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「死にませんっ! 鬱陶しいから結んでいるだけでとくに意味は――あっ!」

 言ってる傍から勝手にリボンをほどき手を入れ、緩く波打つミナの金色の髪をもてあそぶ。そういえば、よく髪を触られる。

「殿下って私の髪好きですよね……」

「そうだな」

 間髪入れず肯定されてしまえばもう好きにさせてやるしかないと思った。イヤではないのだが、時々梳く手が肩に触れたりするのがちょっとくすぐったくて身をよじった。

「……チビ、こっち見ろ」

「何ですか?」

 顎を掴まれ上向かされると熱っぽい翠の目がじっとミナを捉え、ドキリとする。何だろう、とミナはにわかに緊張してきた。

 ――もしかして、ま、また……キ……キス?

 口を引き結び無意味にまばたきをしだしたミナに彼は目を細め、薄く笑うとささやくように言った。

「やっぱり。このほうが可愛いな」

「……――えっ!?」

 やや遅れてリクの言葉を理解すると、ミナは驚愕して思わず身を離した。

 ――い、いまのは?

 バクバクと忙しなく心臓が鳴り出す。多分顔も真っ赤だろう。

 聞き間違でなければ、これから先もう二度と耳にすることはないであろう甘い言葉を聞かされたのだけれども。聞き間違いでなければ。

「で……殿下。いま……」

「うん? 下ろしたほうが可愛いって言っただけだが」

「ぎゃああああっ」

「いや待て。俺なんか変なこと言ったか? ……あ、そうか! ん、悪い。可愛いのは髪型じゃなくてお前だな」

「……………………」

 リクの余計な訂正にますますあわくってミナは驚いて口を開けたまま呼吸を忘れた。

「……おいチビ。なんか息止めてないか……?」

「……ッ! ……あ……殿下?」

「いま完全にどっか行ってたよな? ……大丈夫か?」

「大丈夫です。……なんだか私には刺激の強すぎる幻聴が聞こえたもので、思考回路が一時的に崩壊していました」

「チッ。まあ可愛いから許す。……って、おい? なんでまた息止めてんだ?」

 ――この、天然女たらし!

 ミナはこのバ……天然女たらしからこれ以上攻撃されたくないと両手で顔を覆いながらそのまま後ろにバタンと倒れた。

 ミナはこれまで一度も男性に可愛いと言われたことがなかった。

 父が言ってくれたこともあったけれど、父は異性の親であって男性ではない。男性に褒められるのがこんなにも気恥ずかしいものだといま初めて知った。最初の“髪型可愛い”でも結構なダメージを与えられたのに、今度はミナ自身を可愛いと言ってきた。

 ――あああああああ!

 ミナは寝台の上をごろごろ転がって、声には出さずに発狂した。

「おい。とりあえず落ち着け」

 ご乱心のミナを、困惑しながらもリクはやけに落ちつきはらってなだめる。

 ちょうど転がって彼に近づいてしまったとき、すかさず両肩を抱かれそのまま覆いかぶさられた。

「殿っ……」

「いいから黙ってろ」

 ミナを捕獲すると、そう言ってぎゅっと強く抱きしめながら悩ましげに息を吐く。

 頭にかかる彼の吐息はやけに熱い。少し高めの彼の体温や力強い抱擁に、こちらまでうっとりとしてしまいそうだ。

 ――また、ほだされてしまう。

 でも心地いい。だから受け入れてしまう。

 このまま抱きしめられたまま眠ってしまいたい。少し熱いけれど。彼も熱いのか、手がやけにじっとりと汗ばんでいた。やがて呼吸も荒くなってきた。はあはあと口から吐き出される息は興奮というより苦しそうに喘いでいるみたいだ。

 ――苦しそう?

「……えっ?」

 さあっと体温と周囲の気温が急降下した気がした。異変を感じたミナはリクの腕から出てそれに気づかずぐったりとしている彼を見て、ああ、と口を押さえ息を呑んだ。

 油断していた。ミナに対して妙な言動をとるようにはなっていたが、サキュバスのほうはあれから解毒していないのだから、消えたわけではないのだ。やつは緩慢ながら彼の体内でずっと進行していた。悪魔はついに現れた。目頭が熱くなった。ポロリと大粒のしずくがこぼれる。ミナは苦しそうな彼の腕をぎゅっとつかむと泣きながら叫んだ。

「――っ、殿下!」

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