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「ああああっ、女官! すみません! これは誤解でっ」

 いくらリクの私室だからと言って他に人が入って来ないとは限らない。それをすっかり忘れ、ミナは不用心になっていた。

 ベッドに腰掛けている男と、その男に抱き着く女。しかもなんか男は女の頬をつまんでただならぬ仲と思わせる雰囲気を出してじゃれ合っている。こんな場面、誰が見たって男女の関係だろうと誤解する。

 ミナは人生終わったみたいな表情でいまにも失神してしまいそうな女官を前に泡を吹きそうになった。これではこちらの人生が終わってしまう。慌ててリクの腰に回していた腕を解いて離れようとするも、彼がそれを許さなかった。がっちりとミナを抱きしめてしまう。

「殿下ッ!」

「そのままでいい」

 顔を上げて抗議したがやんわりと手で彼の胸のあたりに押し付けられた。これ、ますますまずくないだろうか。それに規則正しい彼の心音がやけに生々しく不謹慎な感情を抱いてしまう。色んな意味で緊張が走り、じわじわと汗が噴き出してきた。

「それで……何の用だ?」

 ミナの動きを封じるとリクは石化している女官を透き通った上品な声で目覚めさせた。ハッと目が覚めた女官は、二、三度目を瞬かせ、ゆっくりと喋り出す。

「あ……ええと、すみません。ずっとお呼びしていたのですが、その……気づかれなくて……。先ほど国王様から召喚状が届きました。今夜には迎えの馬車が来ます。ご準備のほどよろしくお願いします」

「わかった」

 ――ずっとって、一体いつから見ていたの?

 女官の話す内容に、ミナは内心ドギマギした。

 何を見られたのだろう? というか、会話も全部聞いていた? 恥ずかしくなり、かあっとミナの体温が上昇する。ただでさえ熱くて変な汗をかいているのに。せめて離してくれないだろうか。上司の前でこんな姿をさらす羽目になるとは思ってもみなかった。

 というか、ついに王宮へ戻るのか。

 教育はだいぶ進んでいるとの報告はしていた。リクは一人でこもっているあいだ、ひたすら自学していたらしい。なのできっともう十分合格レベルに達している。そして体調も治った。しかしだからといってもう馬車を走らせ、今夜には到着するとは随分と性急な話だ。そして私たちはどうなるのだろう。一緒に行くはずはない。今夜で自宅に帰されるのだろか。今夜で、彼とは最後になるのだろうか。

 ――そんな。

 でも、任務が終了した以上、それ以外でリクとミナが会う理由がない。私たちは所詮王族と庶民。王子と使用人。

「あの、殿下。差し出がましいかもしれませんが……」

 ミナが感傷に浸っていると、いかにも好ましくない意見を述べようとする女官の切り出しにぴくっと身体が跳ねた。ミナは絶対自分が制裁されると身構え、自然に身体に力が入った。しわになったらいけないのに、がしっと指に力を入れてリクの服をつかむ。

「……お戯れもほどほどにしたほうがよろしいかと存じます。はっきり申しまして、あらぬ誤解を受ける程度のお戯れです。それは使用人ですし、殿下ともあろうお人の相手は務まりません。殿下はこれから特に大事な時期です。明日には王宮へ戻り、しばらくは王太子選定前に特別教育をお受けになります。どんな小さな芽も、相手方は咲く前に大げさに摘み取ってしまうものです。防げるものは防いでおいた方がよろしいかと」

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