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二人でバタバタと廊下を走りリクの部屋へ行った。彼は先ほどと変わらず寝台の上で足を投げ出し苦しそうに脱力していた。
さっとそばに寄ったフレデリカが、彼を見やすい位置にずらしてから、脂汗のにじむ額に手を当てて顔を顰めた。
「……相当な熱があるわね。ミナ、灯りをつけてくれる?」
「う、うんっ」
ランプに火を灯し、フレデリカに渡す。礼を言うと彼女はリクの頭上に置いた。すると肩で呼吸し苦悶しているリクがはっきりと見て取れ、ミナはまた泣きそうになった。
「色々と詳しいことは後で聞くことにするわ。……とりあえず解熱薬を作りましょう。それで、ミナ」
「……ん」
「女官には言ってあるの?」
「……まだ」
「じゃあ、言ってきてちょうだい。こら、なぜあなたが泣きそうになってるの。しっかりなさい」
悄然としているミナに振り向いて厳しく告げた。彼女の言い分はもっともだ。そうだよね、とミナは小さく頷いた。だけど、私はフレデリカほど強くないのだから、仕方ないじゃない。
ミナが女官を呼びに行き、ついでに偶然城にいたジャックも一緒に呼ばれ、フレデリカの調合を待つ間、それぞれがリクの看病を務めることになった。
ジャックは医者を呼びに外へ出され、女官は氷嚢や水やタオルなど使えそうな物を用意し部屋に置くと、国王に知らせを書き彼女もまた外へ飛び出した。ミナは容体を観察しておくようにと言われていたので彼の部屋に残った。その間ずっとリクの汗をタオルで拭いてやっていた。
「殿下ぁ……うっ」
「っ、バカ。俺は、生きてるぞ」
リクの顔や首筋の汗を拭きながら、たまらなくなってミナが泣き言を漏らすと彼は喘ぎながらもうっすらとこちらを見ながら言い放った。
「あ……喋っちゃだめです!」
「……それお前が言う?」
ミナは視線をそらしぎゅっと唇を噛んだ。リクが喋ってくれるのは、ミナを安心させるためだと気づいていた。喋ってくれれば、生きているとわかるから。
彼はこんなに苦しんでいても、ミナを気遣ってくれる。その優しさが沁みてきて、何もできない自分の不甲斐なさがひどく腹立たしく感じた。
「ごめんなさい……っ」
私だけ、リクの世話を焼くどころか負担を増やしてしまっている。泣くことばかりしている。
「なんで謝るんだ」
「だって、私だけ何にも役に立ってなくて……」
いつでも自分は不甲斐ない。誰かの役に立ちたいと、いつでも思っているのに。悲しくて俯くミナの目元にすっとリクの手が伸び、なぐさめるように優しく涙を拭いながら、問いかけてきた。
「チビ。俺が昔からほしかったもの、何だと思う?」
「へ……?」
そんなの話されない限り知るわけがないだろう。唐突な難問に首を傾げる。きょとんとして涙が止まったミナに、リクは微笑んで続ける。
「みんな自分の仕事をきちんとしてくれてる。もちろんありがたいと思っているし、嬉しい。でも、お前のそれ――泣くことは、仕事じゃない。というか、いまお前がしてくれていることは、仕事じゃ絶対にできないことなんだ」
「……?」
平時であれば理解できたかもしれないが、いまのわあわあしているミナの頭では小難しい哲学を聞かされているようなものだった。
「ああ、わからなくていい。お前はまだチビだしガキだからな」
質問に答えられないのに、彼はなぜか嬉しそうに笑いながらからかってくる。
「チビではありますけど、ガキではありません」
ミナは口を尖らせながら言う。リクはだいぶ良くなってきたのか、いつも通りの調子でふん、と小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「お前まだ十三か十四歳だよな? そんなんガキだろ」
「……………………」
「この際潔く認めたほうがいいんじゃね? 私はまだまだガキです、って」
「…………十八歳。十八歳ですが」
「えっ……? は……? ああ! 冗談…………?」
「冗談ではないですね」
「…………」
「…………」
「入るわよ。ミナ! 薬できたわよ! それで、殿下のご様子は…………あら、何この空気。ケンカでもしたの?」
つかつかと入ってきたフレデリカが暗黒物質のような液体を携え、気まずそうな顔のリクとふくれっ面のミナを交互に見て、「あららぁ?」とちょっと楽しそうに疑問符を浮かべた。




