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鎌を持てない死神の話  作者: 桜庭しおり
第一幕 辺境伯の娘
2/15

1 退屈しのぎ

 退屈だ……


 そんな言葉が胸を突いた。太陽の光がさんさんと降り注ぐ時間帯、道には多くの人々が忙しなさそうに行き交っている。そんな中を、ただ当てもなくふらふらと彷徨い歩く。

 彷徨い歩いて何年が経ったのだろう。数えることなど等に止めてしまった。

 永遠を生きる中、年月なんて数える意味がないとも思う。思うが、いつまでも続く終わりのない時間に他にどう対処すればいいと言うのか。ジブンはただ、この退屈を紛らわせる手段が欲しかったのだ。


 人というものがこの世に生まれるよりもずっと前から、長い間この世界を見守ってきた。

 初めの頃に比べると、この世界は格段に便利になったと思う。あの頃の人々は、ほぼ裸に等しいような服を着て、文字も書けず、商品は物々交換で生活していた。

 それが今では、場所によって様々な文字があり、当たり前のように人は何着もの服を持ち、通貨と呼ばれるもので物を売り買いしている。

 時を経て、人々の生活は大きく進歩している。だが、数日前とは何も変わり映えしない。貧富の差こそあれどどこもかしこも同じような事しかしていないのに、どうしてこんなにも笑顔が溢れているのだろうか。理解出来ない。


 少し前まではどこの国でも戦争をしていて、同時に2、3の国を相手取ることすらあった。世の中はジブンのやるべき事で溢れかえり、退屈を感じる暇もなかった。

 戦争が続けば死者も増える。多くの『鎌』があの時代に増え、そして去って行った。中には望んで『鎌』を続ける変わり者もいるが、それも極々少数だ。


 最近では国同士の争いと言っても小競り合いが精々で、人の間で混沌の時代とも呼ばれるあの頃のように戦争をしている国はどこにもない。国同士の小競り合いや国内の騒動による紛争だって、決して数は多くないのだ。

 平和なこの時代にジブンがやるべき事はとても少なく、最近は前にも増して少々暇を持て余し気味になっている。




 だから、彼女の事は単なる退屈しのぎの一環のつもりだったのだ。




 突然だった。先程まで通りを行き来していた人々が慌てて脇に避け始めたのは。

『原因』は物凄い勢いでこちらに走ってくる馬車だった。馬車には紋章が入れられており、載っている人物が貴族だということは一目瞭然だ。この地を治める領主一族の誰かか、もしくはその客人だろうか。


 いつもならここで興味を失い、ジブンはまた歩き始めたのだろう。だが、今回はそうはならなかった。

 ジブンの体をすり抜けていったその馬車の中に、妙な魂を見つけたのだ。


 普通の魂は、白か黒、あるいはグレーに別れている。その者の背負う罪が大きければ大きい程、魂は黒くなっていくのだ。1度黒くなった魂は、死後に罪を償うことでしか元に戻らない。


 ジブンが見たそれは、白かった。だが反対に、黒くもあった。

 その者の心根の本質を表すような白い魂に、蛇のように(うごめ)く黒いものが絡みついていたのだ。


 そんな魂は見たことがなくて、それなのに妙に惹き付けられる。誰がその魂の持ち主なのだろう、ともう遥か彼方のその馬車をじっと見つめた。

 中に乗っていたのは、まだ若い少女だった。馬車の椅子に(もた)れて荒い息を吐いている。随分顔色が悪く、顔の造作自体は整っているもののそれ以外はどこにでもいる少女のように思えた。

 少女の持つ魂だけが、その中で異質だ。


 ……彼女を観察するのは、良い退屈しのぎになるかも知れない。


 とりあえず、馬車が去って行った方向に向かってみようと思った。

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