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鎌を持てない死神の話  作者: 桜庭しおり
第一幕 辺境伯の娘
6/15

5 名前は大切?

ごめんなさい、また間があいてしまいました^^;

「…………は?」


 唖然。少女の表情は一言で表すのならそれだった。ぽかんと口を開け、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。

 それはもしかしたら、先程の笑みよりも年相応の顔かもしれなかった。彼女はまだ10代半ば程だと言うのに、彼女の言動や仕草は少し大人びすぎている。

 ……比較対象がいないので、こんなものだと言われればそうなのかもしれないが。


「からかっているの……?」

「いえ、そんなことは」

「じゃあ一体どういうことだと言うの」


 ギロり、と鋭い目で睨まれる。態々(わざわざ)体を起こして視点を合わせて、だ。本当に、からかっている訳ではないと言うのに。

 何となく、溜め息を吐きたくなった。いくらジブンが感情のない存在だとは言っても、進んで自分が欠陥品であることを話したい訳が無い。だが、いつまでも答えないままではこの少女は納得しないのだろう。


「『死神』には、人の命を刈り取る力は備わっていないのですよ」

「では、私たちの命を刈り取る者たちの正体は一体何? 『死神』に人の命を刈り取る力がないと言うのなら、貴方は何をしているの?」

「…さあ、それはジブンにも分かりません」


『鎌』が何者か。その質問の答えをジブンは持ち合わせていない。いや、それだと少し語弊があるか。

『鎌』は死者だ。生前に罪を犯した人間たちが罪を償うための仕事であり、過酷な仕事に魂が壊れて生まれ変われなくなってしまう『鎌』が出ることもある。

 分からないのは、彼らがいつからいたのか、元はどのような経緯で生まれた存在なのかと言うことだ。ジブンがジブンとして意識を持ったとき、彼らは既にそこにいた。それがどうしてなのかなど、考えたこともなかった。


 意図の読めない質問が、ジブンの心をぐさりと突き刺す。


「出来ないと言うのなら、人の命を刈り取る人って言うのをここに呼んでくれない? 流石にそれくらいは出来るでしょう」

「出来ないことは、ありませんが。例え彼らが来ても、まだ順番が来ていない貴方を、彼らは殺さないでしょう」

「あっそ、死神様って融通が効かないのね!」


 こちらを睨んで食い下がって来るかと思ったのだが、意外にも少女はそれ以上追求してくることはなかった。思わずじっと少女のことを見つめてしまう。


「言っておくけど、納得したわけじゃはいわ。……私、一度市場というものに行ってみたいのよね。だから…」


 貴方が連れて行きなさい、叶えてくれたら先程のは無しにするわ、と少女は言った。

 少女の要求を聞く意味は、あまりない。彼女がどれだけ望もうと順番が変わる訳では無いし、少女に許されても許されなくても関係が無い。


 だが……。

 感情が無い筈のジブンがこんな事を思うのはおかしな話なのかもしれないが、この少女には興味がある。もう少し、この少女を見てみたいと思うのだ。


「了解しました」


 この退屈を終わらせてくれると言うのなら、市場に行くのもいいだろう。そう思って返答すれば、目の前の少女は「当然ね」と言って不敵に笑んだ。


「それで、貴方の名前は? 人と関わるのならまず名乗るのが礼儀でしょう」

「……名前、ですか。名前は……………………死神?」


 考えてみれば、人間に付いているような名前をジブンは持っていないことに気が付いた。鎌たちは死神様と呼びかけてくるし、他の単語で呼ばれたことなどない。

 ならば、ジブンの名前は死神ということになるのだろうか。


「それはもう知ってるわ。名前がない訳では無いでしょう?」

「ですから、名前は死神です」

「それは名前とは言わないって言っているの」


 ……首を傾げる。少女の言葉が良く分からなかった。名前は個体が識別出来ればそれでいいのではないのだろうか。


「名前は……誰に対して呼びかけているかが分かれば、それでいいのではないですか?」


 首を傾げながらそう告げれば、少女が深々と溜め息を吐いた。


「そんな訳がないでしょう。……いいわ。なら、特別に私が付けてあげる」

「……? 名前なら既にあるので、あまり必要性を感じません」

「さっきも言った筈よ。死神が名前だなんて言わないわ。少なくとも私は認めない。貴方はつべこべ言わずに大人しく従っていればいいの」

「はあ……」


 別に名前が何だったとしても構わないのというのに、本気で理解不能だ。単なる音の響きがそれ程重要なのだろうか。どうせ、名前を付けた所で呼ぶのは彼女しかいないだろうに。


 ぶつぶつと何事かを呟きながら俯いて考え込んでしまった少女をじっと観察していると、少女が不意に顔を上げてまっすぐにジブンの方を見つめてきた。


「……何でしょうか」

「ねえ、貴方の顔を見てみたいのだけれど」

「別に、構いませんが……」


 何の脈絡もない願いに虚をつかれて瞳を瞬かせつつ、被っていたマントのフードを外し、顔を(さら)す。頭の後ろでひとつにくくっていた髪が動きに合わせて揺れた。

 そうして顕になったジブンの顔を見て、少女がハッと息を飲んだ。

……という訳で、少し人とはズレて?いる死神さんでした。

次回はフレア視点になります。


今回もお読み頂きありがとうございました!

少しでも面白いと思って頂けましたら嬉しいです!

登場人物紹介に挿絵を追加しましたので、宜しければそちらもご覧下さい。



『修道女になったら何故か堕天使から溺愛(?)されているのですが』

というタイトルで新たに連載を開始しました!

死神と同じく更新は遅めですが、宜しければ覗いて見てやって下さいな。


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