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「へっ?」
ミナは肘をつくのをやめて、説明を聞こうと姿勢を正した。
ジャックは眉根を寄せながら、
「よく考えてみろよ。もし、そのー……サキュバス? っていう名前だっけ? まあそのクスリがさ、クラブ内に充満しているあの煙とニオイだとしたら?」と試すような質問を投げかけてきた。
「だとしたら……?」
質問の意図がよく読めないミナはただ彼の言葉を繰り返す。ジャックが固い表情で告げる。
「うかつにあれを吸えば、オレたちも身体に支障をきたすかもしれない」
「――!」
ミナはハッとさせられた。ジャックの言う通りだ。
もしあの煙と、甘ったるいような劇薬のような、妙なニオイが、どちらかもしくはいずれも薬物・サキュバスだったとしたらリクの二の舞になる可能性は結構高い。ミナ、ジャックとリクに汚染量の差はあっても不調が出てくるのは吸い込む量の問題ではないかもしれない。たしかにそう考えると危険だ。あくまで仮定にすぎないけれど。
だが、そうすると何もできない。何ひとつわからぬままだ。
「だからさ」途方に暮れるミナにジャックが言う。「オレが一人で行く」
「えっ、ええっ? ダメだよ、そんなの! ジャック、あなただって危ないことにかわりはないのに。それなら私も行く!」私だけを守って自分を犠牲にするつもりだろうか。そんなの不平等だ。私たちは、同じ主の使用人なのに。
ミナの剣幕にジャックは「違う、違う」と軽く笑った。
「多分あそこは複数で行動するよりも単独のほうが行動しやすい。そこでたとえ何かあっても、オレは一人でなんとか逃げられるさ。前みたいに。でも、ミナはさ、女の子だし……何かあっても一人で逃げられないだろ?」
「…………」
この間のことが蘇り、ミナは何も言い返せなくなった。あの時、リクが来てくれなければ確実にミナはここへ二度と戻って来られなかっただろう。あんな場所で一人にされるのはもう御免だった。
「別にお前が悪いとか、それでのけ者にしようとしてるわけじゃねーよ。まず最初にオレが、せめて少しくらいは役に立ちそうな情報を探ってくる。今より危険を減らしてからのほうが成功する確率もあがる。そしたら一緒に行こうぜ、な?」
「……うん。わかった」
異論はない。ミナは深く頷いた。正直言って、効率的にもミナの身の安全のためにもありがたい申し出だった。
「ふふ」
顔を合わせて親しげに話しあうミナとジャックの後ろで、フレデリカが急にもう我慢できないというように小さく笑った。
二人が振り返ると、フレデリカはなぜかいつにも増してゾッとするような妖艶な微笑を浮かべていた。
二人の視線に気づいた彼女は言う。
「ごめんなさい……、なんだかまるで、何かを準備する猶予をほしがっているみたいに聞こえたから、おかしくって」




