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 午後、今日もフレデリカと「おはようございます」と言って部屋へ入り、せっせと本を出して準備していた。

「なー、……眠い」

 ミナは手を止めてリクの言葉に振り向いた。彼は机にだるそうに顎を載せて今まさに寝ようとしている。

ミナは腰に手を当てて、

「いけませんよ、殿下。今までサボってきた分、学ぶべきことは山とあるんですから」と諭す。

 だいたい、ミナたちが教えられる内容は薬学を除けば基礎中の基礎だけなのだ。ただの入門にすぎない。

 王太子が決まっても決まらなくても、さっさと次の段階、きちんとした教師陣にバトンタッチして立派な王子になってもらわないといけないのだ。本来ならば社交デビュー前に終わっているような入門なんぞに時間をかけている暇は無い。一日でも早く終わらせるべきなのだ。だが、そうなるとミナとフレデリカは晴れてお役御免となる。

 ――少し、寂しいかも。

 リク本人や王宮にとっては喜ばしいことだけれど、そうすればこうして関わることはもう二度と無いから、少し寂しくなる。

 任を果たせば大方ミナもフレデリカも故郷に帰されることになるだろう。

 色々あったけれど、結構楽しかったな、なんてまだ終わったわけじゃないのにしんみりとする。それにミナは家があまり好きじゃない。このお城での生活は苦労したけれどやりがいはあるし、不愉快な自宅にいるよりはるかにいい。

「……リク王子?」

 故郷のことを考えてしまったせいで少し胸がムカムカしてきたとき、フレデリカの声でそういえば今は授業の時間だ、とミナは故郷に飛んでいた意識を現在に戻した。そして「ああ~……」と悲痛な声を上げた。いつの間にかリクがベッドに潜り込んでいる。本日は開始前から授業放棄の模様。

 がっくりと机に手をつくミナに代わって、フレデリカがベッドに近寄ってリクに確認する。

「今日もお眠りになるんですか? まあ……」

 フレデリカは基本、自分が興味のある事以外は相手を屈服させるために強引な手段を取らない。ワガママ王子はどうせ言っても聞かないので諦めているのもあるのだろうけれど。彼女は寝ると言うリクに素直に従った。

 ミナはリクを覗き込むフレデリカの後ろ姿を見つめながら、ごく自然に、男性である彼のベッドに近寄る彼女に、二人が特別に親密に思えてきて、なんだかもやっとした。

 仲が良いのはいいことのはずなのに、二人の仲を拒否したがる自分がいる。

 かつて空気扱いされていたときの怒りとは別の不快感を覚えていた。でもその理由がなんなのかミナにはちっともわからない。ミナのほうが彼ともっとすごいことをしたし、最近はフレデリカよりも好かれていると思っていた。それなのに、彼女のほうがいくつも上の親密さを醸し出してくる。

 もしかして、それが気に入らないのだろうか。リクと一番仲が良いのは自分であってほしいと傲慢にもそう思っているのだろうか。

 しかし、そうだとすると私は一体何様のつもりなのだろう……と軽く己に引いてしまう。しまった、余計もやもやしてきた。うーん、とうなっているミナに、フレデリカは悠揚と歩きながら近づき、寝入ったリクに気遣って声を落として言う。

「ねえ、ミナ。最近、殿下よく寝るわよねぇ?」

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