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喪失

初めまして、桜庭です!

初投稿につき至らない所もあると思いますが、どうぞよろしくお願いしますm(*_ _)m

  固く閉ざされた瞼。かつては薔薇色に色付いていた柔らかな頬。そして、何度も何度も私の名前を呼んだ桃色の唇。

  すっかり温もりを失っている体に、もう彼女はどこにもいないのだと唐突に理解した。死ぬ事の出来ないこの身が恨めしくてたまらない。もしもそれが出来るなら、今すぐ彼女を追い掛けるのに。暗く寂しい場所で1人になんてさせないのに。


 温もりをくれた貴女に、私は何かを返す事が出来ていたのだろうか。


「リーフィア……」


  彼女だけが、私の事を恐れなかった。いつだって太陽のように明るい笑顔で私を照らしてくれた。名前のなかった私に、名前をくれた。居場所をくれた。思い出をくれた。

  何よりも、彼女と過ごす時間には温もりがあった。彼女と出会って初めて、私は温もりと呼ばれるものの存在を知った。

  あの日々がもう戻らないなんて到底耐えられない。今まではどう過ごしてきたのか、もう思い出すことはできそうにもないのに。




『あなた、とっても強いのね! すごいわ、助けてくれてどうもありがとう!』



『また会ったわね! わたし、リーフィアって言うの。あなたのお名前は? え? ないの? ……なら、今日からあなたはマティアスね!』



『マティアス、見て! キレイな花があんなにたくさん! セドリック達に摘んで帰ろうかしら』



『マティアス、この石を上げるわ。今日雑貨屋さんで見つけたのよ。あなたの瞳みたいで、とってもキレイでしょう?』



『ダメよ、マティアス。せっかく着飾っているのだから、少しくらい褒めてくれたっていいじゃないの』



『マティアス、あのね…。わたし、あなたの事が好きみたいなの……』




  次々と、今まで共に過ごした時間が蘇ってくる。

  キラキラと瞳を輝かせて見上げて来た顔も、考え込んで俯いた顔も、満面の笑顔も、面映ゆそうに微笑んだ顔も、拗ねた横顔も、耳まで赤くなって瞳を潤ませながらもまっすぐに私を見上げて来た時の顔も、何もかもを覚えている。


  彼女といれば、私も『普通の人間』になれる気がした。人並みの温もりを、優しさを、幸福を、彼女は教えてくれたから。

  実際には人になどなれる筈がないというのに、それでも夢を見た。見て、しまった。とても優しくて、とても残酷な夢を。


  全てが愛しい、かけがえのない少女。私の生涯で、ただ1人の妻。彼女が朽ち果てるまで傍にいようと、そう、決めていたのに。


  長い間、妙に冷たい石畳の道に座り込み、リーフィアの(むくろ)を前にただただ呆然とした。降り続ける雨は私の頬を容赦なく叩き、骸に残る微かな温もりさえも奪っていく。

  何故、こんな事になってしまったのだろう。どれだけ考えても、私には分からなかった。




『マティアス』




  名を呼ばれた気がして、顔を上げる。彼女しか知らない、彼女しか呼ばない、大切な私の名前。

  彼女がまだ生きているのではないかと、有り得ない夢を見た。


  長い髪を振り乱し、恨めしげな顔をした、血だらけの女が立っている。愛嬌のある可愛らしい容姿の彼女。リーフィアと同じ顔に、じくじくと胸が痛んだ。


『どうして、助けてくれなかったの…? わたし、待ってたのに。あなたがくるの、ずっと、ずっと……』


  リーフィアではないのは直ぐに分かった。彼女はこんな、人を恨むような表情も、瞳も、1度だってしたことがなかったから。

  彼女はいつだって、人の幸せを我がことのように喜ぶ人だった。明るく、前を見すえて歩いていこうとする人だった。

  それを、私は誰よりも知っているから。


  だからこれは、リーフィアにそっくりなだけの偽物だ。私の抱える罪悪感が見せているだけなのだ。

  必死にそう言い聞かせる。分かってはいても、同じ顔をした彼女に詰られるのは辛い。心が(えぐ)られるようだ。


『あなたになんか、出会わなければよかった。そうすれば、わたしはわたしのまま、幸せに暮らせたのに…』


  事実だ。リーフィアは私の為に、何もかもを失ってしまった。

 家族も、友人も、居場所も、文字通り何もかもを。


  私が悪いのだ。私は、人を愛するべきではなかった。名を持つべきではなかった。あの日、話しかけられたことに答えを返してはいけなかったのだ。


  それ以上彼女を見たくなくて俯く。その拍子に、首に掛けていたネックレスが視界に入った。

  黄色と黄緑が混ざりあい、中央に黒い炎の浮かんでいる大きな石。リーフィアの魔法石で作った、世界に1つしかないネックレス。

  それを見れば、より一層喪失感が増した。


  彼女がいなくても、世界は回る。何事もなかったかのように、明日はやってくる。

  ただそこに、彼女だけがいない。




 それならば、もういっそ、こんな世界なんて………




「あ、あぁ…。あぁぁあぁぁあぁ…!」


 俯き頭を抱えながら首を振り続ける私の背から、ぶわりと黒い(もや)のようなものが溢れ出た。

  それは私の周囲を渦巻き、リーフィアを抱き、この町に住む人の全てを飲み込んで尚広がり続け…………









  そこで、私の記憶はぷつりと途切れた。

えー、一人称は『私』ですがマティアスさんは男です笑


お付き合いいただきありがとうございました!

誤字脱字等ありましたら遠慮なくご指摘下さい

感想等もいただけましたら嬉しいです!

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