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 絶望しかけたちょうどそのとき、いつからいたのか、戸口に背を預けて顔をしかめているリクが言った。どうやら部屋の戸を開けっ放しにしていたみたいだ。

「えっ、殿下!?」

「チビ。お前ってなんかよく変なことしてるよな……」

「好きでしているわけじゃありません!」

 まるで人を変人のように言うリクに、フレデリカに捕まったままミナは抗議の声を上げた。リクははいはいそうですかーと言いながらミナを引っぺがした。なぜ、と目で問うと「いろんな意味で目のやり場に困る」と意味深長なことを言って自分の腕に抱く。……今度はリクに捕まった。

 食事に一階へ降りようとしていたところ、声が聞こえてきたのでなんだろうと思い、見てみるとミナが捕獲されていた。しかもなんだか異様な雰囲気を漂わせていたので声をかけづらく黙って観察しながら割り込む機会をうかがっていたそうだ。

「あら。ではリク王子は私たちに用事があるわけではないのですね?」

「ああ……あ、いや」

「ご用事が? これは失礼致しました。それでご用件は」フレデリカが問うと、リクはちょっとばかりためらい、

「今夜、こいつ俺の部屋だから」とミナの頭にポン、と手を載せた。

「……はい?」

 ミナは頬を引きつらせ何でもないことのように爆弾発言をするリクを振り仰ぐ。またいつかのように、この人はまた私を振り回す気だろうか。

 フレデリカも一瞬見たことのない表情で固まっていたが、すぐに気を取り直したのか花が咲いたように笑った。

「まあ。そうでしたの……。だったら、最初からそう言ってくれればよかったのに。もう、ミナの恥ずかしがり屋さん!」

「えっ、えっ……」

「なんだ? しゃっくり出そう?」

「……違う!」

 動物を扱うように頭をわしゃわしゃしてくるリクの手を叩きながら、ミナは彼は自分を助けてくれたのだと気がついた。理由がちょっといただけないが、フレデリカを怖がっている彼はミナの気持ちを察して言ってくれたのだろう。意外といいところあるのだな、と思う。ミナは心の中でいつか借りは返すと誓う。

 満足したのか、ミナの頭をボサボサにすると、用は済んだとばかりにリクはさっさと下へ降りていった。彼もお腹が空いていたのだろうか。

「あー……一旦部屋戻って髪結び直さなきゃならないよ、これ……」

 ぶつくさ言いながら乱れたおさげの両方のリボンを解き、手で梳きながら整える。でも、久々にいたずらされた。まったくもう、と口では言いながら心は喜んでいる。

 ――変なの。

 それより、なんとかフレデリカの魔の手からは今日は逃れられることになったのは良かった。

「フレデリカ、そういうわけだから、私今晩は手伝えない。ごめんね。それじゃ私もご飯食べてくるね。実験楽しんで。……フレデリカ?」

 部屋を出ようと思っていたのだが、フレデリカがまっすぐな眼差しでこちらを見ていた。

 まっすぐすぎて、逆に胸の内が読めない。怒っているのか、喜んでいるのか、呆けているのか。

「……ねえ、ミナ」

「はい」

 改まって呼ばれたのでミナも礼儀正しく返事をする。フレデリカは尚も探るような様子で、

「殿下とは仲が良いのかしら?」と美しい瞳を揺らしながら問う。

「……えーっと」

 良いのか悪いのか、ミナにもよくわからない。少なくとも嫌われていはいない……はずだけど。だが、さっきのやりとりは仲が良いのだと誤解されても仕方ない。

「簡単な質問のはずだわ。はいかいいえで答えてよ」

「あっ、じゃあ……はい」

 急かされ恐怖を覚えたミナはとっさにそう言ったが言ってから後悔した。仲が良いわけではない。主人と使用人という立場なのだし、リクがそう言うならともかく、自分のほうから仲が良いです、というのは大変厚かましいだろう。しかしフレデリカは納得したのか口角をゆるりと上げ、瞳にはいつも通りの妖しさと優しさが戻っていた。

「――そう。それじゃあ、私この子たちを読破するから。食事へ行ってらっしゃい」

 鼻歌を歌いながら机に戻り、積まれた本を一冊取るとさっそく座って読みだした。

 質問の意図がよくわからなかったが彼女の気は済んだようなのでミナも部屋を出て食事を摂りに厨房へ降りて行った。

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