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鎌を持てない死神の話  作者: 桜庭しおり
第一幕 辺境伯の娘
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4 初めての会話

長らく空けてしまい申し訳ありません!

お久しぶりです、桜庭です。

今回も楽しんで頂けましたら幸いです。

「それで、貴方は一体何者なのかしら。黒ずくめの侵入者さん?」


 誰のことを指しているのだろう、と思わず辺りを見回した。だが、ジブンの周囲には少女の言うような黒ずくめの人物など誰もいない。ーー黒の外套を身に纏う、ジブン以外はに。

 それに、少女はハッキリとジブンのことを見ているようだった。ジブンの事を見ることができるのは、鎌しかいない筈なのに、だ。


「………それは、ジブンの事でしょうか」


 最後に声を出したのは、一体いつのことだっただろう。『鎌』との会話は思念で済んでしまうため、長らく口を開いたことなどない。時間をかけてようやく絞り出した声は、酷く掠れていた。


 フードの隙間から、ちらりと少女を覗き見る。少女は呆れた、と言わんばかりの表情を浮かべていた。


「貴方、馬鹿なのかしら?」


 決して好意的な言葉ではないのに、何故だか胸が疼いた。ちりちりと焦げ付くような、こんな感覚は知らない。知らず眉が寄る。


「貴方以外に誰がいると言うの? 黒ずくめの、と私はきちんと言った筈なのだけれど」


 当たり前のような顔で話しかけてきているが、そもそも何故、少女にはジブンが見えているのだろう。

 ーー分からない。理解が、出来ない。途方もない時間を生きて来たが、こんな事は今までなかった。記憶の中に、このような人間などいなかった。


「貴方、何者? 少なくとも、人ではないのは確かよね。もしかして死神?」


 感の鋭さに目を見張るが、一体どう答えるのが正解なのか、分からない。少女の語る『死神』が、『人の命を奪う者』なのか、それとも単に『死神と呼ばれる者』を指しているのか、どちらだろうか。

 恐らく前者の事を指しているのだろうとは思いつつも確信がなく、ただ顔を伏せて沈黙を貫いた。


 ……その沈黙を、どうやら少女は肯定と解釈したらしい。

 少女が、小さな笑みを浮かべた。少しだけ、嬉しそうに。それは、今日見た表情の中で唯一不機嫌とは縁遠いものだった。今日見た中で一番、年相応に見える笑みだった。


「そう、そうなのね」


 歌うように、少女は呟く。そうして、次の瞬間に彼女は言った。


「なら、殺して。今すぐによ」


 と。


 想定出来ていた台詞だった。人間の願いがそれ程短時間で180度変わるはずがない。

 ジブンは、同じ姿勢を保ったまま黙して何も答えなかった。命を刈り取るのは『鎌』達の仕事で、死神とは名ばかりのジブンにそんな力は備わっていないからだ。

 何とも形容し難い静まり返った空気だけが、部屋の中に横たわっていた。


「今すぐ私を殺しなさいと言っているの。出来ないとでも言うつもり?」


 何も答えないジブンに痺れを切らしたのか、少女が再び口を開いた。その整った眉を、不機嫌そうにぴくりと上げて。


 ……どうして、この少女は生きようとしないのだろうか。


 どこか死に急いでいるようにも見える少女を見ていると、思わずにはいられない。だって、この少女の体はこんなにも()()()()()なのに。


「貴方は…」

「何よ」

「……生きたくは、ないのですか」

「別に、生に対しての執着はないわ。生きていてもつまらないだけでしょう」


 絶句した。目の前で心底つまらなそうな表情を浮かべている彼女は、どう見たってまだ10代も半ばの歳若い少女でしかない。そんな年端もいかぬ少女が人生を悟り切った老人のような発言をしたことが、酷く衝撃的だった。


「……そう、ですか」

「そうよ。下らない質問もいい所ね。ねえ、さっさと一思いに殺して頂戴。焦らすのが趣味なのかしら、性格悪いわね」

「…………」

「いつまで(だんま)りでいるつもり? 私は貴方の質問に答えたわ。貴方も答えてくれたっていいじゃないの」


 何故だろうか。この少女には、知られたくないと思う。ジブンが死神と呼ばれる資格のない、『欠陥品』であることを。

 ちらりと一瞬過ぎった考えは、確かにジブンのものであるはずなのに理解が出来なかった。『死神』は、感情のない存在だ。ならばこの考えは、一体何に起因するのだろう。


 どれ程前のことかなど最早覚えていない。だが、ジブンがジブンとして意識を持った時には既に、感情などというものは備わっていなかった。長い時を生きる中に、感情なんて不確定で不安定なものは必要ない。

 それなのに、何故こんな事を思うのか。


 思考を散らそうとして、ふるふると首を横に振る。それは、少女には彼女の言葉に対する否定に映ったようだった。

 不快げに眉を(ひそ)める少女を見て、この少女はしかめつらばかりしているなと、そんなことを思った。


「死神様って、融通が効かないのね!」

「………………………刈らないというより、刈り取れないのですよ」


 嘆息と共に告げられた言葉に、気付けばそう返していた。言った瞬間にしまったと思うが、最早後の祭りだ。

 少女を見れば、彼女は思いがけない事を言われたと言うように目を大きく見開いていた。


「………は?」

今回もお読み頂きありがとうございました!

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