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「んん? それは何の話? フレデリカ」
ミナが本当にわからなくてきょとんとすると、フレデリカはまた興奮してきたのかほんのり頬を赤らめ、ますます美しく、そして楽しそうに笑った。
「ふふふ。何でもないわよ。ほら、私ってちょっとおかしいでしょう?」
「自覚あったんだ……!」
話の筋には全然関係ないことだが、思わぬ事実に愕然とする。そんなミナに特に気にすることなく、フレデリカは自分の世界へ飛んで行ってしまったのか祈るように手を合わせて、「ああ!」と叫んだ。
「なんだか今とても実験したい気分だわァ! うん、そうね、それがいいわ。そうしましょう。それ片しておいて。どうもありがとう。それじゃあ、お二人とも、おやすみ」
「はいはーい。おやすみー」
フレデリカはひらひらと手を振って、踊るようにその場をあとにした。ミナも軽く手を振り、ジャックはペコリと頭を下げた。
ハイテンションのフレデリカがいなくなると厨房は途端にしん、と静まり返った。
「なんかよくわかんなかったねー。いつものことだけどさ」
ミナは自分とフレデリカの分の食器を片しながらジャックに言った。
薬草とか薬と名のつくものの話をしているときなどは、急に話が飛ぶことはまあまああるのでミナはさほど気に留めていなかった。席を立ち、流しに食器を持って洗おうとして、そうだ、ついでにジャックの分もやってあげよう、と思って振り返った。
「ジャック、良ければあなたの分もやっておくよ。……ジャック?」
ミナは座ってただ皿を眺めているジャックの横顔が目に入り、その姿が少しおかしかったのでどうしたのだろうと彼の名を呼んだ。なんだか、疲れているような、動揺しているような、難しい顔をして微動だにしない。
「……ッ! ああ……悪いな。オレ今日は早めに寝ようと思う」
彼は急にミナの声で生き返ったように、笑顔を作り慌てて取り繕った。
「そっか。そのまま置いといていいよ」
ミナがそう言うと、ジャックは礼を言うなり逃げるように出て行った。その姿を見送りながら、ミナは首を傾げた。フレデリカといいジャックといい、変なの。
――それより、サキュバスについて少しでもわかるといいな。
変な二人のことはどうせ明日には元に戻ってるのだから、気にするほどのことではない。
ミナの懸念事項はもっぱらサキュバスだった。だってもし殿下に何かあったら……そんなの絶対にイヤだ。
流れる冷や水の中で手を動かし、ミナは一人で本日最後の仕事を行った。




