言いかけ、少女が眉を顰めたのを見て言い直す。それに満足そうに頷いた少女は、こてりと首を傾げた。


「ふぅん、鎌、ねぇ……。その鎌というのは何?その言い方からして道具ではないのでしょう?」

「……鎌は………人の言う所の死神、でしょうか」

「へぇ…」


 自分で聞いておいて、少女は気のない返事をしている。一体何が聞きたかったのだろうか。

 それとも、自分の命を奪ってくれる可能性のある存在に興味を引かれて返事が疎かになっているだけなのだろうか。


「…色々聞きたいことはあるけれど、とりあえず今はいいわ。支度をしたいから、部屋を出ていってもらえるかしら」


 ……支度? 一体少女は何の支度をするつもりなのだろうか。支度をするから出ていけとは……


「ぼうっとしていないでさっさと出ていって下さる?」


 にっこりと笑う少女には何故だか妙な迫力があった。思わずそそくさと部屋を出る。

 暫くして、少女の部屋の扉が中から開いた。どうやら支度が終わったらしい。


 部屋に入ると、少女は先程までとは違う格好をしていた。先程まではゆったりとした桃色のネグリジェを着ていたのが、今は黒とグレーのビスチェワンピースの様なものを着ている。

 貴族というよりは裕福な商人の娘の様だ。


「どうかしら?」

「………どう、とは…?」

「似合うかって聞いてるのよ」


 予想外の言葉にパチパチと目を瞬かせる。人間の基準でどうなのかは分からないが、少し大人っぽいデザインのそれは、どこか儚くも大人びている少女にはよく似合っているように見えた。


「………似合って、いるのではないのでしょうか」

「そう、ならいいわ。行くわよリュアン」


 ジブンに声を掛けるなり、少女はそのまますたすたと部屋の外へ歩き出してしまう。それから、一向に着いていかないジブンを見て訝しげな表情をした。


「何をしているの。さっさと行くわよ。時間は有限なのだから」

「……あの…」

「何よ」

「……何処へ、行くのですか………?」

「貴方、私の話を聞いていた? 市場に行ってみたいって言ったじゃない」


 それは確かに聞いた。聞いたが、まさかその日のうちに行動に移すとは思っていなかったのだ。

 寿命が短いからか、どうやら人間というのはせっかちな生き物らしい。


 新たに増えた人間に関する知識を頭の中に反芻(はんすう)しながら、先を歩く彼女の背中を追った。

この時代にビスチェワンピースってあるんでしょうか……


今回もお読み下さってありがとうございました!

良い新年をお迎え下さい。

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