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「んん……」
いつのまにか朝になり、ミナは雲の中に身を沈めているような、ふわふわした心地と、優しく髪を梳いてくる手の温もりにぼんやりと目を開けた。視界が霞みがかっていてはっきりと見てとれないのだが、髪を梳いている誰かがベッドに並んで寝ているのは確かなようだ。柔らかくふんわりした亜麻色が映る。肘をついているのだろうか、顔の位置がミナより高い。
「……?」
「やっと起きたか。おはよう、ミナ」
焦点の定まらない目を瞬かせ、ゆっくりと首を傾げた。誰……? なんだか、とても好きな声だし、好きな匂いがするけれど……。
「ああ、眠いなら別にまだ寝ていていい。じっくり寝顔を堪能するのも悪くない」
「…………――ッ!」
突然、すべてが開かれた様に状況を理解し、驚愕してミナは弾き起きた。
「えっ、えっ、ちょ、え……!」
ミナが会いたくてしょうがなかった人が、目の前で添い寝している。己の気持ちが引き起こした幻想だろうか。それとも夢の中なのだろうか。どちらにせよ突如現れたリクはいつもどおりではなく一段上へ成長したような、自信にみなぎった雰囲気をまとわせていた。朝陰のせいだろうか、元々美形なのに、以前よりずっと綺麗に見えて少し眩しい。
「久々に会ったのになんだよ、それ。まあいいけど」
軽く口を尖らせたと思ったら次はふっと笑みを見せる。ミナの動悸が激しくなる。
気が動転したミナは自分の髪をしきりに触ったり、乱れていないかと服の前を気にしたり、誰にも見られていないだろうかとあちこちに首を回したりした。そんなミナをリクは寝そべったまま楽しそうに見上げている。
「あっあのあのあのああああ」
「うん? いつからいたって?」リクは口をハクハクしているミナの擬音を勝手に通訳して答える。「一時間くらい前かな。夜の間に馬車で走ってきた。で、部屋に来たら……」
ゆっくりとリクの手が伸びてきた。ミナの髪を一房とって軽く口づける。
「――お前がいた。……なあ、ここ、俺の部屋じゃなかったっけ?」
「そっ……! そ、それは……!」
ミナは顔を真っ赤に染め上げた。
寝ぼけて入った、はちょっと苦しいだろうし、他に良さそうな言い訳もすぐには思いつかない。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
火を噴きそうな勢いのミナを、リクはさも嬉しそうににやけて見ている。早く何か言わないとまずいぞ。というか、いつ髪ほどいたのだろう。自分でやった覚えがない。
「もしかして、毎晩ここで寝てたのか?」
「ちっ、ちちち違います! 昨晩だけでッ……あ」
やられた。リクが満面の笑みで「あはは!」と吹き出した。
「お前……可愛いなぁ」
「や、やめてください! その、可愛いとか言うの」
「う~ん、つれねーな。来るのが遅かったの怒ってるのか?」
「遅いですよ! あ、いや、別に遅くないですけど、私にはそう感じられてしまっただけで……」
リクは悪くない。ただ、どうしようもないくらい会いたかったから、とても長く感じられた。
「――ミナ」




