34
それから数週間、リク王子の王子教育のほうは少しずつではあるが、着実に進んでいた。
彼がミナの部屋に上がり込んで仰天させた翌日、ミナは去り際の彼の様子が引っ掛かって若干心配していたのだが、会えば別段変わった様子はなかった。強いて言うのなら、気が削がれたような、ほんの少し大人しくなった感じだ。だが大人しくなったからといって授業が大変であるのは変わらない。
リクには「やだ」というたった一言であるが大変強力な武器がある。
授業は一応学びやすさや優先度に応じて出来るだけ効率的に進められるよう、ミナはあれこれ考えて工夫しているのだが、そうやってせっかく考えても、大抵計画はおじゃんになる。
フレデリカが私情に走らずまじめに監視役を務めるようになったせいもあって、集中しているときは真剣に授業を受けているし、一度か二度言えば習得してくれるという素晴らしさだ。しかし、さあこれをやりましょう、と言ってもリクが「やだ」と言えば天地がひっくり返ってもやらない。これが非常に面倒なのだ。
しかもこの「やだ」はどこから飛んでくるのか予想がつかない。先日わりかし楽しそうに学んでいた分野を、今日になって突然やりたくないのか「やだ」と言い出す。おそらくその日の気分かなんかで決めているのだろう。気まぐれもいいところだ。対策のしようがない。
ひどいときはこのペン使いたくないと言ってぶすぶすと枕に刺して穴を開け始めたり、腹が減ったと言って食事をし出して中断せざるを得なくなったり、飽きたと言って寝台の金の房飾りを引っこ抜きミナの三つ編みにくくりつけて取れなくなり、しかもあとでなぜかミナだけが女官に怒られたり、眠いと言って「目覚め薬ってどうやって作るんだ?」とまんまとフレデリカを罠に引っ掛けて彼女の詳細すぎて眠くなってくる子守歌でミナまで眠らされ授業がつぶれてしまったり、と色々とやられた。これでは教育というより保育に近いではないか、とミナはげんなりと肩を落とした。
それでも勉強してくれるようになったのだから、以前よりはずっといい。残念ながらクラブへは相変わらず通っているみたいだが。
ミナは今は翌日の気力・体力必須の保育に備えて夜間は外出しないことにしている。
王族教育、という面で見ると低俗な場所への出入りも止めさせたいところだが、ミナの最優先任務は必要な知識を叩きこんでやることだ。なのでそちらに集中することにした。
そんな複雑な状況ではあるが、進展はあるのでまあまあ満たされながらも日々を送っていた。




