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どこにもなかった風景、経験しなかった思い出

古本屋の二階に住む人

作者: あめのにわ

——なんと、どうも、こんなところでお見かけするとは。


ぼくは声をかけられ、振り向いた。

ある晴れた休日の午後、小さな商店街の一角。

ぼくは古書店の前に自転車を止めて、店頭のワゴンをチェックしようとしたところであった。


声の主は、帽子をかぶった、見覚えのない小柄な老人である。


——ど、どなたでしたっけ。


ぼくは首をかしげた。

そんなぼくを老人は可笑しそうに笑い、帽子をぬいで会釈した。


——あっ。


老人の顔をみて、ぼくは思い出した。


ヤマハラさんだ。


——ご無沙汰でしたな。お元気ですか。

——いやあ、……


ぼくは頭をかいた。

古書店の店頭のワゴンには、古びた雑誌が山積みしてある。

妻といっしょにデパートに買い物に出かけた帰り、ふとそれを見かけて、気になってしまったのである。

妻は古本好きはいつものことだという様子で、自転車を置いて近くの公園で時間をつぶしていた。


——拙宅は、この二階でしてな。

——そうだったんですか。


では御免、と挨拶し、ヤマハラさんは書店の横の階段から階上に上ってゆく。


ヤマハラさんは、ぼくが数年前、役所がらみの仕事を担当していたときのクライアントだった。

ずいぶん理屈っぽい、クセのある「難物」であり、自分なりの筋を通さないと、決して納得してくれなかったことを、覚えている。

だが不思議なもので、議論や喧嘩を重ねつつ付き合ってゆくうちに、妙な友情ともライバル意識ともつかない関係になっていた。

その案件が終了した後は、特に顔を合わせることもなくなったので、久しぶりの再会というかたちになる。


こんな場所に住んでおられたのか。古本屋の二階に住んでいれば理屈っぽくもなるだろうな、とぼくは思った。


古本屋に入ると、細く狭い店内は整頓されていた。

左のカウンターでは、店主らしき初老の男性が立って整理作業をしている。


書棚をざっと見渡してみた。

奧の文庫棚にはサンリオSF文庫やソノラマ海外文庫などの稀少本が並んでおり、ピエール・プロの「この狂乱するサーカス」その他のタイトルが見えた。

これはチェックしたいと思った。


棚の前には学生らしい青年と娘がおり、立ち話をしている。

どうも娘はこの店で働いているらしい。


——最初はあたしも通販で買うだけの客だったの。でも見てられなくなって、手伝うことにしたんです。


娘の言葉に、青年はうんうんと相づちを打っている。それにつれて、娘の言葉にはだんだん熱が入ってきた。


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