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 きっと睨みつけたと思ったら今度はにやりと含み顔になった。瞬時に“慰めろ”の意味を悟ったミナはやられた、とこれからやらねばならないことを考えるとまた恥ずかしさに真っ赤になって唇を噛んだ。なんという理不尽だ、と反論の一つでもしてやりたかったけれど、こうなったリクは絶対に意思を曲げないのをよくわかっていたので諦めるしかなかった。

 年頃の少女らしく恥ずかしそうにそわそわしているミナをリクが上機嫌で眺めながら待っている。

 今度は私の番らしい。さっきリクがやった方法で慰めなければならない。

「……っ、この」

 負けん気の強いミナが逃げるわけがない。もしかしたらリクはそれをわかってて言ったのかもしれない。そうだとしたら、卑怯な奴。

 意を決してそっとにじり寄れば頭にリクの手が載る。顔を上げれば、至近距離のリクが試すような挑発的な目でこちらを見ている。彼の目は言う。「それで、次は?」

 ミナはリクの両肩に手をつき腰を上げて、彼の高さに合わせた。顔の――唇の位置が同じになった。軽く傾け、小さく震えながら顔を近づける。

 衣擦れの音と、自分の激しくなっていく鼓動と、ふわりとする彼の息遣いだけがミナの耳を支配する。いま、ここには二人きり。いまさらそれが恥ずかしく思えてきた。目を閉じ、あとは彼の体温を感じればいい。そうすればここは完全に二人だけの世界。リクの手がミナの頬に添えられた。そして――、

「……やっぱり無理!」ミナはあとちょっとのところでそう言って、そのままがばっとリクに抱き着いた。

 これ以上は純朴な乙女であるミナにはハードルが高すぎる。自分からキスをするなんて、そんな大胆さはあいにく持ち合わせていない。ミナはリクの胸に頬をすり寄せながら、どうかこれで勘弁してほしいと請う。

「バカチビ……!」

「ぎゃっ」

 絞り出すような声で軽く罵ってから、リクはたまらないというようにぎゅう、と強くミナを抱きしめかえした。

「殿下、苦しっ……」

「お前、次やったらどうなっても知らねーからな!」

「ええぇ? 次回もあるんですか?」

「当たり前だ。次回も次々回もある」

「ひえ……わっ! ――ン」

 顎を掴まれたと思った次の瞬間には唇を重ねられた。結局キスは避けられないらしい。

 長く静かに触れるだけの接吻が終わると、リクは我に返ったように慌ててミナを布団の中へ戻し、何事も無かったかのように平然と「じゃあな。ちゃんと寝ろよ。おやすみ」と言って出て行った。

 ――なんなの? 

 ミナは眉根を寄せた。急にキスしたり落ち込んだり笑ったり大人しくなったり。情緒が不安定なのだろうか。ああやってこちらを振り回すのは彼の十八番だけれども、彼の感情はミナの感情まで揺さぶるから、勘弁してほしいところだ。

 そして実際すでに影響は出ていた。

「寝られるわけ……ないよ」

 一人になり、横になりながらミナは己の唇をなぞるように指で触れた。まだここにいるかのような、リクの感触が強く残っていた。

 嘘みたいなやりとりだった。

 あんなふうに、まるで恋人同士がするみたいな甘く胸が高鳴るひとときを過ごしたのは本当に自分なのだろうか。だが、唇にも、抱きしめられたときに触れたところ全てがまだ熱を持って彼を欲している。これじゃあ彼に恋しているみたいじゃない。いいえ、そんなはずはない。ありえない。だけど……。

 一人で考えていると悶々としてきて、いくら目を閉じていても、眠れなかった。

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