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覗き見をしようと思っていた。だが結果としては盗み聞きをすることになってしまった。いずれにせよ、悪趣味だし、情けない。
ミナは思いのほかダメージをくらったらしく、立っていられなくなって扉の前でうずくまっていた。
――私のことは嫌がるのに、フレデリカはいいんだ。
へえ。
私の訪問は拒否するくせに、フレデリカは部屋にあげちゃうんだ。しかも、意味ありげな、夜に。
今日に限らず、もしかして今までもそうだったのだろうか。知らない間に、二人はこうして密会していたのだろうか。
「…………」
もちろんそんなの、当人たちの自由だけれども。
二人は何を話しているのかはわからないけど、どちらかが文句や説教をしているような険悪な感じではなく、親密な者同士のように、愛をささやき合う恋人同士のようなひそやかで穏やかな雰囲気だ。そんなひそひそ声を聞きながら、思い切って突入してやろうかな、なんてそんな悪さを考え付く程度にはいじけていた。多分ここが屋内じゃなくて草の生い茂る戸外だったら、腹立ちまぎれに足元の草をブチブチ引っこ抜いていただろう。
せめてどんな話かくらい知りたい。後日、どちらかに尋ねてみてもいいのだけど、本当のことを話してくれるかどうか怪しい。誰にも教えたくない、二人だけの秘密の話かもしれないし。
ミナの頬が勝手に膨らむ。憶測にすぎないのだけど、それだと私だけ仲間はずれ?
――……待てよ。
キスのことはリクとミナしか知らない。これは立派な二人だけの秘密だ。
――でも、どうだか。殿下なら他の人ともしてそうだし。
リクにはたくさんの人と二人だけの秘密を持っているのかもしれない。ずきんと胸が痛くなったが、これがもっとも可能性としては高いように思えた。
「……で、……なので…………」
断片的に聞こえてくる会話に、ミナは頬の空気を抜き、振り返った。音量があがったのか、さっきより聞き取れる。
「……が……? でも、…………」
「――それは……ですが、…………ミナを……」
「……!?」
――えっ、私!?
ミナは思わぬ事態に仰天した。二人の会話に自分の名が出てきた。フレデリカは間違いなくミナと言った。
こうなってくると、余計気になってくる。一瞬、ミナの頭からサキュバスが追いやられる。やはりここは突入……――いや、ダメだ。それはなんか道徳的によろしくない気がする。
それに、なぜいま自分は部屋を出てきたのか。盗み聞きして、ショックを受けて、突撃してやるためではないだろう。その忘れかけていた目的を思い出し、ミナは一旦退散すべきだと判断してジャックの元へ向かった。
そうだ、私はサキュバスを手に入れる。
サキュバスに侵されている、女好きのリク王子のために。いろんな女の子と仲がよろしいリク王子のために!




