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ミナがばんざいしてそのままリクの腹に突進してきたので、ベッドに腰掛けていたリクは呻いて腹を押さえた。どうやらミナの頭部は彼のみぞおちに華麗にヒットしてしまったらしい。
「いきなり変なとこに突っ込んでくるな! てかなんで俺よりお前のほうがそんな嬉しそうなんだ?」
変な奴め、と恨み言を漏らしながら腹をさすっている。
「そりゃあ嬉しいに決まってるじゃないですかぁ! だって、私っ、もう……本当ずっと心配で心配で……」
ミナの言葉は誰にも否定させられない淀みなき真実だった。これまでの苦労が思い起こされ、つい涙声になる。
「……そうか。それは悪かった」
心からの思いだと伝わったのか、リクはトーンを落として、抱き着くミナの頭を優しい手つきで撫でた。普段どちらかというと不器用な彼が、こんなに優しく撫でられるものなのかと驚くくらい宝物を愛でるようにしっとりと甘い。
「眠いのか?」
「眠くなってくるんです」
ついうとうとし出したミナにリクが問うた。
彼の体温を感じていると、気持ち良くて眠くなってしまうのだが、そうと伝えてないので、リクはミナがなぜ眠くなってくるのか疑問の色を浮かべている。その様子がどうにもおかしくてミナは小さく笑うと、
「そういえば、殿下って殿下らしくないですよね」と話を変えた。
「はあ? ……や、そう言われれば否定できねーな」
最初こそ怒りを見せたもののすぐに思い当たることがあるらしく気が萎えた彼は軽くため息を吐いた。
「あ、すみません! いい意味で、です!」
落ち込ませたいわけじゃなかったミナは急いで付け加えた。
「いや意味わかんね」
「たとえば、ほら……いまこうしていることとか」
ただの使用人がこうして抱き着いても何も咎めないこと。本来なら解雇案件だ。にもかかわらず、咎めるどころか頭まで撫でてくれる。……それ以上のことも。最上級と最下級くらいの身分差があるにもかかわらず、リクはミナを己と同等のように接してくれる。
「あー……それは……俺が……」
照れたように頬をかき、言いにくいことなのか、もにょもにょとだんだんリクの声が小さくなっていく。
「殿下が、何ですか?」
ミナは聞き逃すまいと面を上げ大事な部分をはっきりと尋ねる。ミナの真剣なまなざしにたじろぎ迷いながらも、リクはちゃんと口を動かす。
「俺がしたくてしてるというか、そうしてくれると……俺は嬉しい。だからぜってー止めるなよ。あ、それが殿下っぽくないになるのか?」
「ふふっ。いいえ」
ごく普通のありふれた“殿下”に照らし合わせるのなら、彼の行為は殿下っぽくない。だが、ミナのよく知るリク王子“殿下”っぽくはある。だから殿下っぽいであっている。
「なにニヤけてんだ」
「ひだぁっ」
一人でくすりと笑っていれば、ぶに、と頬をつままれる。
「…………あの」
突然、蚊の鳴くような声が部屋の扉のほうから聞こえ、振り返ると顔の色を失って呆然と立ち尽くしている女官がいた。




