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 ――それなのに。

 最悪の事態は避けられたが、一歩遅かった。

 あるときから夜にしつこく部屋を訪ねてくるフレデリカが、「どうしてもミナのことでお話があります」と言うので、口実かもしれないがどうにも気になってその夜入室を許可した。

「仲がよろしいようですわね」開口一番、フレデリカはそう言った。そこには嫌味や嫉妬はなく、だたの確認のような言い方でしかなかった。

 リクはミナがどう思っているかは知らないが、肯定した。

 するとフレデリカはじゃあ、決してミナをジャックと二人きりにしないでください、と意味深長な注意をした。

 どういうことだと目を丸くするにリクに、彼女はジャックの不可解な行動についてざっと説明し始めた。リクには彼女の言うことが真実めいて聞こえたので、「ミナは、私よりあなた様のことのほうをお好きみたいですから……私には出来ないことです。だから、お願いします。絶対に彼女をお守りください」との切願に了解した。

 リクの了解に安心した表情のフレデリカが戻ると、リクは念のためジャックの部屋を訪ねた。すると留守だった。――まさか。リクは直感し、エリックが売買時に使う港へ、むしばまれている身体に鞭打ち全力で走った。そして予感は的中した。

 ジャックに海に落とされ、可哀相にミナは小さな身体で凍える冷たさに一人震えていた。心細かったろうに、それでも彼女は自分が来てくれるのを信じていてくれた。

 リクが抱きしめれば、ミナは力尽きたようにその腕の中で眠ってしまった。寝ているミナに、遅くなってごめんな、と何度も謝った。

「お前がしたことは許されるものではない」

 ジャックの加担した罪には、現時点でも大勢の犠牲者が出ている。調べればもっと出てくるだろう。

「……わかっています、殿下」

「だが……お前の内心、ミナはきっと悟る。そして、アイツは……恨むようなこともしない」

「…………っ、はい」

 ジャックのすすり泣きが聞こえてきた。ミナが自分をどう思うか、それは彼女を慕う彼の一番の関心だ。少しでも慰めようとしたリクに耐えきれず、これまでの行いに後悔が押し寄せてきたのだろう。

 ――泣かせてやろう。

 彼はいま充分己の所業を身を持って知っているところなのだ。声をかけるのは無粋だと思い、無言で背を向けた。靴音を響かせて離れていくリクに、ジャックのかすれ声が追う。

「で、殿下……オレ、殿下のことも嫌いじゃ……なかったです」

 リクは足を止めた。この地下牢内で錆びた鉄格子の一部のようなジャックの声がやけに大きく、耳障りに感じられた。何か軽口でも叩いてやろうかとの考えがよぎったのに、口から出てきたのはしなくていい別れのあいさつのような、聞きたくなかった本音だった。

「ああ…………俺も、ずっと――お前を嫌いじゃなかった」

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