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「まさかお前が関わっているとは、つゆほども思っていなかった」

 久々にお気に入りの軍用コートを引っかけ正装し、王族としての威厳を全身にまとわせ、リクは暗い鉄格子の向こうに座って俯いている少年を見据えた。彼に対しこんな声音で話したことがこれまでに一度だってあっただろうか。……否、だ。

 短髪の少年はこちらをちらりとも見ず打ちひしがれた様に下を向いたままびくともしない。いま話しかけている人間が誰なのか、彼はわかっているだろうか。しかし少年が己の言葉をしかと聞いていることは気配でわかる。どうやら話しかけることは無駄にはならないようだ。

「……加担しなければ、お前はいまこの場にいることは無かった。最後だ。理由くらい聞いてやる。話せ」

「あいつは……オレの叔父です」

 ジャックがややあってからそう切り出した。彼は話したいみたいだった。残念ながら、いまさら懺悔したところで救われることはないのだが。しかし話すことで少しは楽になるというのなら、最後の言葉、聞き届けよう。

「オレにはあいつしかいませんでした。両親に捨てられたオレをこれまで食わせてくれたのはあいつだったんです。だから、ついて行こうと決めていた」

「法を犯してでもか?」

「……はい」

 リクにはこれまでジャックから、ずる賢い人間特有の不純物を感じたことがなかった。だからそばに置いていた。純粋で、正直で、とても法を犯すことをよしとする種類の人間ではない。彼のいまの話が本当だとすれば、彼は善悪の判断がつかないだけかもしれない。利用されただけの、哀れな子供。

「余罪もあるが、最初から狙っていたのは魔女ではなくミナだけか?」

「はい。てっきり、十三歳とかそのくらいだと思っていたので……」

 ジャックが狙っていたのは十代前半の少女だ。自分も小柄で幼気なミナをそのくらいだと思っていたのでそこは彼と同意見だ。

「で、お前はなぜミナをエリックに引き渡さず海に突き落としたんだ?」

 ジャックは最後の最後でミナをエリックから引き離した。彼の心がようやくこれは罪であると気づいたからなのか。情でも移ったか。あるいは――

「――ククッ。殿下と同じですよ」

 ジャックは急に気配を変えて、嘲笑するように肩を震わせながら言った。

 彼はようやくゆっくりと顔を上げた。見えなくても、その目は笑っているようでぞわりと悪寒が走った。

「彼女を好きになってしまったんです。彼女の明るくて、一生懸命なところにオレの知らない世界がありました。殿下がずっとミナに興味持っているの知っていましたよ。いつどうやって話しかけたらいいのかわからなくて、戸惑って、何も出来ない自分がもどかしくてああやってミナに冷たく当たってたんでしょう? オレにとっては好都合でしたけどね、そのほうがオレに好意を持ちやすいですから。で、サキュバスの事件が起きて――ああ。つまり、あなたとミナが話すきっかけを作ってやったの、オレですよ。その点だけは感謝してほしいですね」

「……そうだな、そこだけは生涯感謝してやろう」

 どこか楽しげに語るジャックに、リクは一蹴してやることができなかった。

 格好つかないがジャックの言ったことは図星だった。

 ミナはこれまで出会った女性の中では異色の存在で、話したいのにどう接したらいいのかわからず戸惑っていた。大人びた少女や、年上でフレデリカのような妖艶な女性とばかり接触してきたせいで、眩しくそこらを駆け回る小動物のようなミナに強い関心を持っていた。

 そして実際に関わってみると、興味はすぐに恋心へと変わった。

 リクは最初から女官もジャックもフレデリカも自分にさして関心を持っていないことがわかった。仕事もほどほどに。だが、ミナだけは違った。彼女だけが、リクがどんな人で、どんなふうに変えていけばいいのかと考えてくれていた。自分にぞんざいに扱われながらも、他の人たちが決してしてくれなかったこと、王子としてでなはく、――素の自分を見ようとしてくれた。

 だから彼女の前では気を張らずにいられたし、あふれるままに欲望もさらけ出した。彼女なら受け止めてくれると思ったからだ。実際戸惑いながらも彼女は自分を拒絶しない。リクにとって大事な人になった。彼女の期待になるべく応え、そして彼女を守ろうと決めた。

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